第3話 無双プレイと、恐ろしいほどの万能感
「董公ーッ! 大変でございます!!」
駆け込んできた武将の報告は、まさに歴史の筋書き通りだった。
涼州――西北の国境地帯にて、韓遂や辺章ら叛乱軍と異民族の連合軍が大規模な決起を起こしたというのだ。
朝廷はパニックに陥り、西方の地理と異民族対策に熟知した俺に「やっぱり董卓じゃないとダメだ!」と、現場復帰の打診を出してきたのだった。
「ここは、あれだな」
俺は思わずニヤリと笑った。歴史を知っている強みだ。
免職からの即座の復権。物語として完璧なV字回復のチャンスである。
「よし、兵を集めろ! 出陣だ!」
俺の号令一発、李儒が構築した爆速の動員システムが稼働し、あっという間に遠征部隊が編制された。
そして、出陣の段になって俺は自分の体に起きた「最大の異変」に気づいた。
「おいおい……馬に乗れるぞ!?」
なにしろ現代の俺は、工場と自宅を軽自動車で往復するだけのインドア派サラリーマンだ。
乗馬体験すらしたことがない。
それなのに、鞍に跨がった瞬間、まるで自分の足の延長のように馬を自在に扱えているのだ。
……そういえば、史実の董卓は生まれつき武芸に秀で、腕力が非常に強く、馬の両側に弓袋をつけて、駆けながら左右どちらの手でも弓を引けたという規格外の怪力無双だったはず。
(自分の体に、超高スペックな『プロの動作』が完璧にインプットされてるんだ……! まるで最新鋭の大型重機を脳直感で動かしてるみたいだぞ!)
めちゃくちゃ強靭になった体に、テンションが上がりまくる。
そうして迎えた、涼州での初陣。
目の前に広がる無数の敵影を見た瞬間、俺の恐怖心は吹き飛んでいた。
「小さ! 敵兵、小さっ!?」
視野が広い。
敵の動きが遅く見える。
俺は重い大斧を片手で軽々と振り回しながら、陣頭切って敵陣へ突撃した。
「ハハハハッ! 邪魔だ邪魔だぁッ!」
ズバァンッ!と大音響が響き、群がる敵兵がまるで藁人形のように吹き飛んでいく。
左右から迫る敵には、駆け抜けざまに弓を引き絞り、両手で正確に射抜いて見せた。
(な、なんだこれ……! FPSの無双ゲームをイージーモードでプレイしてる気分だぞ!?)
血飛沫が舞い、絶叫が響く凄惨な戦場。
だが、俺のどこかで「どうせこれはリアルな夢なんだ」という冷めた感覚があった。だからこそ恐怖もなく、完全に調子に乗り切って暴れまわることができたのだ。
「董公の武勇、まさに鬼神の如し……!」
「凄まじい……! やはり我らが主君は将軍の器だ!」
後ろからついてくる西涼の猛者たちが、狂喜乱舞の歓声を上げる。
結果は、圧勝だった。
俺の圧倒的な前衛能力(という名のゲーム感覚無双)と、裏で李儒が完璧に回してくれた兵糧補給のラインが見事に噛み合い、涼州の叛乱軍を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
◇
「破虜将軍……ねぇ」
戦後、朝廷から届いた恩賞の品と辞令を眺めながら、俺はニヤリと口元を緩めた。
見事に不死鳥のごとく現場復帰を果たし、一気に昇進まで勝ち取ったのだ。
(ふふふ……どうだ? これで実績も作った、地位も上がった! ついに、ついに俺の思い描いた『酒池肉林のパラダイス』が始まるんじゃないか!?)
俺はウキウキしながら、さっそく侍女たちに宴の準備を命じようとした。
だが、世の中そう甘くはない。
「将軍! 破虜将軍への昇進に伴い、管轄区域の拡大と新兵の大量編入、さらには現地豪族からの献上品と陳情書が山のように届いております!」
李儒が、引きつった笑みを浮かべながら、俺の身長ほども積み上がった木簡(書類)の山をドッサリと運び込んできた。
「……李儒? それは何だ?」
「何、とおっしゃられましても……『増員と業務拡大に伴う決済書類』でございます。さあ将軍、承認をお願いします」
「……。」
どうやら、事業規模が大きくなればなるほど、書類仕事と現場の不具合も倍増する――というサラリーマンの法則からは、いくら無双しても逃げられないらしい。




