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箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
4章

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迷い込んだ少女

透は、何から聞けばいいのか分からなかった。


ダンジョンのことですら、まだ分からないことばかり。

階層、魔物、魔力、スキル、ステータス。

どれも、ようやくぼやけた輪郭が見えてきたくらいだった。


今、目の前に角の生えた赤髪の少女がいる。

知らない言葉を話し、知らない国を名乗り、頭の中に直接声を響かせている。


分からないものが、また一つ増えた。

しかも今度は、今までのどれより人間に近かった。


透が尋ねる。

<俺たちはグラウディ帝国もルーヴェン家も聞いたことがない。少なくとも、この世界にはそういった名前の国はない、と思う>

<それに、その見た目。その髪色も染めているようには見えない。角だって額から直接生えているように見える。それは、なに?>


グレアの戸惑ったような声が響く。

<聞いたことがない、だって?ルーヴェン家を知らないのはまだしも、グラウディ帝国は世界で一番大きな国。知らないはずが…>


混乱しているグレアに、慧が言った。

<おそらく、別の世界から迷い込んだ、だろうな。落ち着いて聞け。ここは日本の神奈川県川崎市にあるダンジョンの中。この世界には角の生えた人間はいない。落ち着いた場所で会話をしたいが、その恰好のまま外に出たら騒ぎになるのは確実>


<そうだね、出来れば地上に戻ってゆっくり話をしたいところだけど…登録されてない人間、そのうえ、この格好の人間が外に出るとなると…>


<それだけじゃない。俺たちはおとなしく話を聞いたが、こいつが攻撃のために送られたダンジョンの先兵である、という可能性も捨てきれない。別の世界から来たという話を信用したとして、侵略者でないという保証はどこにもない>


グレアは震えた声で返事をする。

<先兵?侵略者?私はルーヴェン騎士爵家のグレアだ。誇りにかけて、借りを受けた相手に仇なすことはない>


信じてもいい、と透の直感が告げている。


<俺は、信じてもいいと思う。確証はないけど>


<分かった、完全には信じない。ただ、ここで疑っても埒が明かないのは確かだ。外に出るとして、協会に説明するかどうか…だな>

慧は続ける。

<グレアの存在を協会が隠したとて、政府や裏の社会の人間とかから狙われる羽目にはなるだろう。国内だけじゃない。各国の機関が動いても不思議じゃない。魔法、魔力の情報は、それだけ大ごとだ>


<ちょっと待ってくれ、隠れることならできるぞ。これで外に出れるか、確認してくれるか?>


グレアがそう言うと、グレアの気配が、薄く、空気に溶けていく。

よく見るとちゃんとそこにいる。

それなのに、認識できない。


慧の顔に驚きが浮かんでいる。

<何だそれ>


<これは気配遮断。魔力を使って空間に気配を溶かす。戦闘の技術の一つ、だ>



<これなら…行けるかも>


じっくり、注意して見ないとわからない。

これなら誰にも見つからずに外に出れる。


慧は尋ねる。

<それは、どれぐらい持つんだ?>


<私はまだ、一時間ちょっとが限界。もっとちゃんと、鍛えていれば…>


<十分だな。八層までは避けようと思えば人を避けながら進める。一層に飛んでから気配遮断すればいいだろ>


<そうだね、それじゃ、行こうか>



三人は立って、階段を上り始める。

出来る限り戦闘は避けて、他の探索者に遭遇しないように。


数回の戦闘はあったが、ほかの探索者と会うこともなく、八層の転移陣まで来れた。


<気配遮断使って、ついてきて>


三人は転移陣を踏む。


陣が光って、すぐに目の前の景色が変わる。


<これは、転移か?こんな魔法、どうやって…>


目の前にはいつもの草原。

慧は数秒だけ、不思議そうな顔で転移陣を見つめた。


三人はネズミを無視してゲートに向かって走る。


ゲートを出て換金をする。いつも通り二分割。

いつもと同じ手順。かかる時間も同じなのに、今日は少しだけ長く感じる。


グレアは部屋の中、少し離れた場所に立っている。

角が生えた赤い髪の軽装。

街中を歩くだけで皆が振り返るはずの容姿。

それなのに誰も彼女に反応しない。


気配遮断の恐ろしさを身に染みて感じる。


透と慧はいつも通りドアを開けて協会を後にした。

グレアは静かに二人の後ろをついてくる。


グレアは外にでてきょろきょろしている。

心配した透はグレアに横を歩くように言った。


<車、危ないからこっちおいで>


<あ、ああ、これは、すごいな>


三人は透の家に向かうが、その間もずっとグレアは街の様子に忙しく目を動かしている。

慧はその間、ずっと何かを考えている用だった。


透は玄関のドアを開ける。

「ただいま」

「お邪魔します」


母が出てきた。

「あら、お帰り、いらっしゃい」


「先に上がって部屋入ってて、飲み物とかとってくる」


透は慧を先に部屋にあげてリビングに向かった。


ちょっとした軽食と飲み物をもって部屋に入って、地面に腰掛ける。

<それで、何を聞かなきゃいけないんだっけ?>


透の言葉に慧が反応する。

<聞きたいことは山ほどある。今重要なのは、俺たちに害をなすのか、帰る手段に心当たりはあるのか。それと、魔力の扱いについて。だ>


グレアは少し緊張した面持ちで慧の話を聞いている。

<ダンジョンの中でも聞いたが、お前は害ある存在か?お前の目的はなんだ。何をしにきた>


グレアは少し困った顔をして答える。

<二人に害を与えるつもりはない。目的、というのもわからない。あの鎧の目の前にいた直前の記憶が全くないんだ。私の最後の記憶は…街に買い物に出かけたところ、だ。>

<この世界に来た方法もわからなければ、帰り方もわからない。私は…これからどうすればいいのだ>


<そうだよね、知らない世界に一人で投げ出されたんだ。不安、だよね>

<グレアはこれから、どうしたい?>


透の質問に、グレアは寂しそうに答える。

<私は…家に帰りたい>


いつもの自分の部屋に、いつもと違う異質な少女。

それでも、彼女の言葉は、ひどく普通だった。



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