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箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
4章

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迷い込んだ少女、居候

少しの間、沈黙が続いた。


沈黙を破ったのは慧だった。

<とりあえず、現状の整理だ>


<グレアは気が付いたらダンジョンの中にいた。別の世界からきていて、害意はない。目標は帰ること。でいいか?>


グレアは短く答える。

<ああ、そうだ>


<俺は別の世界への行き方に心当たりはない>

<ただ、ヒントはダンジョンにあると思ってる>

<透、あの立方体、どこにある?>


透は机の引き出しをあけて、立方体を持ってきた。

<これは俺たちがダンジョンの十三層で見つけたものだよ。慧と話した結論は、この世界の物ではない。それがダンジョンの物なのか、異世界の物なのかは分からないけどね>


その言葉を聞いて、グレアの目の色が変わる。

<魔力箱…それは、私のいた世界で作られた物で間違いないと思う>


透は手の中の立方体を見た。

十三層で拾ったときから、これは妙だった。

それを今、目の前の少女は当然みたいに知っている。


慧が言う。

<やはりな。ダンジョンは、少なくともお前の世界と無関係じゃない>


グレアは立方体を見たまま短く言う。

<帰る手がかりになるなら、私はダンジョンに行く>


立方体の話になってから、会話は長くなった。

分かることは少ないまま、分かったことだけを積んでいく。


グレアは帰る手段を探したい。

透と慧は、ダンジョンの先にあるものを知りたい。

三人は、同じ方向を向いている。


話はその先のことに移った。


<グレアを、どうする>


慧の短い質問に、透は答える。

<…協会や国、は危ない気がする。グレアがどう扱われるか、分からない>


透はグレアを見た。

赤い髪、角、別の世界から来た少女。


慧は透に同意する。

<同感だ。ただでさえダンジョンの中で見つかってる。災害の件もある。ダンジョンに対して悪感情を持ってるやつも多い>


<どちらかの家で預かるしかない、が、うちは無理だぞ。親は仕事でほとんど家にいない上に、俺は人と共同生活とか無理だ>


透は少し黙った。

それはそうだ、と思う。

慧の家に置く形は、最初からあまり現実的ではなかった。


部屋の中が静かになる。


グレアも、自分のことを話していることを分かっているらしかった。

さっきより表情が固い。


<…別に、無理に匿わなくてもいい>

<私の存在が公になったら、騒ぎになるのだろう?なら早いうちに縛ってどこかへ渡してくれてもかまわない>


透は眉をひそめた。


<そう言う話じゃないよ>


グレアは答えない。

強がっているのはわかる。

ただ、本気でもあるのだと思う。


透は小さく息を吐いた。


<ちょっと父さんと母さんに聞いてみる>


慧が透を見ながら言う。

<いいのか?>


<ほかにないでしょ?>

透はそう言って、立ち上がってドアノブに手をかけた。


<待ってくれ、私も行く>

<世話になるのをお願いするのは私だ。私が行かなければ筋が通らない>

そう言ってグレアも立ち上がる。


二人は階段を下りる。

ダンジョンの階段を下りるのとは、また違った緊張感に包まれていた。


二人はリビングに入る。

母は台所で料理、父は椅子に座って本を読んでいる。澪は自分の部屋にいるのだろう、リビングにはいなかった。


透は両親に声をかける。


「父さん、母さん。話があるんだけど」

二人は透の方を見たまま固まる。


グレアの気配遮断はもう切れている。


「落ち着いて聞いてほしい。この子はグレア、ダンジョンで出会った。見た目はこうだけど、悪い子じゃないんだ。どう説明すればいいのか難しいんだけど、行く場所がないんだ。せめて、今夜だけでも、うちに置いてあげられないかな」


二人はまだ固まっている。


<私はグレア・ルーヴェン・アルディアと申します。こことは別の世界から迷い込んで来ました。突然押し掛ける形になったこと、非礼を詫びます。一晩だけでも、置いていただけないでしょうか>


母が先に口を開く。

「私は、いいと思う。澪と同じぐらいの年の子が行く当てがないっていうなら…」


父は透を見つめて一息吐いてから言った。

「透は信用してるんだろ。俺は反対しない。それでも家族のことだ。澪にも話をするべきだ」


透は自室にいる澪を大声で呼んだ。


沈黙している家に、澪のどたどたとした足音が響く。


「透、誰?その子」


透は澪にも、両親にしたのと同じ話を繰り返した。


「ふーん、それでその子をうちに住ませるってことね?」

「女っ気のない透が初めて家に連れてくる女の子が、日本人じゃないどころか、地球人ですらないとはね…」

「また、すごいの連れてきたねぇ、透。私は楽しそうだし、いいよ」


透はほっと息を吐く。

これまで両親にほとんど反対されたことは無かった。

ダンジョンに行くと決めたときでさえ、条件は付けられたものの、禁止まではされなかった。

さすがに今回ばかりは、却下されるものだとばかり思っていた。


「ありがとう」

透はそう零したあと、グレアに説明をした。


<どこぞの馬の骨ともわからない私を家に置いてくださること、感謝申し上げます。出来る限りのことはさせて頂きます。何でも申しつけて下さい>


澪がグレアの念話に反応した。

「何これ?頭の中に声が響いてる感じがするんだけど…」

透は念話とグレアが日本語を話せないことを説明した。

家族は誰も魔法を使った経験もない。

家族が念話を習得するには相当な時間がかかることが予想される。


グレアが日本語を覚える方が早いかもしれない。

今のところはグレアから一方的に意思を伝えることしかできない。

しばらくは透が通訳をすることになった。


それで全部がうまくいくとは思わない。

グレアはまだ異質で、この家に馴染んではいない。


それでも今夜は、ここが彼女の居場所だった。


メインで使用してたパソコンがいきました。原因究明と速やかな解決に努めます。解決するまで、今後の執筆作業がiPadになるため、更新頻度がとてつもなく落ちる可能性があります。

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