表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/81

連携、十三層


土曜の朝は、いつもより早い。


まだ眠気の残る頭で装備を確認する。

小盾。メイス。携帯食料。水。

最近はずっとこれだ。


マチェーテは置いていく。今の敵とは相性が悪すぎる。


朝の支度を終えて、いつものダンジョン前の協会に向かう。


集合場所で会った慧は、前より一回り大きい袋を背負っている。


透がそれを見る。


「いつ見てもでかいね」


慧は肩を軽く動かした。


「まあな、まあでももう慣れた」


会話はそれだけ。


協会で簡単に受付を済ませ、ダンジョンへ入る。

一層から八層に飛んで、十二層までは、もう慣れた道だ。


完全に気が抜けてるわけではない。

それでも、どこで何が来るかは大体分かる。

危険は危険でも、知っている、慣れているだけで全然違う道だ。


十三層へ続く階段の前で、透は一度だけ息を吐いた。


慧が横で言う。


「新しいことをいくつか試す」


「うん」


「でも、無理もしない」


透は頷く。


それも分かっている。

分かっているが、止まり続けるのも嫌だった。


階段を下りる。


十三層は、より広い洞窟。


十二層の岩とゴーレムの硬さとは少し違う。

ここは石でできた兵舎みたいだった。

天井は高く、通路は広い。

壁際に崩れた柱があって、奥には開けた空間が見える。


透はメイスの柄を握り直した。


「今日も、並んでるかな」


慧が短く返す。


「いるだろうな」


広間へ出る。


いた。


石の兵士が、六体。


前に二体。

盾持ち。

後ろに二体。

槍。

さらに左右に一体ずつ、剣持ち。


透は動きを止めずに配置を見る。

前衛。後衛。遊撃。

もう何度も見た形。


整列していた兵士たちが、こちらを見たように感じた次の瞬間、一斉に動き出す。


石が擦れる音。


「右」


慧が言う。


透は前に出る。

盾兵二体が、まっすぐ圧をかけてくる。

その後ろから槍兵の穂先が覗いていた。


前に立つ盾兵は、ただ攻撃してくるだけの敵じゃない。

後ろの槍兵を守る壁でもある。


こいつらが十三層の難易度を大幅に引き上げている。


透は左の盾兵へ寄る。盾を少しだけ角度をつけて構える。

槍が来る。分かっている。


分かっていても、嫌なタイミング。


盾兵の縁をメイスで叩こうと踏み込んだ瞬間、その横から槍が出た。


速い。


盾の脇を抜けるように、低く、短く。


透は反射で小盾を落とした。

槍先が縁を擦る。金属の嫌な音。

体勢が少し崩れる。


そこへもう一本、逆側から突きが来た。


「っ――」


浅い。


防具を削って、脇腹をかすめる。

熱い痛みが遅れて走った。


透は下がらず、メイスを振り切る。

盾兵の腕に当たる。鈍い音。

石の欠片が飛ぶ。


ただ、それだけだ。

やりきれない。


「面倒……!」


透が吐き捨てるように言うと、慧が横から入ってくる。

大きく振られた戦槌が、別の盾兵の肩口を叩く。

石の兵が一歩だけ沈む。


その隙に透が半歩ずれる。

槍の射線が揃わないように位置を変える。


けれど石兵は追ってくる。

盾兵は前を塞ぎ、槍兵は決して前に出ない。

盾の陰から槍を出す。


人間なら、焦って崩れる場面。

それでもこいつらは崩れない。


「ちょっとしくじった」


透が言う。


「ああ」


慧が短く返す。

息はまだ乱れていない。


右の剣兵が回ってきた。

透は一歩下がる。

その分、前の盾兵が出る。

出たところへまた槍。


今度は肩を狙っていた。

盾で流せる。だが流した瞬間、もう一本が来る。


嫌なタイミングだ。


透は舌打ちして、小盾を押し込んだ。

槍の軌道を無理やり外へずらす。

そのまま前へ入って、メイスを横から振る。

盾兵の膝へ。


石が割れる。

完全には折れない。

それでも片足が沈む。


慧が言う。


「今」


床に水が走った。


ただの水じゃない。

単に広がるというより、貼りつく感じだった。


盾兵の足がそこで滑る。


ほんの少し。

それだけで十分だった。


槍兵の一体が、半歩遅れる。

その半歩で、壁が機能しなくなる。


透はその隙間へ踏み込んだ。

槍が慌てて突き出てくる。遅い。


小盾で払う。

メイスを振り上げ、槍兵の腕へ叩きつける。


石の腕が砕けた。

槍が床に落ちる。


その直後、右肩に浅い衝撃が走る。

剣兵。

斬るというより削るような一撃。装備がちゃんとしていて助かった。


「ちっ」


透は下がる。

血がにじむ。

深くはない。

けれど増えると嫌な傷。


内側へ意識を向ける。


魔力を通す。

痛みの縁が少しだけ鈍る。

すぐには治らない。

でも、放っておくよりましだ。


リジェネ。


そう呼ぶには大げさかもしれない。

ただ、傷が広がる速さを抑えて、少しだけ戻す。

それだけだ。

それでも、戦っている間は大きい。


慧が剣兵を鈍器で叩き潰し、透の前へ出る。


「まだやれるか」


「いけるよ」


「なら前は任せる」


短いやり取りだった。


石兵はまだ五体。

槍兵一体の腕を砕かれ、一体の盾兵は膝を崩した。

隊列はだいぶ乱れている。


慧の出した滑る水は、だいぶ薄れていた。

床に残ってはいるが、最初ほど強くない。


透はそれを見て言う。


「長くはもたない?」


「みたいだな」


慧の声は平坦だった。


「奥の手、って感じかな」


透は前へ出た。


今度は最初から狙いを絞る。

盾兵と槍兵との線を切る。


盾兵が前へ来る。

盾で受ける。

重い。


透は流す。

半歩、横へ。

槍が一拍ずれて出てくる。


だからこそ、待つ。


槍先が伸びる。

その軌道を小盾で押し、ずらす。

外へ流す。


透はそこへメイスを叩き込んだ。


胸部。

石が割れ、槍兵が倒れる。


残りが四体。


いける、透は一瞬だけ考えて、すぐ頭を振る。

人数が減るだけで、圧が変わる。


剣兵が距離を詰めてくる。

盾兵はまだ前。

けれど、さっきより読みやすい。


「やる」


透が言う。


慧は答えない。

代わりに一歩踏み込んで槌を落とす。


盾兵が完全に崩れて、消える。


そこに透が踏み込んでメイスを振る。

石が割れる音が二度、続いた。


戦いが終わった頃には、透の肩と脇腹、それに太腿の外側の浅い傷は薄く消えていた。

慧の息は少し重い。


広間に転がる石兵の破片と魔石を見ながら、透は壁に背を預けた。


「だいぶ楽だったかな」


慧は鈍器を下ろす。


「楽、ではないな」


「うん」

透は苦笑する。

「前よりは、だね」


慧は床を見る。

さっきの水は、もうただの濡れた跡にしか見えない。


「毎回は無理だ」


透も同じ方を見る。


「だよね」


「消費が重い、連戦には向かない」


十三層は、一戦で終わらない。

抜けるまでに何度も石兵と当たる。

ここで切り札を使えば、抜けることはできる。

でも、その先が辛くなる。


透は傷口に触れた。

浅い。

リジェネは便利だ。

ただ、それもただじゃない。


「十三を抜けるだけなら、今までよりいい」


透が言う。


「でも、十四に行くにはまだ足りない」


慧が頷く。


「そうだな」


否定はない。

慰めもない。

それで十分だった。


勝てないわけじゃない。

前より進んではいる。

けれど、それをそのまま次の階に持っていけるほど甘くもない。


透はメイスの先を少しだけ払った。


石兵の倒し方は、見えている。

盾兵の優先順位。槍兵の位置。

魔法の使いどころ。

攻撃の捌き方、踏み込むタイミング。


方向性はあっているはずだ。


ただ、それが十四層まで届くかは、まだ別の話だった。


帰りの階段を上がりながら、透は小さく息を吐いた。


昼過ぎごろには外に出た。

最近の探索はいつも短い。

進めないまま終わるたび、じれったさが募っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ