第23話 空席の専務椅子と、泥沼の社内政治バトル
都の文官たちから連日のように『助けてFAX』が届くのを涼州で爽やかにスルーしていた頃、洛陽の朝廷の周辺は、史実とはまったく違う意味でドロドロの地獄絵図と化していた。
史実(1周目)であれば、「悪逆無道の暴君・董卓を倒す!」という共通の敵を前に、一丸となって反董卓連合軍を結成していたはずの英雄たち。
しかし、肝心の「倒すべき悪の暴君」である俺(董卓)は、皇帝を丁重に扱い、残業を減らし、ホワイトなPRを成功させた上でサクッと早期退職(帰郷)してしまったのだ。
結果、何が起きたか。
彼らは「正義の味方」という大義名分を完全に失い、ただの「空いた専務(相国)の椅子を狙う野心家たち」になってしまったのである。
◇
「いいか! 董卓専務が去った今、この朝廷を支えるべきは名門・袁家の当主であるこの俺だ!」
洛陽の宮殿の別館で、袁紹がドヤ顔で言い放った。
「四世三公の血統! 業界内での知名度! どれをとっても俺が次の専務(実質トップ)に就任するのが筋というものだろう!」
「はっ! 笑わせないでいただきたいですね、袁紹殿」
扇子をパチリと閉じて鼻で笑ったのは、曹操だった。
「血統やブランドだけで会社(国家)が回るなら苦労はありませんよ。董卓専務がいなくなった今、求められているのは『実務処理能力』と『スピード感』だ。ITならぬ『兵糧と物流のシステム化』を理解しているこの私こそが、次の専務にふさわしい!」
「なんだと……!? 叩き上げの分際で、この俺に口を挟むか曹操!」
「血筋しか取り柄のないお坊ちゃんに、現場のマネジメントができるわけがないでしょう!」
バチバチと火花を散らす袁紹と曹操。
そこへ、全身から血生臭い威圧感を撒き散らした孫堅が、ドカリと踏み込んできた。
「おいおい、文弱なインテリどもがガタガタぬかすんじゃねえよ」
孫堅は腰の刀の柄に手をかけ、獰猛な笑みを浮かべる。
「企業(軍団)の強さは『現場の武力』だろ? 治安も乱れ、盗賊も湧いてるこの都で、誰が一番力を持っているか……力ずくで教え込んでやってもいいんだぞ?」
「なっ……! 暴力で解決しようなど、まさに野蛮人の発想!」
「孫堅殿、コンプライアンスという言葉をご存じないのですか!?」
血統派(袁紹)、実務派(曹操)、武闘派(孫堅)。
互いに譲らない三者の対立は、まさに泥沼の社内政治バトルへと突入していた。
◇
さらにややこしいことに、そこへ「謎のベンチャー起業家」も参入してきた。
「あの〜……大変失礼ながら、皆様のお話を聞かせていただいておりまして……」
恐る恐る挙手したのは、劉備である。後ろには関羽と張飛が仁王立ちして圧をかけている。
「私、中山靖王の末裔である劉備と申します。実績も資本もございませんが、『皇帝陛下への熱い忠誠心』と『アットホームな社風』だけは誰にも負けません! ぜひ私めにも取締役のポストを……」
「実績ゼロのベンチャーがすっ込んでろ!!」
袁紹・曹操・孫堅の三人に一斉に怒鳴られ、「ひぇっ」と首をすくめる劉備。
こうして、共通の敵(董卓)を失った諸侯たちは、朝廷の空いた専務の椅子と権力を巡って、マウントの取り合いと足の引っ張り合いを開始した。
「袁紹の兵糧ラインに嫌がらせをしてやる!」
「曹操の部下をヘッドハンティングしろ!」
「孫堅の軍にコンプラ違反の噂を流せ!」
史実では「天下の英雄」と呼ばれた男たちが、互いのスキャンダルを暴き立て、社内政治の足引っ張り合いに終始する悲惨な状況。
これには朝廷の老害官僚・王允も頭を抱えていた。
(……ええい! こいつら、口を開けばマウント合戦ばかりで、誰一人として『未決済の書類の山』を処理しようとせんではないか……!!)
董卓がいれば、圧倒的な武力と実務処理能力でこれらを一括管理し、現場を力強く牽引してくれた。
だが、今の諸侯たちは「権力は欲しいが、面倒な現場の実務と責任は取りたくない」というワガママな連中ばかりだったのだ。
◇
――その頃。
平和な涼州の居城。
「……というわけで、洛陽では諸侯の方々が『次の専務の座』を巡って泥沼の争いを繰り広げているようです」
李儒からの報告を聞いた俺は、焼き上がったジューシーな羊肉をごまダレにつけながら、呆れ顔で吐き捨てた。
「バカだねぇ、あいつら。権力持ったらその分『サービス残業』と『無限の書類決済』がついてくるってのに、何が楽しくて争ってんだか」
「本当ッスよねー! 董卓さんの下で定時退社して、こうやって肉食ってるのが一番幸せッスよ!」
隣で赤兎馬のフィギュアを愛でながら肉を頬張る呂布(ホワイト社畜)が、深々とうなずく。
「ま、高みの見物と決め込もうぜ。あいつらが勝手に自滅してくれれば、俺のホワイトなセカンドライフは永遠に安泰だからな!」
「「乾杯〜〜!!」」
都で繰り広げられる愚かな社内政治バトルを対岸の火事として高みの見物しながら、俺たちは今夜も涼州美女たちと健全で楽しい宴を続けるのだった。




