第24話 「あの頃の董卓専務」とダイバーシティ推進
洛陽の朝廷で「専務(相国)の椅子」を巡る諸侯たちの醜い内ゲバが泥沼化するにつれ、都の情勢は日に日に悪化していった。
誰も責任を取らない決裁滞留。マウント合戦による政治の停滞。
そして、自軍の維持費を捻出するために諸侯が勝手に民へ課した重税――。
都の経済は急速に冷え込み、街には失業者と不満があふれかえった。
「くそっ……! 袁紹の奴、また前例がないと突っぱねて予算を下ろさないのか!」
書類の山が積み上がる執務室で、曹操は頭を抱えて吐き捨てた。
不眠不休で調整に追われ、目の下には酷いクマができている。
「あの豚(董卓)がいなくなれば、全てがスムーズに回るはずだったのに……。なんだこの惨状は……」
ふと、曹操の頭の中に、ほんの数ヶ月前までの洛陽の情勢が思い浮かんだ。
あの頃、董卓が手綱を握っていた時期。
定時退社が徹底され、無駄な会議は削減され、現場には正当な手当が支給されていた。
物流はスムーズに回り、お菓子を貰ってご満悦の少帝(若社長)のもとで、都の経済は確かに回っていたのだ。
(……待てよ?)
曹操はゾクリとした。
(よく考えたら……董卓が仕切ってた時期が、一番給料が高くて残業が少なくて平和だったんじゃないのか……!?)
それに気づいたのは曹操だけではなかった。
都の文官たちも、街の商人たちも、路頭に迷う民たちも、口々に噂し始めたのだ。
「なぁ……ぶっちゃけ、董卓専務の時代が一番暮らしやすくなかったか?」
「『悪逆無道』って聞いてたけど、今の諸侯たちより100倍まともだったぞ……」
都全体に、「あいつ(董卓)が一番マシだったのではないか」という空気が、じわじわと、しかし確実に広がり始めていた。
◇
――その頃。
渦中の当本人はというと、都のラブコールなどどこ吹く風で、涼州刺史(知事)として圧倒的な経営手腕(敏腕)を振るっていた。
「董卓さん! 本日の治安維持パトロール、異常なしッス!」
ピシッと敬礼して報告してきたのは、軍の最高セキュリティ責任者(兼・ホワイト社畜)の呂布である。
かつては荒れ放題で治安の悪かった涼州だが、呂布が率いる精鋭警備部隊が24時間体制(シフト制・残業手当完全支給)で目を光らせているおかげで、強盗や山賊の類は一瞬で駆逐され、治安は劇的に改善していた。
そして、俺が涼州経営で最も力を入れたのが――「ダイバーシティ(多様性)推進」である。
「いいか李儒、現場の基本は『個性の尊重』だ」
「は、はあ……個性の尊重、でございますか?」
元々ここ涼州は、羌族などの異民族と漢民族が入り混じる「人種のるつぼ」だ。
1周目の歴史では、お互いの文化の不理解と差別から、絶え間なく血生臭い衝突が起こっていた。
そこで俺は、現代のコンサル知識をフル動員した。
「羌族の持つ機動力と馬の扱いは、我が軍の物流・警備事業(騎兵)に最適化する! 異民族だからと差別せず、能力に応じた歩合制で正社員登用だ!」
「漢民族の持つ農耕技術と帳簿管理は、インフラ整備と開発事業に投入! 互いの強みを掛け合わせるんだよ!」
文化の壁を取り払い、適材適所の人事配置を徹底。
さらに、異民族の独自の言語や風習を尊重する「社内ダイバーシティ研修」を全軍に導入した。
「お前らの文化も良いし、俺たちの文化も良い! どっちも美味いからオッケー!」という、サラリーマン的な柔軟なコンプラ理念である。
結果、どうなったか。
「董卓様は俺たち羌族を人間として対等に扱ってくれた!」
「差別なく働いた分だけ給料をくれる! 最高のボスだ!」
異民族たちの士気と忠誠心は爆発的に跳ね上がった。
彼らの圧倒的な機動力とインフラ開発能力が組み合わさったことで、砂漠が多く貧しかったはずの涼州は、わずか数ヶ月で交易と物流の巨大ハブへと変貌。
広大なオアシス都市の開発、シルクロード交易の独占、そして安定した治安――。
涼州は今や、「天下で一番豊かなホワイト独立国家」へと成長を遂げていたのだ。
◇
「ふぅ……今日もいい汗かいたな」
夕方、定時で仕事を終えた俺は、涼州の素晴らしい夕日を眺めながら、キンキンに冷えた果実酒をあおった。
隣には、ダイバーシティ推進によって笑顔で働くようになった、健康的で肉付きの良い涼州美女たち。
(ダイバーシティ万歳だな。みんなが笑顔で働いて、夜は美味い酒と肉。これぞ真のカイゼンだ)
都で諸侯たちが「董卓専務……戻ってきて……」と血の涙を流しながら書類の山に溺れていることなど知る由もなく、豊かになった涼州で、完璧すぎるセカンドライフを更新し続ける董卓だった。




