第12話 暴走する神参謀と、夢という名の現実逃避
丁原の部隊を完全に吸収したことで、洛陽における軍事力は、俺――西涼軍団の完全な一強状態となった。
圧倒的な兵力を背景に圧力をかけると、それまで威勢の良かった袁紹ら朝廷のエリート官僚たちも、手も足も出ずに押し黙るしかなかった。社内の主導権は、完全に俺が握ったのだ。
……だが、ここから「デキすぎる参謀」こと李儒の爆走が、さらにギアを上げていくことになる。
◇
「董公。朝廷の要職である『司空』の地位、空けさせておきましたぞ」
ある日、李儒が何でもないことのように報告してきた。
「……は? 空けさせたって、前任の劉弘殿はどうしたんだよ」
「はっ。『近頃の天候不順や天災は、司空である劉弘の徳が足りぬゆえ』と理屈をつけ、免職に追い込んでおきました。これで董公が新たな司空へと就任できます」
(いやいやいや! 天候不順を役員のせいにしてクビにするとか、どんな超理論だよ!!)
理不尽すぎる人事にドン引きした俺だったが、李儒の「気の利き方」はそんなレベルでは留まらなかった。
「さらに、懸案事項であったトップの交代劇も完了いたしました」
「……トップの交代?」
「はい。何太后に圧力をかけ、頼りない少帝・劉弁様を廃して『弘農王』へと降格させました。そして、かねてより董公がお気に入りであられた弟君の陳留王・劉協様を、新たな皇帝(献帝)として即位させておきましたぞ!」
李儒は至極得意げに胸を張ってみせた。
(お前……マジで何勝手なことしてくれてんだぁぁぁっ!!??)
確かに俺は以前、救出の現場で「陳留王(献帝)のほうが度胸があって肝が据わってるな」と褒めた。お気に入りだったのは事実だ。
だが、だからと言って勝手に皇帝を挿げ替えるのは、現代で言えば「気に入った優秀な専務を勝手に社長に据えて、現社長をクビにした」ようなものだ。コンプライアンス的に大炎上どころの騒ぎではない!
◇
当然、息子の少帝を勝手に引きずり降ろされた生母・何太后は激怒した。
「董卓ッ! 貴様のような涼州の野蛮人が、我が息子の帝位を奪うなど断じて許さんぞ! この恩知らずめが!」
宮殿ですれ違うたびに、鬼の形相でヒステリックに絡んでくる何太后。
「いやぁ、太后様、まあ落ち着いてくださいよ。これも国家の安定(組織改革)のためでありましてね……」
俺は「社内の厄介な創業家ババア」をなだめるかのように、苦笑いを浮かべながら適当にいなしていた。これ以上事を荒立てたくなかったからだ。
しかし――面倒そうにため息をつく俺の姿を、あの男が見逃すはずがなかった。
「……董公のお心を煩わせるなど、言語道断」
数日後。
李儒は何太后を「永安宮」という宮殿の一角に強制幽閉。そして……間もなく、毒薬をもってあっさりと殺害してしまったのだ。
「董公。これで鬱陶しい何太后の雑音に悩まされることもなくなりましたぞ」
平然と殺害報告をしてくる李儒。
(ひ、ヒエッ……!! クビにするだけじゃなくて、物理的に消し去った……!?)
あまりの冷酷さと手早さに、俺の背筋に冷たい汗が吹き出した。
参謀が気を利かせて裏で汚れ仕事を片付けてくれるのはありがたいが、やっていることがサイコパスすぎる!!
◇
精神的な胃胃痛に耐えかねた俺は、珍しく自室に呂布を呼び出し、酒を酌み交わしながら相談してみた。
「なあ、奉先……。李儒のやつ、何太后を幽閉して殺しちゃったらしいんだけどさ……さすがにやりすぎじゃないか?」
焼き肉を豪快に頬張っていた呂布は、酒をゴクゴクと飲み干すと、案外あっけらかんとした顔で言った。
「んー? まあ、李儒のやつも、董卓さんに気を遣ってやってることだと思いますけどね。それにさぁ……あいつら(何太后や何進)だって、今まで権力に任せて好き勝手やってきたんだから、自業自得じゃないですか? 俺は別にあいつらがどうなろうと、どうでもいいと思いますけどね」
「……まあ、お前がそう言うなら、そうなのかなぁ」
呂布のサバサバとした返答を聞いて、俺も「まあ、仕方がないか……」と自分を納得させるしかなかった。
(……はぁ。本当に、これがゲーム(夢)の世界で良かったよ……)
もしこれが本物の現実で、俺が自分の意思でこんな殺伐とした暗闘を指図していたとしたら、今頃罪悪感と恐怖で精神が崩壊していただろう。
「これはフルVRの超リアルな歴史シミュレーションゲームなんだ」という強力な現実逃避(自己防衛フィルター)のおかげで、俺のメンタルはギリギリのところで保たれていた。
こうして、前社長(少帝)を降格させ、創業家(何太后)を物理的に排除した俺は、新社長(献帝)を全面に立て、洛陽の完全なる絶対権力者として君臨することになったのだった。




