十一層の報告、調査結果
川崎の臨時支部に戻った頃には、外が暗くなりかけていた。
あまり長い間潜った感覚はないが、もう、だいぶ日が短くなった。
受付の列は短い。
でも机の上は相変わらず忙しい。
透と慧が名前を告げると、担当がすぐに奥へ目をやった。
「回収物、お願いします」
袋を机に置く。
魔石。糸。細かいドロップ。
それとは別の袋をもう一つ。
慧が言った。
「これは、十一層で拾ったものです。落ちてました」
担当の手が止まる。
袋を開けると、前腕プレート。破れた手袋。ライト。
布に包んだものの端に、赤黒い色が見える。
担当が顔を上げた。
「……血ですか」
透が頷く。
「乾いてました。少し前だと思います」
担当は短く息を吐いて、頷いた。
「分かりました。こちらで預からせていただきます。ご協力ありがとうございます」
端末を叩く。
受領番号。階層。品目。
慣れた手つきなのに、いつもより少しだけ慎重だった。
「もう少し詳しくお話を伺いたいのですが」
担当が言う。
慧が簡単に言った。
「糸が張ってました、蜘蛛っぽいのがいて、倒したら糸が消えました」
「さっきの装備品は、その近くに落ちてた物です」
担当が「蜘蛛」と繰り返す。
「承知しました。ありがとうございます」
机の端に、別の紙が出される。
「遺留品」みたいな欄がある。
担当が言った。
「行方不明者との照合をかけます」
「ただ……多分、すぐには分からないと思います」
慧が眉を上げる。
「分からない?」
担当は言葉を選んだ。
「探索者装備が、必ず個人に紐づいてるわけではありません」
「転移罠の件もあって、行方不明者がそれなりにいます」
透は黙って聞いていた。
一歩間違えれば、自分たちもそこに入っていたかもしれない。
担当が続ける。
「ただ、照合は行いますので、何か分かれば連絡差し上げます」
「お願いします」
透が言った。
担当は頷き、袋に封をして、奥の箱へ入れた。
空気が少しだけ戻る。
いつもの回収物の確認へ移る。
「それと、糸……これは?」
担当が糸の束を見て言う。
慧が言った。
「十一層の蜘蛛のドロップ品です」
「本体を倒したら消える糸とは別に、ドロップとしてこの束が落ちました」
担当が頷く。
「わかりました。これは研究素材扱いになります」
「魔石はいつも通りです」
青い魔石を手に取って、光に当てる。
濃い青。少しだけ重い。
「少し深い色、ですね」
担当が言った。
査定は流れる。
端末。紙。サイン。
合計は五十万くらい。一人あたり二十五万。
新しいドロップ品が響いたんだろうか。
透は紙を折って受け取った。。
担当が言った。
「それと」
「八層と一層の転移の件ですが」
慧が顔を上げる。透も同じ。
担当は声を落とした。
「調査を入れました。最初の班では確認できませんでした」
透は黙る。
慧が「そうか」と小さく言いかけて止めた。
担当が続ける。
「そのため、自衛隊にも協力を依頼しました」
「結果として、確認されました」
慧が一拍置いて言う。
「確認、できた?」
担当が頷く。
「ただし、全員が見えたわけではありません」
「同じ場所に立っていても、見える人と見えない人がいました」
透はそこで、少しだけ背筋が伸びた。
担当は言葉を慎重に並べる。
「推測ですが」
「七層を突破しているかどうかで、見え方が違う可能性があります」
慧が言った。
「七層?」
担当が頷く。
「七層を突破している隊員がいるチームでは確認できた」
「同伴した調査員には見えなかった」
「——そういう報告です」
透は息を吐いた。
やっぱり、条件がある。
慧は笑わない。
「じゃあ」
「七層を越えた人間が、俺たち以外にいるってことか」
担当は否定しなかった。
代わりに言う。
「自衛隊については、詳細はお答えできません」
「ただ、調査が進んでいるのは事実です」
それで十分だった。
担当が続ける。
「転移陣については、現時点では公開しません」
「再現性と安全性の確認が必要です」
「見えない人がいる以上、誤誘導になる可能性があります」
慧が頷く。
「そりゃそうだ」
透は言う。
「……分かりました」
担当は重ねて言った。
「それと、ランク制度の改定の結果、お二人はEランクとなることが決定しました」
「細かい条件等はお知らせできませんが、おめでとうございます」
慧が言う。
「Eランク、七層突破の有無、とかだろうな」
担当が濁して答える。
「申し訳ありません。詳細については…」
担当は最後に言った。
「本日は以上です」
「いつも、ご協力ありがとうございます」
外に出ると、空がもう暗かった。
慧が言う。
「七層が境目」
「やっぱゲームだな」
透は返さない。
ゲームっぽいのは今に始まったことじゃない。
慧が続ける。
「でも、これで確定じゃない」
「他のやつが七層越えたら、分かることも増えるだろ」
透が言った。
「そのうち、ね」
慧が頷く。
「だいぶ、整ってきた感、あるな」
透は歩きながら、手首の擦れを押さえた。
糸は消えた。
でも、感触だけは残っている。




