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箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
4章

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ダンジョン、仲間

グレアが家に来てから初めての土曜日。


透は探索の準備をしながら少し考える。


もう何度も繰り返したルーティンワーク。

必要なものを鞄に詰めて、武器と防具の状態を確認する。


家族はもう、額に生えたツノも、真っ赤な髪もすっかり慣れてしまった。

月曜以降、澪はグレアとすっかり仲良くなってしまった。

言葉が一方的にしか通じないながらもコミュニケーションをとっているらしい。


そのおかげもあってか、グレアもこの一週間でいくつか言葉を覚えた。


透と慧はこの一週間、これまでの日課だった魔法の研究を一旦止めて、身体強化の訓練に費やしていた。


身体強化の感覚は、慧より透の方が先に掴みかけていた。

回復魔法の使い方が、少し近いのかもしれない。


それでもまだ、持続時間は数秒程度で効果量も低い。集中は簡単に切れて、魔力の流れが途切れてしまう。

実戦で使い物になるようになるまで、もうしばらくかかる。


それでも、訓練の成果を実戦で試せることに胸が躍る。


透は自分の準備を済ませて、グレアに話しかけた。

<武器、本当にいらないの?>

<必要ない、私はずっと素手で戦ってきた>


透は自分の常識と違うことに驚かなくなってきていた。

<そっか、この鞄、グレアの分ね。探索に必要な小物が色々入ってるからさ>

<何から何までかたじけない>


念話でのグレアの言葉遣いは、まだ、なんだか堅苦しい。

<いいよ、最初の探索だしさ、これから覚えてよ>


両親と澪に出かけることを告げると、澪が心配そうな声で聞いてきた。

「本当にグレアちゃんもダンジョンいくの?大丈夫なの?」


透は澪の心配に答える。

「グレアは俺たちと変わらないかそれ以上に強い。ダンジョンの中で危険になるようなことはないよ」


「でも、他の探索者の人とか…」


一週間近く一緒に生活して気にならなくなっていたが、グレアの容姿は少し人とは違う。

ただ、グレアには気配遮断もある。

八層まで転移で飛んでしまえば他の探索者とすれ違うこともだいぶ少なくなる。

だから、なんとかなるはずだ。


「大丈夫だよ、ほら、ちょっと見てて」


<ちょっとごめん、グレア、気配遮断使ってもらえる?>


グレアは頷き、その気配が捉えづらくなる。


澪は驚いた顔で尋ねる。

「消えた、わけじゃないよね、いるのに、いない?」


透は澪に笑いかけながら言った。

「これなら平気でしょ?髪とツノもフードで隠せるし」


澪は不思議そうな顔をしながら納得したようだった。


こうは言ったものの、気配遮断も万能ではない。

気配遮断中は身体強化ができない上に、魔力を使って気配を溶かす性質上、1時間程度しか持たない。


それでも、家を出てからダンジョンに入って、八層に転移するぐらいの時間的猶予はある。


透とグレアは家族に出かけることを告げて、家を出た。


家を出て歩いて数分。

協会近くのいつもの交差点で、大きな武器を背負っている慧と合流した。


ダンジョンに向かって歩く短い距離で、慧は念話を飛ばしてくる。

<グレアがなんの問題もなくダンジョンに入れるか、だな>


<大丈夫、だと思うんだけどね、気配遮断も使ってるし>


<ツノや髪を誤魔化すことができても、人がいることそのものを完全に隠せているわけではない。探索者証どころか国籍すらないんだからな>


慧の不安は尤もだ。

三人は緊張した面持ちでダンジョンの列に並んだ。


いつもは気にならない他の人の話し声がやけに頭に響く。

今日は何層を目標にする、だとか、何を何個取ってくるのがノルマだ、とか。


やけに長く感じる数分を待ったあと、透たちの番がきた。


いつも通り、二人は探索者証を出してダンジョンに入る手続きをする。

その後ろに、気配遮断しているグレアが隠れている。


「お気をつけて、いってらっしゃいませ」


協会員のそんな声が聞こえてすぐ、三人はダンジョンに向かって歩き出す。

心配するようなことは何も起こらなかった。


慧が二人に声をかける。

<問題なく通れたな。転移陣まで走るぞ>


透とグレアはそれに短く答える。

<うん>

<分かった>


三人は草原を駆けた。

ステータスの上がった探索者の走る速度は車やバイクと変わらない。


人を避けながら転移陣に向かって走っていく。


透の目に転移陣が見えた頃、グレアから待ったがかかる。

<何も、ないぞ?出た時と場所は一緒なんだろう?>

<何もない?あそこに転移陣があるでしょ?>


<いや、本当に何もない、ただの草原でしかないぞ>


<前回もおかしいと思っていた。双方向転移陣は七層のボスを倒さないと使えない、と言う見解が主流だった。八層から一層は無条件。一層から八層の転移は七層のボスを倒すことが条件だろうな>


<うーん、そうか、じゃあ七層まで走ってあのゴブリンキング倒すしかないね>


<問題は、気配遮断の持続時間だ>

<そっか。ボス戦自体は余裕でも、一層15分ペースだと保たないね>


<最近の七層は繰り返す奴や挑戦者が増えてきた。七層前の階段で待たされることも考えた方がいい>


透と慧の会話を聞いたグレアが申し訳なさそうに言う。

<すまない、私のせいで…>


その言葉を慧が否定する。

<そう言うな、俺たちはパーティだ。これぐらいのこと、問題はない>


透も乗っかる。

<そうだね、そろそろその堅苦しい口調もやめようよ>


グレアは困った顔で返す。

<善処しよう>


<それだよ>


<まあいい、気配遮断が使えないとなると、深くフードをかぶって走る以上のことはできない。考えても仕方がないことだ、行くぞ>


慧が話を変えて三人は二層の階段に向けて走り出す。

1時間半ほど走って七層の階段前に着く。


その間、グレアは気配遮断を使っていない。

フードで髪とツノは隠れている。

それでも武器も持たない少女がその速度で駆けるのは目立った。

いくつかの探索者パーティが目を丸くしていたが、止められることはなかった。


七層の階段前には社会人らしい探索者が一パーティ、前のパーティの戦闘終了を待っていた。


話を聞いている感じ、彼らの狙いはポーションらしい。

透たちが最初に換金した時と比べてしまうと、多少は換金額は下がった。

それでも、未だ、需要に供給が追いついていない。


ポーションでは大きな怪我は治せないものの、事故の際の延命措置や、手術の成功率を上げる等、使い道が多い。


ポーション自体は八層以下でもドロップするものの、確率は低い。

探索者がポーションが確定でドロップする七層を周回するのは当然の話だ。


七層の階段前で順番を待つこと数分、社会人の探索者パーティが降りていく。


世界にダンジョンが発生してから半年以上が経って、ボス階層についてもいくつかわかったことがある。


ボス階層に他のパーティがいる時、その階層に繋がる階段が薄く光ること。

ボス階層から人がいなくなるとボスがリポップすること。


これらのことがわかってから、過疎地にあるようなダンジョンにも、ボス周回目的で訪れる探索者が増え、都心部に固まっていた探索者人口は少しながら、均される事となった。


前のパーティの戦闘を待っている間、三人は身体強化の訓練をする。


数分して、足音と武器が擦れる音がする。

五人組のパーティが透たちの後ろに並ぶ。

高校卒業したてぐらいのパーティだろう。

後ろのパーティの空気に、透と慧は眉を顰める。


後ろのパーティは透たちを見てヒソヒソと話をしている。

グレアを見ているようにも見える。


ついには、そのうちの一人が声をかけてきた。

「おいおい、ガキが女連れてボス戦かよ」


軽薄な男の言葉に、グレアが男たちの方を向く。

言葉が分からないなりに、馬鹿にされている事に気がついたんだろう。


「お?なんだよ、ねーちゃん、外人か?」

「可愛いじゃねえか。うちこいよ、可愛がってやるからよ」


<無視しろ。絶対に反応するなよ>

慧に従って二人は階段の方を向く。


「おいおい、無視かよ。優しくしてやったら調子に乗りやがって」


後ろから男の声が聞こえた瞬間、タイミングよく階段の光が収まっていく。


「ちっ、運のいいこったな、次会った時覚えておけよ」


透たちは後ろの男たちの捨て台詞を無視して階段を降りていく。


グレアは不思議そうに聞く。

<何を言われていたかは分からないが、馬鹿にされていたのはわかる。なぜ舐められたままにしたのだ?>


グレアの疑問に慧が答える。

<この国ではああいう奴らを相手しても得はない。殺すわけにもいかないしな>


<私の国では、ああいった手合いに舐められてはいけない。殺しても、大した罪にはならないぞ>

<ここは日本だから。人を殺しちゃダメなんだよ>


<そうなのか、肝に命じておく>


そんな話をしながら七層の目の前につく。

七層。

今日は新しい仲間と、まだ抜け切らない苛立ちを抱えたまま、透たちは中へ入った。


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