緩やかな成長、焦り
週末の探索は、少しづつ形を帯びていく。
学校へ行って、休日に潜る。
平日は次の休日まで待ちながら、魔法をいじる。
繰り返していること自体は、ひどく単純。
けれど単純なことでも、何度も繰り返すと少しずつ変化が出てくる。
十三層の石兵は、前ほど嫌ではなくなっていた。
嫌な相手であることに変わりはない。
盾兵は前に出て槍兵を守る。
槍兵は決して前へ出ず、陰からだけ穂先を差し込んでくる。
剣兵は空いたところを埋めるように動く。
敵の動きは前と変わらない。
変わったのは、透たちの方だった。
協会で受付を済ませ、ダンジョンへ入る。
一層から八層へ飛ぶ。
そこから十二層まで降りる。
もう慣れた道。
透は十二層の端で一度だけ立ち止まった。
慧が横を見る。
「どうした」
「少しだけ」
透は意識を内側へ向けた。
表示が開く。
【観月 透】
【Lv】20
【MP】270
【筋力】75
【敏捷】71
【魔力】66
レベルも上がった。
その下に並ぶ数値も、全部ではないにしても少しずつ伸びている。
腕力、敏捷、魔力。
曖昧なはずの変化が数字で見える形になっている。
透は小さく息を吐いた。
「成長、してるよね」
慧も同じように確認していた。
短く頷く。
「ああ」
それだけだった。
けれど、それで十分だった。
気のせいじゃない。慣れだけでもない。
ちゃんと積み上がっているのが目に見えてわかる。
透は表示を閉じる。
「行こうか」
「ああ」
十三層へ下りる。
広い洞窟。
高い天井。
崩れた柱。
最初にここへ来た時ほどの圧は、もうない。
広間の向こうに、今日も石兵が並んでいる。
六体。
前に盾兵。
後ろに槍兵。
左右に剣兵。
いつもと同じ。
整列していた石兵が、一斉に動き出す。
石の擦れる音。
「右から、来るぞ」
慧が言う。
「うん。見えてる」
透は前へ出た。
盾兵が圧をかけてくる。
小盾を少し寝かせて受け流す。
一拍遅れて槍が来る。
以前なら、それが嫌でしかなかった。
今は違う。来る位置が分かるし、反応もできる。
透は踏み込みを止め、槍先を外へずらす。
そのままメイスを振って、盾兵の膝を打つ。
石が割れ、片足が沈み、バランスを崩す。
慧の戦槌が横から入る。
肩口が砕け、壁の位置がずれる。
透はその隙間へ踏み込む。
槍兵が穂先を出してくるが、遅い。
小盾で払って、メイスを振る。
槍兵の腕が砕ける。
その直後、剣兵の刃が肩を浅くかすめた。
「っ」
痛みはある。
でも深くはない。
透はそのまま下がらず、魔力を通す。
傷の熱が引いていく。
前よりも自然に使えるようになった。
戦いの途中で、小さな傷を押し戻す。
少し早くなっただけ、その少しがこの場ではとてつもなく大きい。
慧が剣兵を叩き潰す。
そこからは早い。
戦いは短かった。
透は息を吐いた。
「水魔法、使わずに行けたね」
透が言う。
「いらなそうだったからな」
慧の返事は短い。
質感を変えた水。
滑りやすく、足を取るように変えたあれは、石兵相手にはかなり効く。
その分、魔力の消費が重い。毎回使えるようなものじゃない。
使えば楽になる。
でも、その分だけ帰りが早くなる。
それが最近、少しずつ変わってきていた。
三回に二回は、あれを使う必要がない。
被弾も、ほとんどかすり傷程度。
十三層はもう、“詰まる場所”ではなくなりつつあった。
二戦目も、同じように抜けた。
嫌なタイミングで槍は出てくる。
それは変わらない。
けれど、もう完全な不意打ちにはならない。
盾兵が前へ出る角度。
槍兵が横へずれる足。
剣兵が回り込む位置。
見えるものが増えた。
慧の戦槌も、前より速い。
透の小盾も、手に馴染んでいる。
三戦目で、慧は一度だけ水魔法を使った。
床へ薄く走る。
貼りつくような粘度の高い水。
盾兵の足が滑り、槍兵の踏み込みが止まる。
その一瞬で十分。
透が槍兵を落とし、慧が盾兵を砕く。
あとは早かった。
広間に散ったドロップを見ながら、透は壁に背を預ける。
「かなりいいね」
慧は戦槌を下ろす。
「十四は、どうだろうな」
透は苦笑した。
「うーん、まだ無理な気はする」
十三層を抜けるだけなら、もう以前ほど難しくない。
無傷ではない。でも致命傷にもならない。
戦闘中の簡易的な回復魔法で押し戻せる程度。
けれど、それはあくまで十三層の話だった。
二人は先へ進まなければいけない。
今日は最初から、十四層へ行くつもりで潜っていた。
十三層は、そのために抜けるだけの階だ。
実際、そこまでは来られた。
以前より軽く。
以前より早い。
切り札の消耗も抑えて。
十四層へ続く階段の前で、透は立ち止まる。
階段の先は見えない。
その先の広間も、今はまだ見えない。
それでも、頭の中にははっきり残っている。
たったの一体。
人の形をした鎧。
剣を持って立っているだけなのに、勝てる絵が浮かばなかった相手。
透は階段の先を見たまま言った。
「ここまでは来られる」
「ああ」
慧も同じ方を見ていた。
「でも、その先は別だ」
「うん」
迷いはない。
透は小さく息を吐いた。
「もう一度、見に行こう」
慧が頷く。
「ああ」
強くはなっている。
ちゃんと前に進んでいる。
数字にも出ている。
実感もある。
それでも、まだ何かが足りていない。
それが何かを確かめるために、二人は十四層への階段を下りた。




