第三話 うわっ、この城幽霊多過ぎ……?
聖女ラビ一行が幽霊達との戦闘に突入した頃、訳も分からず幽霊達に追いかけ回される事となったリュースケはというと……
リュースケは背後にあった扉から直ぐさま逃げ出した。未だに幽霊達の怒りの声が背後から聞こえる。後ろを振り返る余裕など彼には無い、全力で走りながら入った部屋の様子を見た。
縦長の部屋で部屋全体が月明かりに照らされている。それ以外には何も無く、隠れられそうな場所も無い。あるのはまっすぐに進んだ先にある扉だけだった。
「ハァッ! ハァッ! ヘアァッ!!!」
息を切らしつつ扉を目指すリュースケ。
突然に背後から風切り音がかなりの速さで近づいている。
リュースケは急に嫌な予感がしてしゃがむと頭上を大きな瓦礫が過ぎ去る。避けられたことに安堵しつつ、直ぐさま扉に向かって走る。幽霊達が怒りの声を上げながら迫ってきていた。
急いで扉を開けて次の部屋に飛び込む。
次に入った部屋は窓が無く真っ暗な空間だった。
背後の扉から差し込む月明かりで、ここが正方形だということが分かる。リュースケから見て左手側と正面にそれぞれ扉がある。悩む間すら惜しく感じて正面の扉に走り出した。
進む中で急に頭に何かが当たった。
思わず立ち止まり見上げると天井に松ぼっくりのような飾り物がびっしりと付いていた。そして足下を見ると松ぼっくりが一つ落ちていた。
また頭に当たる、今度は複数で。雨のように松ぼっくりが天井から幾つも降り始めてきた。リュースケは気持ちの悪い光景に青ざめてしまう。背後の霊達の声が大きくなってきた。
それに気づき慌てて正面の扉から出る。
先の部屋に入った途端、幽霊達の声が聞こえなくなった。
あれだけの殺意をぶつけておいて諦めるはずが無いと判断するリュースケ。幽霊達の異変に一瞬立ち止まってしまうが、直ぐに部屋の左手にある扉に駆け出した。走りながらチラリと部屋の様子を見ると上側に歴代の王たちの胸像が飾られていた。部屋の全方位に飾られていてかなりの数がある。全ての像に上から監視されているかのように思えてしまう。
居心地の悪さを感じて前を向き駆け出す。
突然、全ての胸像からの視線を感じて目線を上に向けてしまったリュースケ。それがいけなかった。
何も無かったので視線を前に戻したリュースケの眼前に追いかけてきた幽霊達が佇んでいた。
「うおぁああああああああっ!」
突然のことに思わず叫び、後ろにのけ反りながら大きく尻餅をつく。すぐに前を向くが先程の霊達がいなくなっていた。訳がわからないがとにかく部屋から出ようと起き上がり駆け出す。
扉まで後一歩というところで大きな物音が背後からした。
恐る恐る後ろを見ると一体の胸像が落ちていて、突然に部屋中の窓が開いて強烈な突風が吹き荒れた。
異様な状況に思わず漏らしてしまうリュースケ。地面に水溜まりを作りながら急いでこの部屋から脱出しようとする。
扉に手を掛けた瞬間、足が重くなる。
下を見ると大量の霊達が両足にしがみついていた。牙で噛みついている霊もいる。地面から顔だけを出して睨む霊も多くいた。
あまりの恐怖と痛みに気絶してしまうリュースケ。そのまま前に倒れ込む。
もし、かろうじてでも意識があればその後の霊達の変化に気づけていたのだろう。
あれほどの殺意をむき出しにしていた霊達はリュースケに触れた瞬間、消滅してしまったことを。それも彼にしがみついたり噛みついた霊達だけがということを。
突然の異変に残りの霊達は顔を見合わせ一旦姿を消した。
後にこれがリュースケの異世界での武器になることになる。だが悲しいかなリュースケは気絶中なのでそれに気づくのはもっと後になる。
一分後……
「はっ!! あれ? いない……」
気絶から目覚めるリュースケ。慌てて足下を見るも先程の霊達は居なかった。
「痛っ!?」
足下に痛みを感じた。その場所を見てみると人の噛み痕や強く握られた手痕がいくつもあった。
部屋の様子を見ると彫像は元の位置に戻り、部屋の窓も閉じられていた。霊達はあの場で絶対に仕留める位の目をしていた、それで最期を覚悟していたリュースケ。助かったことへの喜びよりも違和感の方が大きくなっていた。
「は、早くここから出ないとっ!」
それよりも自分は追われている身だと思い出し、痛む足をかばいながら扉を開けるリュースケ。
眼前に飛び込んできた光景に絶句する。
真っ赤としか言いようがないもので天井も床も壁も扉でさえ赤かった。
さっきの部屋よりは小さな部屋だ。リュースケから見て右側に祭壇のような物があり、この部屋は礼拝堂かと思われた。そして床以外のそれぞれの面に絵画が飾られている。宗教画というものなのだろうか、場面は違うがそれぞれに同じ女性が描かれている。経年劣化から絵はボロボロの状態になっていて、部屋の真っ赤さと合わさってかなり恐ろしく感じられる。
それはそれとしてこの内装はセンスなさ過ぎるだろう、と内心ツッコミながら正面にしかない扉に足を進める。
扉に進むリュースケは内心考えていた。
何があっても気にせずさっさと進む、幽霊達から逃げ切ってみせると決意した。
早速、背後から物音がした。
正直、この部屋に入った時点で霊達が仕掛けてきそうだな思っていたリュースケ。また漏らしながらも先程の決意を思い出して扉の取っ手を掴んだ。
「あ、開かないっ?! なんで?!」
扉が開かなかった。
何度押しても、引いてみても、思いっきり体当たりしてみてもビクともしなかった。
焦るリュースケ、その背後で大きな物音がした。恐る恐る振り返る。
黒い涙だった。
部屋にある全ての絵の女性の目元からそれが流れ続けていた。絵の上から実際に流れ続けていて床に黒い水たまりを作っている。
幽霊達の攻撃が始まったと慌ててドアを開けようとする。
しかし全く動かない。
額縁ごと激しく震えてきた。どの絵の女性も黒い涙の勢いを増しながら、リュースケ目指して絵の中を進み始めた。
「なんでっ! 開かないんだよっ!」
パニックになるリュースケ、段々と絵画の女性が近づいてくる。表情も微笑むような物から化け物のような顔に変わってきている。
とうとう額縁に手を掛けて乗り越え始めてきた。未だに扉が開かず号泣しているリュースケ。
天井の絵から女性が落ちてきた。それと同時に残りの絵からも女性達が這い出て地面に立つ。
もうどこにも逃げ場の無い状態となった。思わず部屋の隅に逃げ込むが、女性達はゆっくり迫ってくる。
リュースケを囲むように立ち、獣のように身構えだした。うなり声を上げながら牙をむき出しに、爪も鋭く長く伸ばし始める。
そして地面に穴を開け、大きな音を起てながら飛びかかってきた。
腕で身を守るように縮こまるリュースケ、噛みつかれた痛みが腕からいくつも走った。
「ッンッ?!!!」
何かが消えるような音がした。
思わず目を開けるとそこには何も無かった。絵画も元に戻り、黒い涙の痕も、飛びかかる時に付けた穴も無くなっていた。
どうにか壁に手を掛けながら立ち上がるリュースケ。先程まで開かなかった扉に手を掛ける。何事も無かったかのようにすんなりと開く扉、すぐに駆け出した。
リュースケは恐怖の限界を超えてしまい何も考えられなくなっていた。とにかくこの場所から出ることだけが頭に残り、走り出す。
走る。
開ける。
走る。
開ける。
走る。
開ける。
リュースケはただこの動作だけを繰り返しいくつかの部屋を駆け抜けた。
なぜかその間、幽霊達の攻撃が無く突き進めたリュースケ。もちろんそのことに気付ける余裕など彼に無い。
「行き止まり?!」
武器庫にたどり着いた。しかし先に進める扉が無かった。
逃げ場がなく絶望するリュースケ、地面にへたり込んでしまう。
これまでの人生が走馬灯としてよみがえりだした。
ただいつも通りの日常を過ごしていただけなのに……。
訳も分からず霊達に追いかけ回され、死ぬような思いを何度もして、一体自分は何をしたっていうんだと怒りがこみ上げてくるリュースケ。
過剰なストレスで普段の彼にしては考えられないくらいに怒り狂う。
一周回って冷静に分析ができる位にキレ散らかしていた。
幽霊に物理攻撃は効果は無いだろうがそれでも怒りが収まらない、と武器庫にある短剣を手に取る。試しに振ってみるが意外と重く、思うように扱えない。かえって隙を作ってしまいそうだ。武器庫を見回すが扱えそうな物は無かった。
その状況にますます怒りがこみ上がってきた。思わず地団駄を踏み、足の噛み痕から痛みが走る。
その時、リュースケはおかしな事に気付いた。
お”ッッッ♡!!
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