十四層、変化
十四層、敵は人型の鎧。
背丈は2メートルほどの細身。
それでも、立っているだけで独特な威圧感があった。
透と慧はまともにこの鎧と戦ったことはない。
たった一度、グレアが戦っていたのを後ろから見た。
それと、グレアの救出のために少し時間を稼いだだけだ。
それだけでわかった。あの鎧には技術がある。
虚実を織り交ぜた、洗練された剣術。
細さからは想像できないほどの膂力。
十四層のボスは、これまでの敵とはどこかが違った。
三人は階段を降りていく。
すぐに開けた空間が目の前に広がる。
広い石づくりの部屋。壁際には柱が倒れている。
右手の奥に、剣を持った鎧が立っている。
透はその立ち姿に息を呑む。
足を止めたところで、慧が指示を飛ばす。
<計画通りに、行くぞ>
<うん>
透が1番前を走る。
鎧の正面に立ち、視線を自分に向けさせる。
鎧は斜めに切り掛かってくる。
それを透は大きく後ろに飛んで避ける。
その隙にグレアが後ろに回り込んでいる。
慧は鎧の射程ギリギリでいつでも攻撃ができるように構えている。
鎧は透だけを見ている。
剣は横に振られる。
速い、
それでも、見えないほどじゃない。
透は小盾を合わせて流すように弾く。
腕が痺れるが大きなダメージじゃない。
弾いたことによってできた少しの隙に、慧とグレアが踏み込む。
一撃を入れて下がる。
鈍い音が響く。
この戦いはこれの繰り返し。
ミスをしなければ勝てる。
透はそう思った。
体制が整った鎧はすぐに次の一歩を踏み込んでくる。
最初と同じ袈裟斬り。
透はさっきと同じように流すつもりだった。
だが、剣筋が途中で変わる。
刃がわずかに沈む、軌道がそのまま脇腹をえぐる角度に滑った。
まずい、と気づいた時には遅い。
盾の位置が半歩ずれている。
受け損ねる。
その時、鎧の横から衝撃が入る。
グレアだった。
拳が鎧の肩口を打つ。
完全には崩れない。
それでも刃筋はわずかに逸れて、鈍る。
その一瞬、透は小盾を合わせる。
弾くのは間に合わない。正面から受ける形になった。
透は当たる瞬間、流れに身を任せるように軽く飛んだ。
大きく右に飛ばされる。
飛ばされた先で、大きく息を吐いて呼吸を整える。
折れたかと思うほどの痛み。
透は左腕に回復をかけながら鎧の方を向き直す。
鎧の狙いは、攻撃を邪魔したグレアの方に向いていた。
グレアは絶え間なく襲ってくる剣を避けることに徹していた。
前と同じだ。
反撃を欲張ると間に合わなくなる。
グレアはそれを覚えていた。
痛みは引いてきた。
腕の違和感ももうない。
透は鎧の方向に走り込む。
さっきまでのグレアと同じ位置どり。
透が位置をとった時、慧が短く言う。
<水、滑らせる>
慧の念話と同時に、鎧が踏み込んだ先に水溜りができる。
粘性の、体制を崩すための水魔法。
水溜りを踏んだ鎧は滑って剣筋が鈍った。
その隙に三人で叩く。
グレアが頭を、慧が胴を、透が足を打つ。
その瞬間、鎧の継ぎ目に青い光が走った。
危険を感じた三人は各々後ろに飛び退く。
鎧は立ち上がり、胸あてが崩れて、光り輝く青い石が顕になる。
鎧の関節部分から青く光が漏れている。
それを見た慧が呟く。
<…第二形態、か>
それは、今まで戦って来たどの敵とも違っていた。




