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箱庭の進化 〜世界にダンジョンが現れた日〜  作者: 観測者
2章

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41/80

ゴブリンキング、帰還

昨日は申し訳ありませんでした。体調不良により動くことができず

投稿することができませんでした。本日からまた、よろしくお願いいたします




王は、近かった。


玉座の段差を降りてきた瞬間、距離の感覚が狂う。

大剣ゴブリンの“重さ”とは違う。

軽い。速い。手数が多い。


王の手には湾曲した短い刃があった。

カトラスみたいに、刃が内側へ弧を描いている。

振られるたび、苔の光を拾って白く走る。


慧が低く言う。


「来る」


来た。


踏み込みが小さい。なのに距離がなくなる。

刃が横に走る。


透は鉈を構えた。


欠けている。

刃こぼれが増え、引くたびに引っかかる。

切れるはずのところで止まり、衝撃が手首に返る。


——もう、限界だ。


透が一歩ずらした瞬間、刃が追ってきた。

避けたはずなのに、腕が熱い。

袖が裂け、血が細く走る。


「っ……!」


痛い。

でも止まれない。


王は止まらない。

一撃目の終わりが次の始まりになっている。

上下、左右、角度を変えて刃が飛ぶ。


慧がバールを振った。


押す。ずらす。間合いを狂わせる。


刃が空を切った。


その一瞬で透が入ろうとして、鉈がまた噛む。

刃が止まり、腕が遅れる。


「……くそ」


透の腕が痺れた。

握力が落ちる。

汗で柄が滑る。


王の刃が、今度は慧へ走った。


慧は引いた。

避けれてるはず、なのに、かすった。


布が裂ける音。

慧が息を短く吐く。

腹の横に赤い線が走った。


それでも慧は顔を変えない。

変えないまま、バールを構え直す。


先端が歪んでいるのが見える。

それでも、殴るだけなら——まだいける。


王が低く鳴いた。


「ぐぎゃ……!」


声が近い。

鼓膜が痺れる。


透の足が一瞬、止まりかけた。

怖いわけじゃない。疲労で身体がついてこない。


王はそこを逃さない。


刃が縦に落ちた。


透は横へ跳んだ。

間に合った、はずだった。


太腿が熱い。

遅れて痛みが来る。

血は出る。でも致命じゃない。


「透!」


慧の声が飛ぶ。


透は歯を食いしばって立て直した。

立て直すしかない。


慧が前へ出た。


危ない。

王の間合いだ。


でも慧は出た。

バールを押し込むように振る。

刃の軌道を真正面から、少しだけずらす。


王の体が、ほんの僅かに浮いた。


透はその隙に鉈を入れようとして、止めた。


鉈が信用できない。

噛む。止まる。

次の刃に間に合わない。


透は考えを切り替えた。


切る場所を変える。


足。


踏み込みを削れば、速さが落ちる。


透は鉈を当てて、引いた。


刃が噛む。止まる。

それでも歯を食いしばって引き切る。


王の足が、わずかに遅れる。


次の踏み込みが浅くなる。


慧がもう一度押す。

透がもう一度足を削る。


王が苛立ったように刃を振る。


透の肩が裂けた。

血が温い。

視界が白くなる。


でも足は止まらない。


「……まだ!」


透が声を絞る。


慧が短く言った。


「終わらせろ!」


透は最後の一歩を踏み込んだ。


鉈はもう“切る道具”じゃない。

叩く道具になってしまった。


透は王の首元へ刃を叩き込み、引いた。


ガタガタの刃が、骨に触れるような感触を残して——抜けた。


王の体が止まった。


刃が落ちる。


王が目を見開いたまま、霧になった。


広間が静かになる。


矢も石も、近接の足音もない。

ただ、透の呼吸だけが荒い。


透は膝をつきかけて、立ち直った。

鉈を落としたら、もう拾えない気がした。


慧も息を吐いた。長く。


「……終わった、か」


「あいつを倒したら、勝ちだったんだね」


透は頷いた。


遅れて視界が動いた。


【観月 透】


【Lv】10→14

【MP】120→155

【筋力】35→48

【敏捷】38→52

【魔力】30→41


数字が上がってる。

でも喜ぶ余裕はない。

腕が痛い。足が痛い。息が熱い。


慧の方でもレベルが上がってるんだろう。

慧は見ただけで、すぐ床を見る。


霧が消えた場所に、落ちているものがあった。


大きい魔石。

今までのどれより重い。冷たい。

光り方が違う。芯がある。


——王の核。


そして、もう一つ。


丸いオーブ。

手のひらに乗るサイズ。

淡い光を内側に溜めている。


透がそれを拾った瞬間、視界に表示が出た。


『回復魔法 使用する Y/N』


透は息を止めた。


慧がオーブを見て、短く言う。


「透。お前が使え」


「……これ、一回きりかもしれない」


「だから今使うんだ。死ぬよりマシだろ」


透はオーブを握り直した。

掌に温度が広がる。怖いほど自然だ。


透は選んだ。


Y。


次の瞬間、オーブの光が掌から吸い上げられるように消えた。

熱でも冷たさでもない。身体の内側に“何かが増える”感覚。


視界が一度だけ揺れて、表示が落ち着く。


【スキル:観測】

【スキル:回復魔法】


透は喉を鳴らした。


「……スキルが、生えた」


慧が短く返す。


「回復、できるか?」


透は自分の裂けた腕を見る。

血は止まりかけている。でも傷は残っている。

慧の腹も、布の下でまだ痛むはずだ。


透は息を吸って、吐いた。


やり方は分からない。

でも、“できる”感じはする。


透は掌を自分の腕に当てた。


——来い。


言葉にしなくても、内側が反応した。


温かさが走る。


裂けた皮膚の縁が、じわりと寄っていく。

赤い線が細くなり、血の跡だけを残して閉じる。

痛みが消える前に、傷そのものが消えていく。


太腿の切り傷も同じだった。

肉が塞がり、熱が引き、最後に“傷があった感覚”だけが薄く残る。


まるで時間が巻き戻るみたいに。


透はすぐ慧へ手を伸ばした。


「じっとして」


慧は頷く。


透が慧の腹の上、裂けた布のあたりに掌を当てる。


温かさが広がる。

息を吸っても痛くない。

皮膚が元に戻っているのが分かる。


慧が短く吐いた。


「……すげえな」


透は掌を見た。


オーブはもう無い。

粉も残らない。

最初からそこに無かったみたいに消えている。


透は喉を鳴らした。


「オーブは消えた。……でも」


慧が頷く。


「残ったな、スキルとして」


——これが、もっと強くなれば。


透はその続きを飲み込み、王核をリュックに押し込んだ。


「帰るぞ」


慧が言った。


透は頷いた。


歩き出してから、透はリュックの中身に指を入れた。

拾ったものが、ぐちゃぐちゃに入っている。


赤い小瓶。

同じ形。あの淡い赤の液体。

魔法側近のところで落ちたものだろう。


歪んだ金属片。

刃の破片みたいな、黒い欠片。

大剣側近の足元で転がったやつかもしれない。


使わない。

今は使い方も分からない。


階段を何度も上る。

王の上の階は草原だった。

でも、もう上の敵は相手にならない。

空気が違う。広間の圧が消えている。


上るたび、世界が少しずつ軽くなる。


膜をくぐった瞬間、外の空気が刺さった。

冷たい。乾いている。現実だ。


仮支部の白いテントが見える。


入口の職員が顔を上げて、止まった。

目線が、透と慧の服をなぞる。


裂けた袖。焦げた跡。泥。

乾いた血の筋。

どれも痕跡だけが残っていて、本人の体には傷がない。


職員が、半歩だけ前に出た。


「……何がありました?」


慧が短く答える。


「生きて、戻れた」


職員の目が次に足元を見る。

歩幅。重心。呼吸。

二人とも立っている。けれど軽くない。

今にも倒れこみそうだ。


「座れますか。——水、持ってきて」


奥に声が飛ぶ。

別の職員が走る音。自衛隊の制服が一人、近づいてくる。


透は頷いた。


「大丈夫。……たぶん」


職員は透の腕を見る。

袖が裂けているのに、皮膚は塞がっている。

慧の腹のあたりも同じだ。裂けた布だけが残っている。


職員が眉を寄せる。


「……治ってる?」


慧が小さく言った。


「色々、あってね」


職員は一瞬だけ黙って、それから机を指した。


「今は危険情報だけ、教えてください。詳しい話は後日。詳しく聞かせてください」


透はリュックを下ろした。

重い音がして、職員の目がリュックに吸い寄せられる。


「三層で、踏んだ」


透が言う。


「光って、次の瞬間、洞窟にいた。——いきなり飛ばされた」


自衛隊の男が、顔色を変える。


「転移……?」


透は頷いた。


「戻る階段を探して、上へ上がった。途中で……二足歩行の豚。刃と棍棒」

「それから……ゴブリンの王と部隊」


職員のペンが走る。


「転移罠。深層個体。——確認」

「全国の支部に注意喚起を回します。今すぐ」


透は最後にリュックの奥を開けた。

王核と淡い赤の瓶、肉に鉄の塊を取り出す。


テーブルに置いた瞬間、場の空気が変わる。


職員が息を飲んだ。


「……それは」


透は短く言った。


「ドロップ品。ゴブリンの王と二足歩行の豚、ほかにもいろいろ」


職員は口を開けかけて、閉じた。

聞きたいことが多すぎる。


そして言い直す。


「未確認のドロップ品は研究に回させていただきます。その分は、買取価格に上乗せさせていただきます」

「今日は帰って休んでください」

「詳しい聴取は後日。必ず呼びます」

「危険情報は共有します。——転移は特に」


慧が頷く。


透はリュックの口を閉じた。

肩に掛けた瞬間、重さが現実に戻る。


二人は、生きて戻れたという現実を抱えて、家に帰る。


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