第14話 身に覚えのない「暴君」のレッテルと、虎牢関の憂鬱
歴史の歯車は、容赦なく俺を死へのカウントダウンへと巻き込んでいく。
俺の強引なトップ交代(献帝の即位)に激しく反発したエリート幹部・袁紹が、ついに洛陽の都を飛び出していってしまったのだ。
「董公! 袁紹を追討し、首を跳ねるべきです!」
鼻息を荒くする李儒に対し、俺は首を振った。
「いや……追い詰めるのは良くない。ここは彼に『勃海太守』のポジションを与えて、公認の役職で懐柔しよう」
角を立てず、敵対を避ける。サラリーマン時代に学んだ「大人の対応」だ。これなら袁紹も矛を収め、俺との共存を選んでくれるはず――そう思っていた。
だが、甘かった。
数ヶ月後、俺のもとに届いたのは「反董卓連合軍、結成」という衝撃のニュースだった。
袁紹を盟主とし、各地の有力諸侯が結託して俺を倒すために大軍を興したというのだ。
◇
(おかしい……なんでだ……!?)
陣幕の中で、俺は一人頭を抱えて頭を悩ませていた。
(そんな、歴史書に書かれているような『暴政』なんて、俺は絶対やってないはずだぞ……!?)
本で読んだような「住民を虐殺した」とか「宮殿の財宝を強奪した」なんて暴虐は一切やっていない。
むしろ、李儒や朝廷の連中の面倒くさい言い分もちゃんと傾聴してきたし、西涼の兵士たちだって無駄に暴れ回らないよう、シフト管理と福利厚生を徹底してきた。
呂布だって、日頃の訓練以外は肉を食って愚痴を言うだけの、案外大人しい奴だ。
(実際……歴史の董卓も、こんな感じだったのか……?)
ふと、そんな疑問が脳裏をよぎる。
現場のカイゼンを行い、組織を円滑に回そうとしていただけなのに、外からは「涼州の野蛮人が朝廷を牛耳った」「前社長を降格させた悪魔だ」と尾ひれがついて伝わり、勝手に敵を作っていったのかもしれない。情報戦(イメージ戦略)の恐ろしさを、俺は身をもって知ることになった。
◇
理由はどうあれ、来ちまったものは迎撃するしかない。
俺たちは連合軍を迎え撃つべく、天下の要塞――虎牢関へと出陣した。
関所の楼閣の上に立ち、眼下に広がる連合軍の無数の旗印を眺める。
その隣では、退屈そうに大欠伸を噛み殺している男がいた。赤兎馬を脇に控えさせた我が軍の最高戦力、呂布奉先である。
「董卓さん……あいつら、まさに『烏合の衆』だぜ。旗ばかり立派で、陣形はガラ空きだ」
呂布が鼻で笑いながら、眼下の敵軍を指差す。
「……まあな。だが、数だけは圧倒的に多い。下手にこちらから攻め込んで包囲されたら厄介だ。じっくり守りを固めるのが上策だよ」
「へいへい。まあ、向こうから登ってきたら、片端からぶちのめすだけですけどね」
肩をすくめて方天画戟を弄ぶ呂布。
確かに、こういう戦場の最前線にいる時の呂布ほど頼もしい存在はない。武力100のモンスターが味方にいるのは、最高の心の支えだ。
しかし――俺の心の奥底にある「本当の恐怖」は、どれほど頼もしい部下がいても消えてはくれなかった。
(……マジで、俺の寿命はあと何年なんだ……?)
敵の圧倒的な大軍を前にしながら、俺の頭の中を占めていたのは、目の前の戦いよりも「この先の未来」だった。
虎牢関で勝とうが負けようが、歴史通りならこの後、洛陽を焼いて長安へ遷都し、最後は……王允の連環の計にハマった呂布に裏切られて死ぬ。
(……大丈夫、これは夢だ。フルVRの超リアルなシミュレーションゲームなんだ……そうじゃなきゃ、やってられない……!)
眼下に広がる広大な大軍勢と、隣に立つ最強の武将。
その圧倒的な臨場感に押し潰されそうになりながら、俺は必死に「これは夢だ」と自分に言い聞かせ、ガタガタと震えそうになる膝を強く踏みしめるのだった。




