新しい武器、消耗品
探索者用品店は、駅前の通りから一本入ったところにあった。
店の外観は普通だ。
ガラスに「探索者用品」と貼ってある。入口の横に「協会登録店」の小さい表示。
中に入ると、棚が見える。
刃物。鈍器。盾。プレート。ライト。消耗品。
並び方は武器屋というより、作業用品店に近い。
透と慧が見回していると、カウンターの店員が顔を上げた。
「何かお探しですか」
中年。声が落ち着いている。
押し売りの感じはない。
慧が先に言う。
「武器を」
「下に潜れる奴」
店員が頷く。
「どのような武器をお探しで?」
「俺は鈍器」
慧が言う。
透が言う。
「俺は刃物を、マチェーテみたいなやつか、鉈を」
「承知しました」
「まず刃物からご案内します」
店員が刃物の棚へ歩く。
透と慧もついていく。
「まず、この辺は安いです」
店員が指したのは、刃が薄めのマチェーテだった。値札は数万円台。
透が持つと軽い。
「一層から三層みたいな小型相手なら十分です」
「ただ、四層のトカゲだと欠けやすくなります。噛まれなくても、当て方で欠けることがあります」
「当て方ね」
慧が言う。
店員が頷く。
「刃物を使うのに“切る”より“当てる”意識の方が多いんです」
「硬いところに叩きつけると、刃先から欠けていきます」
「慣れないうちは、特に」
店員は次の段を示した。
「この辺からが中級の探索者向けです」
刃が厚い。柄が太く、滑りにくい加工。
値札は十万前後。
「厚みがあるので、刃先が潰れにくくなってます」
「その分、切ることよりも、耐久性に重きを置いてる品になってます」
「交換部品もあります。柄と留め具」
透は黙って棚を見た。
店員が一番奥を指す。
「今うちにある最上品はこれです」
黒っぽいマチェーテ。反射が鈍く、刃が厚い。
自衛隊から借りたものとほとんど同じ。
値札は二十五万。
透は値段を見て、息を吐いた。
店員が言う。
「様々な素材を重ねて作られていて、粘りがあります」
「この価格帯も、手入れ前提です」
「刃が強くても、たまに整備に出してください」
透が店員を見る。
店員は棚の下から、小さいセットを出した。
布。ブラシ。油。細い棒。
「普段の手入れはこれを」
「戻ったらすぐ拭く。刃と柄の付け根、特に」
「こっちは目立たないけど、ここから傷みます」
店員が指で刃の根元を叩く。
「砥石は、最初は要りません」
「砥ぐと刃を減らしてしまいます。減らすと薄くなって、欠けやすくなります」
「最初は“落とす”だけ。汚れを落とす」
慧が「なるほど」と言う。
店員が続けた。
「鈍器も同じです。頭の部分、割と汚れます」
「金属同士が当たると粉が出たりしますから」
「放置すると滑る。滑ると手首をやります」
慧が薄く笑う。
「手首やるのは嫌だな」
店員は頷く。
「嫌ですよね」
「探索者、手首痛める人、結構多いみたいですよ」
透はもう一度、二十五万のマチェーテを持った。
軽い。握った感じ、しっくりくる。
「俺はこれにするよ」
透が言う。
店員が「承知しました」と言って商品を手に取る。
「鈍器は、こちらです」
鈍器の棚へ移る。
短柄メイス、短柄ハンマー、先端が少し尖ったやつ。
全部同じように見えて、持ってみると全然違う。
店員が言う。
「鈍器は重ければいいわけじゃありません」
「振り切れない重さは事故につながります」
「トカゲを相手するなら、当てる場所と角度が大事です」
慧が何本か持ち替える。
最後に一本で止まった。
「これ」
「重心が手前にある、感触もいいな」
値札は十一万。
店員が頷く。
「それなら扱いやすいと思います」
「手袋は厚めに。前腕の装備はあった方がいいと思います」
少し離れたところで、若い声がする。
透たちと同い年くらいの探索者が四人。
装備は揃っていないが、どれも使い込まれているように見える。
手元の武器も、刃が欠けているのが見える。
「四層のトカゲ、硬すぎるな、あれ」
「俺、噛まれたわ。プレート意味なくね?」
「意味あるだろ。なかったら腕持ってかれてたぞ」
別のやつが棚を見ながら言う。
「十万しないやつでいいよ」
「どうせ四層までしか行かねえし」
「行かねえんじゃなくて、行けねえんだけどな」
誰かが言う。声が少し荒い。
「五層ってゴブリンだろ?」
「さすがにまだ、人型はなぁ」
「ちょっと抵抗あるし」
「躊躇って、攻撃されたら、たまったもんじゃない」
「てか、罠な」
「転移のやつ」
「協会が注意出したじゃん」
「怖すぎ」
「草原で見えねえんだろ?」
「未探索の深い層に飛ばされるって噂もあるし」
「お前は草原で勝手に走るなよ」
「まあでも、行くしかないんだよなぁ」
「金になるし」
「金のために死ぬの、割に合わない気もするけど」
「うちは結構貧乏だからな」
「バイトするよりは割いいし…」
透はそっちを見ない。
慧も見ない。
ただ、会話は全部聞こえる。
店員が「消耗品も見ますか」と言った。
慧が即答する。
「お願いします」
消耗品の棚は、武器より現実的な値段。
種類も多い。
タグ。チョーク。ライト。予備電池。止血パッド。テーピング。
手袋。ゴーグル。小さいハサミ。
水のボトル。塩タブレット。
あと、見たことないやつもある。
透が別の棚を見て止まる。
薄いフィルムみたいなものが並んでいる。
「これ何ですか」
透が言う。
店員が言う。
「刃の保護用フィルムです」
「戻ったあと、拭いてから貼るものになります」
「刃こぼれは防止できませんが、錆びと汚れが、ましになります」
慧が笑う。
「手入れか、めんどいな」
店員は首を振る。
「それを怠るかどうかで、差がつくんですよ」
それだけ言った。
慧が次々カゴに入れる。
タグが十個。ライトが二本。電池。手袋。止血。テープ。
透も最低限を入れる。
レジへ行く。
店員が言う。
「ライセンスの提示、お願いします」
透が探索者ライセンスを出す。
慧も出す。
店員が端末で読み取って、画面を確認する。
「購入品はライセンスに紐づけています」
「もし、紛失された場合は連絡してください」
会計が済むと、武器は専用ケースに入れて渡された。
消耗品は袋にまとめられる。
店を出る。
慧が言う。
「消耗品の方が金かかった気がする」
透が言う。
「実際そうかもね」
慧が笑う。
「消耗品で死なないために金使うの、変な話だな」
「でも、必要だからな」
透はケースの取っ手を握り直した。
慧が言う。
「次は稼ぐぞ」
「武器代、取り返す」
透が言う。
「次までに、もう一回整理する」
「三層のやつも」
慧が頷いた。
「忘れんなよ」
「見えるの、お前だけなんだ」
透は返事をしなかった。
頭の片隅に、あの並びが残っている。




