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現代の工場勤務だった俺、董卓に転生したので酒池肉林を楽しむつもりが、気づけば天下を統一していました  作者: 水原伊織


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第11話 最凶のヘッドハンティングと、画面の向こう側の現実

それからというもの、呂布は頻繁に俺の幕舎へと足を運ぶようになった。


最初は愚痴をこぼしに来るだけだったが、俺が「うんうん」と話を聞き、美味い酒と肉を振る舞い、労務環境のカイゼン(福利厚生)について熱く語るものだから、すっかり居心地が良くなってしまったらしい。


そして、ついにその日がやってきた。


「董卓様……! 俺、もうあの頭の固い親父(丁原)の下で働くのは限界です! 俺を董卓様の軍に加えてください!」


目を輝かせて直訴してくる呂布。

いわゆる「他社からの自発的な転職希望」だ。武力100の超優秀な人材が向こうから転がり込んでくるのだから、経営者としては願ったり叶ったりである。


「よし分かった! じゃあ俺が直々に丁原殿のところへ行って、角が立たないように円満移籍ヘッドハンティングの交渉をしてきてやるよ」


サラリーマンの基本は、円満退社と穏便な引き抜き交渉だ。

俺は呂布を連れ、丁原の陣営へと出向いた。



「何だとッ!?」


通された陣幕の中、執金吾・丁原は机を叩いて立ち上がり、顔を真っ赤にして怒声を上げた。


「いやぁ、丁原殿。そう怒らずに話を聞いてくださいよ」


俺は笑顔を崩さず、マイルドなトーンで交渉を試みる。


「我が軍の拡大に伴いましてね、ぜひとも呂布殿の卓越した武勇を我が社……いや、我が軍で活かしていただきたいと思いまして。移籍金(恩賞)の準備も十分にしておりますので、何卒ご検討を――」


「戯けが! 奉先は私の養子であり、我が軍の要だ! 貴様のような無知蒙昧な涼州の田舎者に引き渡せるか! だめだ、絶対にだめだ!!」


取り付く島もない拒絶。

「まあ、他社のエースを引き抜こうとしてるんだから、そりゃ第一声はそうなるよな……」と俺が次のネゴシエーション(条件提示)を考えようとした、その瞬間だった。


――シュッ。


鈍い風切り音が一つ。


「え?」と俺が声を漏らす間すらなかった。


隣に立っていた呂布が、静かに腰の方天画戟ほうてんがげきを一閃させていたのだ。


ドサリ。


次の瞬間、さっきまで怒鳴っていた丁原の頭部が床に転がり、首から大量の血が噴き出した。


「……は?」


あまりに唐突で、あまりに一瞬の出来事。

転がった首の目が、まだ信じられないというように見開かれている。


血塗られた大戟を構えたまま、呂布は吐き捨てるように呟いた。


「……承諾していれば、命は助けたのになぁ」


その声には、情も葛藤も一切なかった。ただ「邪魔な障害物を除けた」とでも言いたげな、冷酷な平熱のトーン。


俺の全身の毛穴という毛穴から、一気に冷や汗が噴き出した。


(う、うわああああああっっ!!??)


心の中では、喉が千切れるほどの悲鳴を上げていた。

首が飛んだ。人間が、目の前で、会話の途中で首を刎ねられたのだ。生臭い血の匂いが鼻を突く。現代日本の工場なら、即座に全社ストップ&労働基準監督署と警察が殴り込んでくるレベルの超大惨事である。


だが――俺は、表面上は奇跡的に「無表情」を保っていた。


(落ち着け……落ち着け俺……! これはゲームだ……フルVRの超リアルな夢なんだ……! 三国志演義のイベントシーンを特等席で見ているだけなんだ……!)


「どうせ夢」「フルCGのリアルゲーム」という強烈な現実逃避の自己暗示。

それだけが、俺の精神(正気)をギリギリのところで繋ぎ止めていた。もしこれが「本物の現実」だと直感してしまっていたら、その場で腰を抜かして泡を吹いて倒れていただろう。



「……見事な手際だな、呂布殿」


俺は震える声を必死に抑え込み、平然を装って重厚に頷いて見せた。


「はっ! 今日よりこの呂布奉先、董卓様のためにその命を捧げます!」


丁原の首を掲げた呂布が、その場に膝をついて恭順の意を示す。


トップを失った丁原の軍勢は、主犯である呂布がそのまま寝返ったこともあり、大きな混乱を起こすことなくあっさりと俺の傘下へ引き取られた。


こうして俺は、洛陽周辺の軍事力をほぼ独占・吸収し、名実ともに朝廷の絶対的な支配者となったのだった。


(……はぁぁぁ……死ぬかと思った……。何が『円満移籍』だよ、この時代の転職活動リスク高すぎだろ……!)


自室に戻った瞬間、俺はへたり込むように豪華な椅子へ倒れ込んだ。


最強の部下(呂布)と、膨大な追加の兵力をゲットしたというのに、俺の胃袋はストレスでキリキリと痛み始めていた。


暴君・董卓としての「本当の地獄」は、ここからが本番だったのだ。

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