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現代の工場勤務だった俺、董卓に転生したので酒池肉林を楽しむつもりが、気づけば天下を統一していました  作者: 水原伊織


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第4話 現場を知らぬ本社エリートと、裏で回す兵糧のロジスティクス

数日後。


俺はついに、念願だった「異世界(転生)の醍醐味」をひとつ達成した。


「……ふぅ」


ふかふかの寝台の上で、息を吐く。

傍らには、恥ずかしそうに身を縮めて布を被る、極上の美女。


いやあ……素晴らしい。

現代の工場勤務時代には逆立ちしても縁のなかった、息をのむような美女との初夜である。

よくよく聞いてみれば、彼女は現地の豪族が董卓(俺)の機嫌をとるために献上してきた上客(=良家の娘)らしい。権力ってすごい。


(最高だな、董卓……! この時代の『いい女』のレベル、高すぎないか?)


欲望が満たされ、俺の「酒池肉林」への野望はさらに燃え上がった。

一週間体験できればいいやどころではない。一生この生活を送りたい。そのためには、一刻も早く戦乱を収め、俺が楽をして贅沢できる「完全自動化されたパラダイス」を築く必要があるのだ。


――だが。

そんな俺のパラダイス計画の前に、最悪の壁が立ちはだかった。


「本社の優秀だけど現場を知らない上司」こと、左将軍・皇甫嵩こうほすうである。



「董将軍! なぜ指定した期日までに全軍の進軍を完了させないのか! 我が方の兵法に照らせば、三日前に美陽へ進出し、敵の側面を突くべきであったぞ!」


本陣の幕舎にて。

朝廷から派兵されてきた総司令官・皇甫嵩は、机を叩いて俺を詰問した。

名門出身で、黄巾の乱でも大功を立てた超エリート将軍。身なりも綺麗で、語る兵法も完璧な正論だ。


……そう、「机の上では」完璧なのだ。


(出たよ……現場の状況を無視して、本部からの指示書だけ見て文句言ってくるタイプの上司……!)


俺は湧き上がる頭痛を抑えながら、心の中でため息をついた。


「皇甫将軍。お言葉ですが、涼州の補給路は過酷です。急進すれば兵糧の輸送が追いつかず、途中でラインが停止……いえ、兵が飢えます」


「兵糧だと? 輸送隊にはしかるべき日数を指示してある! 兵は国家のために命を捨てるのが誉れ。多少の飢えなど気合で乗り越えさせよ!」


(気合でラインが動くかボケが!!)


思わず工場勤務時代の血が騒ぎそうになる。

こいつ、兵糧の『在庫回転率』も『輸送リードタイム』も全く計算していない。涼州の泥道と異民族のゲリラ戦を考慮せず、洛陽の舗装された街道と同じ計算で指示を出しているのだ。


「……分かりました。皇甫将軍の仰る通りに」


俺はフッと笑い、恭しく頭を下げた。

表立って本社エリートと揉めても得はない。サラリーマンの基本は「表面上はイエスと言っておき、裏で完璧に現場を回す」ことだ。


幕舎を出た俺は、すぐさま待機していた李儒を呼び寄せた。


「李儒、例の『ジャストインタイム(適時適量)補給計画』を発動しろ」


「ハッ! すでに手を打ってあります、董公」


ニヤリと笑う李儒。さすが俺の仕込んだ優秀な中間管理職だ。


俺たちは皇甫嵩の「無謀な突撃命令」を無視……はせず、表面上は従いつつ、裏で手回しを開始した。


まず、皇甫嵩の部隊が通るルートの「事前在庫(前線デポ)」を、涼州の現地豪族や顔馴染みの異民族を使って極秘裏に設営。

さらに、皇甫嵩軍の無駄に重い輸送車を、軽量な「涼州仕様の小型馬車」に組み替えさせ、輸送ラインのボトルネック(停滞)を力技で解消したのだ。


結果――。


「な、なに……!? なぜ我が軍の兵糧が切れないのだ!? しかも予定通りの地点に、すでに補給拠点が完成しているだと……!?」


前線で指揮を執っていた皇甫嵩は、兵糧が途切れず届き続ける奇跡に、目を白黒させていた。


「いやあ、皇甫将軍の素晴らしいご指揮のおかげで、兵たちの士気も高く、輸送も『たまたま』上手くいったようですな!」


白々しく手柄を譲る俺。

皇甫嵩は「む、むう……そうか……」と狐につままれたような顔をしている。


(よしよし、これで皇甫嵩の顔も立ったし、無能な指示で現場の兵が餓死するのも防げた。完璧な『改善』だ)


裏でロジスティクスを完璧に回し、無駄な損害をゼロに抑えた俺。

この手柄と現場からの絶大な信頼は、すべて俺(董卓軍)のポケットに入ることになる。


(さあて! 面倒な仕事は全部裏で仕組み化したし、今夜こそ献上された美女たちと、豪勢な宴を……!)


「董将軍! 皇甫将軍の部下である『孫堅』と名乗る若い武将が、将軍の面会を求めて押しかけてきております!『董卓は軍令を軽んじている、首を斬るべきだ!』と息巻いており……」


「……は?」


せっかく裏方仕事をこなしたというのに、今度は元気すぎる若手イケメン社員(孫堅)が噛みついてきたらしい。


俺の酒池肉林への道は、あまりにも遠かった。

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