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第28話

 ロゼッタが怯えないように注意を払いつつ、ルミとヘイデンは談笑しながらライザ国まで続く道を歩き続けた。ロゼッタは会話に加わらず彼女らの後ろをついていく。

 ルミとヘイデンが楽しそうに話してるのを見ながら、ロゼッタはため息をついた。

 ロゼッタはとりとめのない会話が苦手だった。連絡事項を伝えたり必要のある話なら出来るが、ああいう目的のない「話すための話」が出来ないのだ。女性にしては変わっているかもしれない。しかし苦手なものは苦手なのだ。

 そうこうしている内に、三人の視界に大きな街が映った。あれがライザ国に違いない。三人はライザ国の城下町へと向かった。

 街の様子は一見すると戦争中とは思えない穏やかな空気が流れていた。道行く人々の表情は危機感などという言葉とは無縁そうだ。だが時折ピリピリとした雰囲気も感じる。街にたどり着いてから何人か鎧の兵士にすれ違ったが、その時にちょっと緊張感が漂うのだ。

 三人がこの街に来た目的は情報収集である。風のジュエルについて知っている人がいるかどうか。ルミ達は街の中心部、噴水のある広場まで歩いた所で、


「手分けして街の人に聞き込みしよう。しばらくしたらここに集合だ。いいな?」


 ヘイデンの提案にルミとロゼッタはうなずいた。三人はそれぞれ別の方向に別れた。

 一人になったロゼッタは大通りを歩きながら目をキョロキョロさせてすれ違う人々の様子を見た。そして困惑する。


「どうしよう……話しかけられない……」


 情報を聞くだけだから臆する事はないと自分に言い聞かせたが、口が鉛の様に重い。

 だがルミとヘイデンは今頃がんばって聞き込みをしているだろう。彼女らより年長者である自分がこんな有様でどうするのか。

 意を決したロゼッタは、近くを歩く人の好さそうな老紳士に狙いを定めた。その老紳士は柔和な表情で大通りの隅っこをゆっくりと歩いている。あの人なら話しかけても邪険に扱われたり、ましてや噛みついてきたりはしないと思われる。

 ロゼッタは夢遊病者の様な足取りで老紳士に近づくと、ためらいながらも勇気をふりしぼって話しかけた。


「あああああのおのおののののおすすすすすすうういいいいいまあまあまあせせえせえせせんんん」


 老紳士はキョトンとした目でロゼッタを見ている。

 しまった……。ロゼッタの胸中に激しい後悔の念が湧きあがった。彼女は緊張するとどうしようもなくどもってしまう。恐らく、いや、十中八九変人だと思われただろう。

 再び口が動かなくなったロゼッタをしばらく見上げていた老紳士は、優しく聞き返してくれた。そのお陰でロゼッタは少し落ち着きを取り戻し、時々どもりながらも何とか風のジュエルについて尋ねた。

 老紳士は柔和な表情を崩すことなく、のんびりした口調で、


「風のジュエルならここからずっと北にあるクライン帝国の皇帝が管理しておるよ」


 これは有益な情報だった。緊張がとけたロゼッタはほっとして表情を緩めた。その顔を見た老紳士は彼女に優しく語りかけた。


「お嬢さん。笑顔が素敵だね」


 ロゼッタは顔が赤くなってしまった。老紳士はほっほっと微笑すると去っていった。

 噴水の広場に集合した三人はそれぞれ集めてきた情報を交換しあった。といってもルミとヘイデンは大した情報を聞き出せなかったようだ。ロゼッタが老紳士から聞き出した情報が一番有益だった。


「なるほど、北のクライン帝国か。ロゼッタさん、ナイス!」


 ヘイデンは親指を立ててロゼッタをねぎらった。ルミも笑顔でロゼッタを褒めた。ロゼッタは恥ずかしかったが、悪くない気分だった。

 行き先が決まったので、ルミ達は北門から街を出ようとした。しかしここで彼女達は足止めを食うのだった。

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