第22話 ホワイト社畜・呂布の誕生
俺が早々に洛陽の本社から手を引き、平和な涼州で悠々自適のセカンドライフを送り始めた影響は、思わぬところにも波及していた。
史実(1周目)では俺が洛陽で首を跳ねる手はずだった執金吾・丁原。
彼もまた、俺がさっさと都を引き揚げたことで政争の波に呑まれ、あっさりと更迭されて涼州の田舎へと戻ってきていたのだ。
そしてある日、その丁原が俺の居城を訪ねてきた。
「董卓殿……いや、董刺史! ぶしつけなお願いなのは百も承知だが、我が配下の呂布奉先を、ぜひ貴殿の軍で雇って(仕官させて)はもらえまいか!」
頭を下げて頼み込んでくる丁原。
今や俺の評判は「朝廷を立て直したホワイト企業のカリスマ経営者」として全土に鳴り響いている。
丁原も「この有能な上司のもとなら、あの大食いで持て余している呂布も大成するだろう」と、円満な移籍(ヘッドハンティングならぬ押し貸し)を狙ってきたのだ。
(まさか丁原のほうから頭を下げて呂布を推薦してくるとはな……)
1周目の生々しい血の匂いと「首チョンパ」の恐怖が頭をよぎったが、俺は快く受け入れた。
「よし分かった! 移籍金(準備金)もしっかり払うし、彼の武勇に見合う待遇を用意しよう」
◇
こうして我が董卓軍に正式加入した呂布だったが――2周目の彼は、1周目とは完全に別人のようになっていた。
「董卓さん! 本日の訓練と巡回ルートのチェック、定刻通り完了ッス!」
目を輝かせて報告してくる呂布。
それもそのはず、俺が提示した雇用条件が破格すぎたのだ。
残業なし(定時退社徹底)。
業界最高水準の高給与(歩合+特別手当)。
最高級の社用車(赤兎馬)を全額会社負担で支給。
肉と酒の福利厚生(定例ランチ会&懇親会)。
前職(丁原のもと)でブラックな労働環境に疲弊していた呂布にとって、ここはまさに天国(ホワイト企業)だった。
「マジで董卓さんの下で働けて最高ッス……! 前の職場なんて『気合で徹夜しろ』とか『手当は雀の涙』でしたからね。一生ついていきますよ!」
すっかり「ホワイト社畜」と化した呂布。
しかし、彼がここまで俺に懐いている最大の理由は、待遇面だけではなかった。
俺が早期から徹底的に叩き込んだ「情報セキュリティ&恋愛リテラシー研修」の成果である。
「奉先、いいか? 『あなたのために何でもします』って涙目で近づいてくる美人には気をつけろ。100%裏があるぞ」
「『あなたのような強いお方に抱かれたい』とか言ってくる女は、マルチ商法か暗殺者(間者)だと思え!」
そんな教育を徹底した結果、恋愛経験の浅い純粋な脳筋・呂布は、女性に対して過剰なトラウマと警戒心を抱くようになってしまったのだ。
「董卓さん……今日、街でキレイなお姉さんに『カッコいいお馬さんですね』って声かけられたんすけど……」
「おお、それでどうした?」
「『出たな産業スパイ! ハニートラップには引っかからんぞ!』って叫んで赤兎馬で爆走して逃げてきました!」
「……お、おう。リスク管理としては満点だな」
女性恐怖症(?)を発症した呂布は、美しい女を見るたびに「ハニートラップだ!」と怯えるようになり、結果として――
「もう女は怖ぇッス……! 旨い肉くれて、残業させなくて、正当に評価してくれる董卓さんのそばが一番安全ッス!!」
と、俺の背後にピタリと張り付くようになったのだ。
(貂蝉どころか、どんな美女を差し向けられても一発で撃退する最強のセキュリティ機能が完成してしまった……)
1周目では俺の首を刎ねた最強の武将が、今や世界で一番頼もしい「忠犬」として俺の隣で肉を貪っている。
王允が裏でどんなハニートラップ(連環の計)を企もうと、この超絶ホワイト化した呂布の前には、何一つ通用しそうにないのだった。




