第二話 新米聖女、城に入るってよ
リュースケが幽霊達に追いかけ回される少し前に時は遡る。
事の発端は組織に届いた知らせだった。
近頃、自領の村で怪奇現象が多発、中には大けがを負う者も出始めている。その村だけでなく近くの別の村や町でも同様の事が起こっているので助けてほしいとのことだった。
直ぐさま、組織は情報収集と人員の編成に取りかかった。
場所はアッポー領の外れの方、かつてその一帯を治めていたザマ王国の城がそれぞれの被害現場を囲った中心にある事が判明する。更に当時の王国は人々に圧政を敷いていて、民衆のクーデターによって滅ぼされたことも発覚した。目撃情報と併せて、クーデターで滅ぼされた城の関係者の霊達による仕業と考えられた。
人員の編成も進み、聖女「ラビ」率いるチームに本件の対処を任せることになった。
まだまだ新米聖女で魔法の扱いはギリギリ及第点ではあるが、身体能力と戦闘能力の高さは他の聖女に遅れを取らない実力の持ち主である。経験不足はほかのメンバーでフォロー出来るようにそれぞれの分野での実力者がチームに編成されている。今回はそれに一名の追加がされて問題の廃城に派遣されることになった。
そしてラビ率いるチームが廃城を目指して森の中を進んでいた。もう森の出口も見えており、後は坂道をまっすぐに進み続けると廃城に到着する。
森を出て坂道が見えてきたところで、金の刺繍が所どころに入った黒いシスター服姿のラビが口を開いた。
「皆様、此処で一息つきませんこと? 城まであと少しですわ、今が休める最後だと思いますの」
「さんせ~い。森の中をずっと警戒し続けて結構疲れたのよね~~もう目の前だし今のうちに休んでおきたいわ」
そう答えたのは、スケイルアーマー装備のゆるふわピンクウェーブのエルフの女性「ユミル」。
三角帽子にローブ姿の青髪ショートの少女「リョウコ」も続いた。
「賛成。少し休みたい」
「ここいらで装備の確認でもしとくかの」
そう続けたのは、プレートアーマーに白髪ロングの髭もじゃドワーフの男性「ボブ」。
スケイルアーマーを纏い、スキンヘッドで顔を含む全身傷だらけの悪人面の男性「ライガー」が言った。
「俺も賛成です。これが落ち着ける最後でしょうからね。今のうちに休んでおきましょうか」
そう言い終えると同時にレザーアーマーに黒髪おさげ、人の姿に狼の耳と尾を生やした狼獣人少女「グレイ」が双眼鏡を片手に近くの大木から下りて報告してくる。
「報告だよ。周囲に異常は無し、城にも今のところは大きな変化は無いみたいだ。近くに僕たち以外の存在も確認できないよ」
「ありがとうございますわ。今のうちに休んで下さいませ」
「うん」
グレイを労り、ラビは追加人員のチェーンメイル装備の小太り金髪の男性「チャールズ」に声を掛けた。
「チャールズさん、大丈夫ですか? ここからが本番ですの。今のうちに休んで下さいね」
「そうしときます……ちっ、なんで俺がこんな目に……」
悪態をつかれ、少ししょぼくれながら女性陣と一息つくラビ。
今回の件で初めて会ったときから壁を感じていた。ラビだけで無く、他のメンバーも同様だった。
ラビは休みながらチャールズの事を考える。
組織のボスからラビ達がこっそり教えて貰ったことには、このチャールズという男、貴族の三男坊で家督簒奪を目論み、大騒動となったらしい。
結局簒奪は失敗してしまい、彼の父から性根をたたき直してほしいと頼まれラビ達のチームに加わる事となった。組織はコネでどうにかなるほど甘い物では無く、命の危険も伴うものである。しかし彼の父に借りがあるボスは断り切れず、受け入れることにしたらしい。
事情はどうあれこれから一緒のチームとしてやっていく以上、ある程度の親交を深めようとライガーが声を掛けるも素っ気なく対応されてしまう。ラビも様子を見かねて声かけをするも同じ対応だった。
他のメンバーにも同じくで親交が深まらない中、この任務に出発となった。
城に一番近い村に到着してからこの男の本性が明らかになってきた。
村人には横柄で馬鹿にした態度をとり続け、その態度を諫めるも一向に改めようとしなかった。
到着した時点で一刻を争うほど状況が悪化していたので、すぐに城へ向かう準備をしている中でも彼はやらかす。
「移動で疲れたから回復してからでも良いだろう、村人共にはその間我慢して貰えば良い」
そんな発言まで飛び出した。
どこまでも自分本位で平民をバカにした態度をとり続けるチャールズにライガーはきつく叱責した。チャールズは逆上し、チームメンバーや組織の事までけなし始める。
仲間をけなされぶち切れたラビが、チャールズにジャーマンスープレックスを決めて事態は落ち着いた。チャールズはふてくされながらもおとなしくなり城に向かって出発となった。
そんな事を振り返り、チャールズに対して不安感を感じながらラビは休んだ。
ある程度の休息をして、立ち上がる一同。目の前にある坂道を進み、廃城を目指し始めた。
ラビは内心かなり緊張していた。
聖女としてチームを率いて幽霊退治に赴くこと、及第点とはいえまだまだ魔法は先輩聖女のお姉様達ほど上手く使えないこと、チャールズとチームに溝があること、挙げればキリが無いほどだった。
しかしと彼女は思った。
お姉様達はもっと強力な幽霊達と日夜戦っている、近くの村や町の人々は恐ろしい目に遭い続けている。ならば自分も根性見せなくてはと奮起した。
見晴らしの良い道を進みながら目の前に城門が見えてきた。坂道でも襲撃はなく、怪しさを増してきた。
城門前に一行は到着して、ラビは自分を奮い立たせながらチームメンバーに言った。
「皆様! これより城に突入しますわ。ここは奴らの本拠地と思われますわ! 心してかかりますわよ!」
「「「「「了解!」」」」」「……」
未だにチャールズはふてくされていた。だが気にする暇も無いと全員が警戒態勢になりながら城門を進む。
城門の段階からかなりボロボロだったが、その先もやはり廃れていた。
クーデター後、手入れをされていなかったのか雑草が伸び放題で、外壁は虫食いのように穴が開いている。地面にはボロボロになった剣や防具や瓦礫が転がっていて、此処を根城にしていた盗賊団らしき白骨遺体もそこら中にあった。
薄気味悪い景色に全員が眉をひそめる中、城の入り口を目指した。
周囲を警戒しながら進み、入り口の扉に手を掛けた瞬間だった。
何か音が聞こえ、それに合わせて地面も揺れ始める。どちらもどんどんと大きくなっていく。
そしてかなり大きな揺れと音が城一帯を襲った。
とうとう幽霊達の攻撃が始まったと全員が思い、防御を固めつつ周囲を警戒した。
しかしすぐに地震は収まった。何があるか分からないと警戒を解かずに周囲の様子を伺う。
なぜか此処では無く城の内部で大きな音が聞こえ始めて来る。それに対してラビは嫌な予感がして叫んだ。
「グレイさん! 中の様子をっ!」
グレイはすぐに壁をよじ登り、空いていた穴から城の中をのぞき込み叫んだ。
「謁見の間! 霊達が民間人に対して攻撃してる! 民間人が走り出した! 部屋を出る気だ!」
「皆様! 至急追いかけますわよ! 急がないと幽霊達の餌食になりますわ!」
ラビ達はすぐに入り口に突入した。
その先では使用人や騎士の霊がうじゃうじゃと佇んでいた。こちらを認識するや、彼らはニタニタ笑いながら襲い掛かってくる。
ラビはチームメンバーの武器に魔法を掛けながら叫んだ。
「総員! 戦闘用意!」
各自がそれぞれの武器を構え、駆け出した。
ラビも大きなメリケンサックを指に嵌めながら走り、目の前のニタニタ笑っている霊を殴り倒す。
ラビ達の戦いが始まった。
ぽっこりお腹を撃退したい……
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