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箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
1章

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6/80

現実に近づく音、二分

朝、テレビの音がいつもより大きかった。

『国内で確認された“ダンジョン” 政府が対策本部設置 専門チームが内部を確認』

画面には、昨日まで「それっぽい」と言われていた映像が、今度はニュースの枠で流れている。


階段。膜。草原。

そして黒い影。

アナウンサーが言った。

「政府は本日未明、関係省庁による対策本部を設置しました。現場では警察が周辺を封鎖し――」


映像が切り替わる。

狭い路地。規制線。パトカー。

防護服のような装備をした人間が数人、慎重に入口の前へ近づいていく。

「内部の安全確認は、専門チームが行っているということです」


母が台所から覗き込んだ。

「え、これ……本物なの?」

父は腕を組んだまま、目を細めている。

「“本物”って言い方も変だけどな。国が動くなら、少なくとも冗談じゃないな」


澪は口を尖らせながらも、目はテレビに釘付けだった。

「やば。ゲームみたい」

透は何も言えなかった。


昨日、遠目に見た路地。

あれが“入口だった”と、国が言っている。

透のスマホが震えた。

慧からだ。


『確定した。今日は寄り道するな。』

また短い。

でも今度は、短いほど重い。

透は返信せずに、スマホをポケットに入れた。


学校へ行くと、空気は冷えるどころか、割れていた。

「え、マジで川崎のやつ本物だったの?」

「昨日、近く通ったんだけど」

「俺、見に行こうぜって言ったじゃん」

「馬鹿、封鎖されてんだろ」

「でも入口って路地だろ? ワンチャン見えるって」

「専門チームが入ったってニュースやってた。もうイベントじゃん」

イベント。

その言葉に、笑うやつがいる。

顔色が悪くなるやつもいる。


「ねえ、もしさ。中から何か出てきたらどうすんの?」

誰かが言った。

それを「怖がり」と茶化す声が飛ぶ。

「出てきたら逃げりゃいいだろ」

「警察いるし」

「いや、警察もゲームの敵には勝てねえだろ」

笑いが起きる。

でも笑いが、どこか薄い。


透は席に座った。

慧はすでにいて、いつも通りの顔でノートを開いていた。

「おはよ」

透が言うと、慧は一度だけ顔を上げる。

「おは」

「……確定したな」

「国が言ったなら、確定扱いでいい」

慧は淡々と言って、ペン先でノートの端を叩いた。


「で、今日どうする」

「どうするって」

「どうせ見に行くって言い出すやつが出る。お前、流されるなよ」

透は「流されねえよ」と言いかけて、飲み込んだ。

流されない自信があるわけじゃない。

自分だって、少しだけ――知りたい。


休み時間。

案の定、教室の隅で小さな作戦会議みたいなのが始まっていた。

「昼休みに行こうぜ」

「無理だって」

「放課後なら」

「写真撮れたらバズるだろ」

「バズったら終わりだろ、捕まるぞ」


別の机では、女子が小声で話している。

「ねえ、怖くない?」

「怖いよ。でもさ、怖いって言ったら負けみたいでさ」

「分かる……」


透はそのどちらにも入れず、窓の外を見た。

いつもと同じ校庭。いつもと同じ空。

それが逆に気持ち悪い。


慧が、透の机にスマホを置いた。

画面には、ニュースサイトの見出しが並んでいる。

『内部は草原状の空間 気圧・重力は地上と同等』

『生物の影を確認 詳細は調査中』

『周辺の封鎖を強化 立入禁止』

「……重力とかまで調べたのかよ」

透が言うと、慧は肩をすくめた。

「“内部に入った”ってこと」

透の喉が鳴った。


「で、なんで草原なんだよ」

「知らん。だから今、みんな騒いでる」

慧は少しだけ間を置いた。


「透。昨日の路地、気になってるんだろ」

透は返事をしなかった。

否定もできない。

慧はそれ以上踏み込まない。

代わりに、言い切った。

「行くなよ」


放課後。

帰り道の分岐で、クラスの何人かがそわそわしながら別方向へ向かうのが見えた。

「見に行くんだろうな」

透が呟くと、慧は「だろうな」とだけ返した。

二人は、昨日と同じように遠回りを選んだ。


遠くから、ヘリの音が聞こえた。

ニュースの中の音が、現実の空に重なる。

「……なあ」

透が言った。

「俺さ」

「やめとけ」

慧が先に言った。


「言わなくても分かる」

透は笑ってしまった。

乾いた笑いだった。

「……分かるのかよ」

「お前の顔」

慧はそう言って、歩く速度を上げた。


透は、後ろを振り返らなかった。

振り返ったら、足が止まる気がしたから。


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