帰宅、チンピラ
三人は静かに階段を上がっていく。
途中で何度か戦闘を行いながら、上を目指す。
八層より下でも、他のパーティとすれ違うことが増えた。
他のパーティの気配を感じる度にグレアは気配遮断を使う。
特に問題も起こらず、一層のゲートまで来れた。
清算のカウンターではいつも通り二分割で精算を行う。
問題が起きたのは、探索者協会を出てしばらく歩いてからだった。
三人はいつもと違う、人通りの少ない道を歩く。
後ろをついてくる不快な気配。
<やっぱり、ついてきてるよね>
<ああ>
透の言葉に慧は短く同意する。
<協会を出たところから、だよね>
<多分な>
グレアは静かに考え込んでいる。
人けのない路地に入った時、奴らは距離を詰めてきた。
「おいおい、六層ではなめた真似してくれたよな」
「あの女、どこやったんだぁ?ダンジョンの中にでも置いてきたか?」
グレアは透と慧に隠れるように後ろにいる。
男たちは気配遮断を使うグレアを認識できないようだ。
「あの女、出せよ。痛い思い、したくないだろ?」
男はそう言いながらポケットからナイフを取り出した。
ダンジョン用の武器を外で使わない、という分別はあるらしい。
「そっちは二人、こっちは五人、わかるだろ?」
透は慧に判断を仰ぐ。
<どうする?>
<ここで逃げても、絡まれ続けたら厄介だ。こういう輩は何をするかわからない>
<私が出れば早い>
<駄目だ>
<グレアのことは隠しておきたいよね>
グレアは申し訳なさそうな顔をする。
<警察もダメだよね。相手に先に手を出させる、で良いかな?>
<ああ>
念話を終え、透は男たちに話しかける。
「やめときなよ、君たちも怪我したくないでしょ?」
「あぁん?」
男のうちの一人が怒って透に殴りかかった。
男の突き出された拳に合わせて、右手を出して受け流す。
相手も七層を突破している探索者。
透は少し手加減をして腹部を殴った。
一瞬の出来事だった。
男は膝から崩れ落ちる。
男のパーティメンバーは反応することもできない。
「だから言ったのに、もうやめない?」
男達の空気が変わる。
さっきまでの軽さが消えた。
透の言葉に男たちは逆上する。
「お前達、後悔させてやるからな」
ナイフを持った男がそういうと、男達は透と慧を囲むように位置取る。
二人に向かって一斉に飛びかかってくる。
透と慧は男たちの攻撃を捌いていく。
これまでの人生、人を相手に殴り合うことなんて、ほとんどなかった。
それでも、今の二人にとって、男たちは脅威になり得ない。
ナイフを持った男が透に小さく斬りかかる。
透は半歩ずれて手首を打った。
刃が落ちた音が路地に小さく響く。
横から来た男は慧が足元を払って転ばせる。
「加減が難しいね」
「ああ」
透の言葉に慧は同意する。
数秒後、路地に立ってるのは透と慧だけだった。
「これに懲りたら、こんなこと、やめましょうよ」
そう言った透は路地を出て行く。
当然横には慧が歩いている。
路地には倒れ伏す五人の男たち。
ナイフを持っていた男がくぐもった声で言う。
「…お前らなんか、梶さんの手にかかれば…」
静かに後ろに付いていたグレアが言った。
<奴らの目的は私なんじゃないのか?私が戦えば良かったのではないか?>
その言葉に慧が答える。
<今後もこういうことがあるかもしれない。人間と戦う経験は必要だ。>
<僕たちには経験が足りてないからね>
<…そうか>
三人はいつもの道に戻る。
もう後ろをついてくるものはいない。
道中で慧と別れた。
透とグレア、二人だけの帰り道。
<私は、迷惑ではないか?>
夕暮れの道を歩きながら、グレアは前を向いたまま言った。
<大事なパーティメンバーだよ。迷惑なわけないでしょ>
今日のことだけじゃない。
家にきた時から、グレアはずっと同じことを気にしている。
自分の存在が重荷になっているんじゃないか、と。
<私が邪魔になったら言ってくれ。きっと、私は大丈夫だ>
<一緒に潜るって決めたろ、そんなこと言うなよ>
グレアの言葉に透の語気は少し強くなる。
グレアはしばらく何も言わなかった。
男が最後に発した、言葉が頭に残っている。
男達は一見ただのチンピラの集団にしか見えなかった。
奴らが執拗にグレアを狙う理由。
ダンジョンの出現の影で、何かが動いている予感がした。




