第19話 専務のPR(イメージ)戦略
涼州から洛陽へ向かう道中は、実に順風満帆だった。
1周目で成功した「現場の福利厚生」と「徹底した業務フローの最適化」はそのまま踏襲。
兵士たちの士気は最高潮を維持し、道中の治安維持も完璧。
そして何より――一日の激務を終えた後に待っている、涼州美女たちとの適度で健康的な酒池肉林(アラフォーの胃腸に優しい赤身肉と低アルコール酒)。
(ここまでは最高だ。完璧すぎるスタートダッシュだぞ……!)
問題は、洛陽に入ってからだ。
十常侍の乱によって混乱する都へと乗り込み、都落ちしていた少帝(劉弁)と陳留王(劉協)の二人を無事に救出。
堂々たる足取りで洛陽に入城を果たしたその夜、俺は優秀すぎる参謀・李儒を執務室に呼び出した。
「李儒。いいか、よく聞け」
「ハッ、何なりと。……しかし董公、少帝様の廃立と、聡明なる陳留王様への付け替えの件ですが、すでに手配の準備を――」
「それだ!!」
俺はバンッと力任せに机を叩いた。
驚いて肩を跳ね上がらせる李儒に、俺は身を乗り出して指を突きつける。
「俺に断りを入れずに余計なことをするな! 特に皇帝のすげ替え(廃立)は絶対NGだ! 厳禁! 違法建築!!」
「な……!? しかし董公、現皇帝はお世辞にも英明とは言えず、朝廷のトップとしては頼りないかと……」
「頼りなくて結構! むしろそれが良いんだよ!」
1周目の最大の失敗は、まさにここにあった。
『仕事ができないから』という現場の理屈だけで安易にトップ(皇帝)をクビにし、お気に入りの優秀な弟(陳留王)に挿げ替えた結果、外部の地方支社(諸侯)から「社内クーデターだ!」「悪逆無道な乗っ取りだ!」と叩かれまくり、挙句の果てに「反董卓連合軍」という大規模な同業他社アライアンスを結成されてしまったのだ。
広報(PR)の観点から見れば、完全な逆風・大炎上案件である。
「いいか李儒。劉弁様を、全面に立てる」
「は、はあ……社長……?」
「そうだ。そしてこの俺、董卓は、裏から懸命に支える、現場叩き上げというポジションを徹底的にアピールするんだよ!」
俺は鼻息荒く、1周目の知識をフル動員して打ち出したイメージ戦略を熱弁した。
少帝を「飾りのトップ」として丁重に祭り上げ、実権(専務としての決裁権)はこちらが握る。
ただし、世間に対する露出は「健気に頑張る若い社長」と「それを温かく見守る苦労人の実務派専務」。
これなら外部からイチャモンをつけられる大義名分を完璧に潰せる!
「李儒、明日から速やかに以下のホワイト広報化(PR)施策を実行しろ」
「少帝様のおやつ(高級和菓子)の定期支給」
「朝政(役員会議)の定時退社化およびノー残業デーの導入」
「少帝様による『董卓専務、いつもありがとう』の定例記者発表」
「……董公、正気でございますか……?」
「大マジだ。これをやらないと我が軍は破滅するんだよ!」
◇
数ヶ月後。
渤海で挙兵した袁紹や、洛陽から逃亡した曹操らが、各地の諸侯に呼びかけて「反董卓連合軍」の結成を画策していた。
『暴虐なる董卓は朝廷を牛耳り、幼主を脅かす悪逆無道の奸賊である! 全国のアナリストや有志よ、集いて董卓を討ち取れ!』
1周目と同じく、威勢のいい檄文が全国へ飛ばされた。
……はずだった。
しかし、今回はまったく展開が違っていた。
諸侯が集まりかけたまさにその時、洛陽の都から、少帝(劉弁)ご本人による「公式プレスリリース(勅書)」が全国へ発信されたのだ。
『え? 袁紹とか曹操とか、なんか言ってるの? 董卓専務は毎日美味しいスイーツくれるし、残業も減らしてくれた超良い人だよ? むしろ勝手に仕事を放棄して逃げ出した君たちの方がコンプラ違反じゃない?』
――全土が凍りついた。
「な……なんだと……!? 皇帝陛下が董卓を大絶賛しておられるだと!?」
諸侯の陣営は大混乱に陥った。
「悪逆無道の暴君から皇帝をお救いする」という最大の大義名分が、当の皇帝本人の『董卓専務、マジ神上司』という無邪気な一言によって、木っ端微塵に吹き飛んでしまったのだ。
「えーっと……じゃあ俺たち、何のために集まったの……?」
「ただの『優良企業の専務に難癖をつけるクレーマー集団』になってない……?」
諸侯たちの士気はどん底まで低下。
袁紹は顔を真っ青にして言葉を失い、曹操は「くそっ、あの豚(董卓)……いつからあんな高度なPR戦略を覚えたんだ……!?」と苦虫を噛み潰したように天を仰いだという。
連合軍結成の動きは、戦う前から完全に空中分解。
洛陽の執務室でその報告を受けた俺は、高級なお茶をすすりながら、ニヤリと勝利の笑みを浮かべたのだった。
(勝った……! 2周目のファーストミッション、完全クリアだ!!)




