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箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
3章

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52/80

ゴブリンキングとオーク、成長

週末の朝、川崎の入口は相変わらず人が多い。


待機列ができている。

装備を見直す人。体を温める人。

協会のプレハブの前では、係の声が途切れない。


透は少し離れた場所で立っていた。

武器ケースを足元に置く。

視線だけ入口に向ける。


背中から声がした。


「早いな」


慧だった。

同じケース。鈍器の重さが、持ち方に出ている。


「慧もね」

透が言う。


慧が頷く。


「今日は十層、行くぞ」


透が言う。


「じゃあ、まず七層だね」

「王を片付けなきゃ」


慧が笑う。


「やること多いな」


透は首を振った。


「七層で止まってたら、いつまでも下に行けないからね」

「今日、終わらせる」


慧が一拍置いて頷く。


「了解」

「七層、余裕で抜ける」

「そのまま十層、狩り続ける」

「欲張らない、帰り道も含めてな」


二人は並んで入口へ向かった。


一層。


草原は変わらない。

ネズミみたいな影が走る。

透は刃を一度振って終わらせる。


二層。

ウサギが跳ねる、一層とほとんど変わらない。


三層。


犬型が出る。

前なら距離を取った。今日はそのまま詰めた。

倒れるのが早い。


三層の草原を通るとき、透の目が一瞬だけ地面を探した。


慧が何も言わない。


四層。


トカゲ。


硬い。

でも硬いだけだ。

透が脚を切る。慧が止める。

動きが切れたらほどけて消える。


五層。


棍棒のゴブリン。

特筆すべきこともない。


六層。


部隊で来る。剣。弓。杖。

石つぶてが飛ぶ。

前なら一発で嫌になる攻撃。今日は避けて詰める。

弓から落とす。杖を潰す。残りは片付ける。


息が切れにくい。

休憩が短くて済む。

水を一口飲んですぐ動ける。


六層を抜ける頃には、感覚が少しずれていた。

もうここは“通り道”になっている。


慧が言う。


「……次だな」


透が頷く。


「七」


七層に入ると、空気が変わった。


草の匂いが薄い。

音が遠い。

広い。天井が高い。段差があって、奥が見える。


前に来たときと同じ場所だった。


奥に、座っている影。

その前に、ゴブリンが固まっている。

左右に二体。片方は大剣。片方は杖。


慧が小さく息を吐いた。


「……いるな」


透は頷く。


「いる」


二人は歩く速度を落とさなかった。

足音が草を踏む。

ゴブリンが気づく。声が上がる。

弓が上がる。剣が振られる。


透が先に動いた。


刃が一体の足に入る。

黒い靄がにじんで、空気に溶ける。

倒れる前に、もう一体。


慧は鈍器で止める。

頭じゃない。胴。脚。

動きを止めて、次へ。


雑魚は多いだけだった。

前みたいに、囲まれて詰められる、がない。


透と慧の間は開かない。

声は要らない。


弓が放たれる。

透は一歩ずれて、避ける。

慧は走らない。歩幅を変えるだけで外す。


数が減る。

減った分だけ、広間が広くなる。


大剣の側近が動いた。


一歩。

それだけで距離が詰まる。

大剣が振られる。風が来る。草が寝る。


透は受けない。半歩だけ外す。

刃を当てる。大剣の根元に。金属が擦れる。


大剣の側近がもう一度振る。

透は同じように外す。

同じ場所に当てる。重い音。


三度目。

今度は大剣が少しだけ遅い。


透が踏み込む。

足。

刃が関節に入る。黒い靄がにじむ。


側近が体勢を立て直そうとする。

大剣が上がる。

透はもう一歩入って、手首。

握りがずれる。


大剣が落ちる。

落ちた瞬間、側近の目が動く。

遅い。


透は首の付け根を拾う。

黒い靄が溶けて、ほどける。


透は足を止めない。

奥の影が、少し動いた。


立つ。

座っていたのが立つだけで、広間の空気が詰まる。


慧が前に出た。


「王、俺がやる」


透は頷く。


杖の側近が動く。

杖先が光る。

火の玉が飛ぶ。


慧は止まらずにステップをして詰める。

鈍器を落とす。

黒い靄が溶ける。


慧が王を見る。


王は大きくない。

でも動きが違う。

雑魚みたいに突っ込んでこない。

一歩の間が長い。


王が手を上げる。

周りに残ったゴブリンが、少しだけ動く。

まだ残っていた二体が、慧の横に回ろうとする。


透が入る。

刃が二体を切る。黒い靄が溶ける。

それで終わる。


慧と王だけになる。


王が剣を構える。

刃の線が綺麗だ。


慧が言った。


「久しぶり、だな」


王は答えない。

代わりに踏み込む。


速い。

剣が来る。

慧は受けない。受け止めない。

鈍器で“いなす”。


金属が当たる音。

王の剣の線がぶれる。


慧がもう一発。

腕じゃない。胴。

踏ん張りが抜ける。


王が引こうとする。

慧は引かせない。

距離を詰める。鈍器を落とす。落とす。落とす。


最後は、王が膝をついた。


黒い靄が、ゆっくり溶けていく。

粉みたいにほどけて、消える。


広間が静かになった。


透が息を吐いた。

慧も同じタイミングで息を吐く。


床に、いくつか残っている。


小さい魔石。

少し大きい魔石。

緑色の液体の瓶。

そして、淡く赤い瓶が一本。


透が拾って、光に当てた。


「……また出たな」


慧が笑う。


「ポーション」

「もしかして、確定か?」


王核は無かった。

探しても、それらしいものはない。

でも、魔石の質は前よりいい。重い。


透が一つ、掌で転がす。


慧が言う。


「レベル、上がったな」


透も気づく。


【観月 透】


【Lv】14→15

【MP】155→175

【筋力】48→52

【敏捷】52→55

【魔力】41→45


体の奥が少しだけ軽い。

息が戻るのが早い。


「……1しか上がってないか」

透が言った。


二人とも、同時に上がっていた。


七層が終わった。


慧が言う。


「行くか」

「下」


透は頷く。


「十層まで」

「今日は十層を見に行く」


階段を降りる。


八層は洞窟。

湿っている。音が返る。

草原とは違う。


そして、いた。


素手の豚みたいなやつ。

立っている。肩が厚い。首が短い。

目がこっちを見ている。


透が小さく言う。


「……豚」

慧が返す。

「オーク、な」


二人は少し笑う。


八層は混ざっていた。

ゴブリンと、豚。

数は多くない。けど重い。


透が先に削る。

脚。手首。

慧が止めて、落とす。


九層。

棍棒を持った豚。


十層。

刃物を持った豚。


洞窟が広い。

天井が高い。

足元の石が滑る。


一戦だけ、丁寧にやった。


刃物の線は粗い。

でも力がある。

当たれば簡単に大怪我だろう。


透が脚を切る。

慧が止める。

倒す。


黒い靄が溶けて消える。


肉と魔石が落ちる。


二戦目。

三戦目。


同じ動きになる。

同じ動きができる。


慧が言った。


「……いけるな」

「十層、回せる」


透は頷いた。


「回せる」

「稼げる」


二人はそのまま、十層でしばらく戦った。


倒して、拾って、休んで、また倒す。

息が切れても戻る。

手は、もう震えない。

レベルも上がった


【観月 透】


【Lv】15→16

【MP】175→195

【筋力】52→55

【敏捷】55→59

【魔力】45→49



七層の広間は、もう遠い。

余裕で勝てた。成長してる。

でも忘れない。



帰り道はまだ決めていない。

今日は十層に着いた。

それだけで十分だった。


慧が言った。


「次は……十一層、見にいく」


透は答えない。

洞窟の奥を見た。


暗い。

でも、暗いだけじゃない。


次がある。


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