第9話 本社の自爆、爆速の現場急行、そして最大の収穫
「董公! 洛陽にて超ド級の大炎上が発生いたしました!」
進軍中の俺のもとへ、血相を変えた李儒が駆け込んできた。
「何が起きた? 何進のやつ、上手くやったのか?」
「いえ……何進大将軍、十常侍の罠にハマって宮中で討ち取られました!」
「……は?」
俺は思わず耳を疑った。
(外部から俺たちを呼び寄せて圧力をかける前に、本人の首が飛んだだと……!? どんなガバガバなリスク管理をしてるんだあいつは!!)
話を聞けばさらに酷い。
大将軍(CEO)を殺されたことに激怒した袁紹(若手エリート幹部)らが、激昂して軍を率いて宮中に突入。片端から宦官(髭のない男)を殺して回るという、収拾のつかない大暴走を始めたというのだ。
「さらに最悪なことに! 宦官の一人・段珪が、幼い少帝(皇帝)様と、その弟君である陳留王(劉協)様をお連れし、宮中から脱出・逃亡いたしました!」
「トップ二人(社長と次期社長)が人質に取られて連れ去られた!? 本社、完全に崩壊してんじゃねぇか!!」
俺は頭を抱えた。
本社役員の権力争いがこじれにこじれた挙句、会社の重要資産(皇帝)を敵に持ち逃げされるという、前代未聞の超ド級トラブルである。
「どうなさいますか董公! 洛陽は現在、火の海で乱戦状態です!」
「迷う必要がどこにある! 皇帝の手配(捜索)と身柄確保が最優先だ!!」
俺は怒鳴った。
現代のビジネスでも同じだ。役員が全滅しようが社屋が燃えようが、会社の「根本的な権利・資産」を確保したやつが次の主導権を握る。ここで皇帝を救出すれば、俺の立場は一気に爆上がりする!
「李儒! 全騎兵部隊を集めろ! 荷物を捨てて最速で追撃だ! 導線は黄河沿い、小平津方面へ絞るぞ!」
「ハッ! 直ちに出撃します!」
◇
俺が率いる西涼の精鋭騎兵隊は、日頃の鍛錬と最適化された馬匹管理のおかげで、圧倒的な機動力を誇っていた。
黄河のほとり――小平津。
激しい息切れとともに逃げ延びていた段珪ら宦官の一味を、俺たちはあっという間に包囲した。
「ひ、ヒィィッ……! 西涼の鬼神、董卓……!?」
逃げ場を失い、俺たちの放つ圧倒的な威圧感(と重武装の兵たち)に絶望した段珪は、もはやこれまでと覚悟を決めたのか、そのまま黄河の濁流へと身を投げ、あっけなく自殺した。
「よし、敵の残党を掃討! ……で、皇帝陛下と陳留王様は!?」
馬から飛び降りた俺は、川沿いの草むらを捜索させた。
すると、夜露に濡れ、徒歩でトボトボとさまよっていた二人の幼い少年を見つけた。
兄の少帝(劉弁)は、恐怖でガタガタと震え、泣きじゃくって言葉も出ない状態だ。
しかし、その傍らで兄の服の裾をぎゅっと握りしめていた弟――後の献帝となる陳留王(劉協)は、俺の厳めしい大柄な姿を見ても、毅然とした態度で俺を睨み返してきた。
(……ほう。兄貴の方はすっかり参ってるが、この弟(陳留王)の度胸、ただ者じゃないな)
「……そこの巨漢。そなたは何者だ。名を名乗れ」
幼いながらも、威厳に満ちたハッキリとした声。
「――無礼をいたしました。某は破虜将軍、董卓と申します。陛下と陳留王様をお救いするために駆けつけ参りました。……もう安心でございます」
俺は膝をつき、恭しく頭を下げた。
◇
こうして、俺は少帝と陳留王のお二人を無事に保護し、自軍の厳重な警護のもと、煙の上がる首都・洛陽へと堂々の帰還を果たした。
洛陽の門をくぐる俺たちを迎えたのは、逃げ惑う群臣たちと、呆然と立ち尽くす袁紹らの姿だった。
「な……董卓が……皇帝陛下を救出して戻ってきただと……!?」
混乱する本社(朝廷)の幹部たちを横目に、俺はニヤリと口元を緩めた。
(本社の奴らが自爆して勝手に自滅してくれたおかげで、最大の重要資産(皇帝)を無傷でゲットできたぞ……!)
現場の機動力(爆速移動)とトラブル対応力が見事に噛み合った瞬間だった。
こうして、本社の火消しに来たはずの叩き上げサラリーマン(董卓)は、誰もがひれ伏さざるを得ない「最高のカード」を手に、本格的な政権掌握へと足を踏み入れることになるのだった。




