二十八話 マスカレード・集会所
パーイン町に続く道を進み続けるラビチーム。
一同の乗る魔導車内に監視役が三名乗り込み、大型魔導車がラビチームの車両の前に一台、後ろに一台と挟んで進んでいる。見た目はトレーラー付きアメリカントラックのそれは王族と護衛騎士達を纏めて移動させる為に開発された大型魔導車で頑丈さと居住性と大規模運搬能力を突き詰めた結果、ここまで大型になったと説明された。
車内にてユミルに尋ねるリュースケ。
「ユミルさん、パーインってどんな所なんですか?」
緊張気味のユミルが答える。
「……パーインは元々はエルフの集落が点々とあった地域なのよ。集落同士が合併して町の形に発展していったわ。授業で説明したけどエルフって魔法の扱いが上手いヤツがやたらと多いの、種族の特性なのかしら? そのエルフの中でも更に魔法の扱いが上手い連中が多かった地域なの、”魔法と言えばここ”みたいな扱いをされてたみたい。そして各地の魔法使いがこぞって集まって魔法研究をするようになって更に発展していって、といった具合ね」
「だからメローヌ様もパーイン町で魔法留学しているんですね。そう言えばユミルさんが魔法を使う所をあまり見ないような……」
「……剣を振るう方が合ってたみたい……」
「あっ……(察し)、ふ~ん」
そんな雑談をしながら進み続けてパーイン町の入り口が見えてきた。
入り口を進んで直ぐ目に付いたのは、多くの馬車や人々が行き交う大きな建物だった。
「ユミルさん、あの建物は? すごい人や馬車ですけど……」
「あれは配達屋よ。手紙や荷物の出入りを一括で管理している所、昔はよく手紙を出しに来たわね」
懐かしがるユミルに説明をしてもらいながら車が進んで行く。
そこから十分ほど進み続けて町の中心を通る。そこには大きな庁舎のような建物があった。
「あれって町役場ですか?『そうよ』」
町役場を通り過ぎて更に進んでいくと段々と住宅が増えてきた。この先は居住区画とユミルが説明する。先導車は区画の終わりにまで進んでいく。その先には大きな屋敷があった。
前方に先導されて屋敷に到着したラビチームはそこで下車、そしてメローヌ達から今後の予定を聞く。彼女らはこの後、集会所にて赤ちゃん返りしてしまった者らから話を聞くという。当然ラビ達も共に行くことになり、集会場に歩いて向かい始めた。
町の中を進むラビチーム、久々にユミルを見た知り合いの人々が声を掛け、それに応対しながら進む。
移動しながらリュースケが周囲を見渡すとそこら中で魔法使い達の姿が見えた。広めのスペースにて魔法の実験を行っている者や魔法使い同士で情報交換を行っている様子が見受けられる。それらに体が吸い寄せられそうになるリョウコをグレイと抑えながらリュースケは進む。
先程見た町役場の近くにまで進み、目的の集会場に到着した。
管理人達に声をかけてから廊下を進み、いくつかある部屋の中で一番大きな部屋に入る。管理人達の話だと今日はこの部屋しか使われないようで他の部屋は暗く静かだった。
入った部屋にはテーブルが用意され、人々が沈痛な面持ちで待機していた。
冒険者や凄腕そうな魔法使い、学者風の者に議員のような者までおり、共通点が見受けられないほどに関係性がバラバラなメンツだった。
メローヌが声を発する。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。これよりこちらのラビチームの皆さんと私達で”赤ちゃん返り現象”についての調査を行わせていただきます」
うなずく人々、メローヌが続ける。
「では一番最近の方は?『俺です……』あら! あなたが?!『……はい……』では説明していただけますかしら?」
知り合いの冒険者がいることに驚きつつ説明を求めるメローヌ。
リュースケ達の近くにいた騎士が誰なのか説明してくる。
この男はこの地域をメインに活動している凄腕の冒険者で、危険モンスターの討伐から町の困りごとまで、様々な分野で嫌な顔をせず引き受けて解決している頼れる人物だという。これまでの功績から最近、町で表彰されたのを機にメローヌと知り合ったと説明してきた。
そんな彼が話し始めた。
「あれは町長の騒ぎから三日後、いつものように仕事を終えて仲間と酒場で飲んでいた時です……急に右腕に力が入らなくなってそれから直ぐに全身の力が抜けて意識が無くなったんです……
意識が戻ったら四つん這いになって口元がよだれまみれになっていました……仲間を含めた客達の多くが大爆笑、一部からはドン引きされていて……いきなり倒れ込んだと思ったら急に赤ん坊の真似事を始めたらしいんです……しかもかなり上手かったらしくて……
今でもからかわれるか、距離のある対応をされるんですよ……」
うなずく人々。
他の面々も似たような状況だったと言う。
全員がユミル父やこの冒険者と同じく、意識を無くしてから”赤ちゃん返り”をしてしまっていたと話す。どの人物も町で有名な者達ばかりであり、この現象のせいで人間関係に影響が出て苦労していると話した。
ラビが人々に尋ねる。
「皆様、ワタクシ達は幽霊退治を専門としています。今回はそれが関係しているかの調査の為に参加してますわ。その現象が起こる前後に何か周囲で異常現象は起こりませんでしたか?」
人々は顔を見合わせるも特に無いようだった。
「関連性の有りそうな出来事や事件が過去にこの地域にありませんでしたか?」
役人だというエルフ男性が答える。
「そんな話は聞いた事が有りませんね……戦争前から魔法一筋で大きな事件の無い穏やかな町でしたよ? 流石に戦時中はピリピリしていましたが余所よりは比較的平和でしたし……戦後も変わらずでメローヌ様の留学先に選ばれる位ですからな……」
「そうですの……ありがとうございますわ」
残念そうな顔を浮かべるラビ。
ライガーがつぶやく。
「強制的に”オギャり”になるですか……プレイ中ならともかく……いきなり街中で、しかもママ役もいないでそうなるなんて……」
メローヌが聞きつけ言い放った。
「それいいですわ! ”赤ちゃん返り”、だと少し長いと思ってましたの! これからは”オギャり”と呼びましょう!」
騎士団長が慌てて止めに入る。
「いけません! メローヌ様! そのような言葉を口にされては!『これほど状況を的確に表している物はありませんわよ? そこまで下品な言葉ではありませんし』しかし!」
説得を続ける騎士団長を横目にライガーは言う。
「リュースケ……スケベは身分すら超えるんだ……」
「なに言ってんだ……」
本気であきれるリュースケ、ゴミを見るような視線を向ける女性陣、ラビに頭をシバかれるライガー。
王女に頭を抱える騎士団長、しかし急に地面に倒れ込んでしまう。彼だけでなく他の騎士達やオギャり加害者達もそうなっていた。
もしかして、とラビチーム全員が感じた瞬間だった。
「……ああぁぶぅう! イィェエヒヒッ!」
「キャァッ?!」
団長はメローヌの足を掴みオギャり出してしまった。直ぐにラビ達の背後に逃げ込むメローヌ。見渡すとラビチームとメローヌ以外のこの場の全員がオギャってしまっていた。
そして騒ぎに気付いた管理人達が駆け込む。
「どうしまっ……えっ? これは一体?」
ラビが指示を出す。
「皆様! 一カ所に移動させますわよ! メローヌ様と管理人さん達も手伝って下さいまし! ワタクシ達で部屋の端に集めます、残りの方々は集めた方々が勝手に離れたり危ないことをしないよう見張っていて下さいまし! 行きますわよ!」
「「「「「「了解!」」」」」」「「「「はい!」」」」
直ぐに動き出すラビチーム、メローヌと管理人達も動き出した。
大人サイズの赤ん坊の移動に苦労させられるラビチーム、何より大の大人が本気で赤ちゃん返りしている姿は中々に精神的に来るものがあった。それでも怪我をさせるわけにはいかず、どうにか全員を集めきる。
息を整え、オギャりだした者らをあやしつつメローヌに話を聞くラビ。
「メローヌ様? もしかしてこれが?」
「はい……町長さんがオギャり出した時もこのような状態に……ですが騎士団全員がこうなるのは初めてです……一体この現象は? 何が起こっているの?」
困惑の色が隠せないメローヌ、彼女の背後で異変が起こった。
「「「……んぎゃあ"ぁ"あ"あ!!」」」
しわがれたような、ガサガサしたような、異様な泣き声が部屋の入り口付近から響き渡る。
これで全員集めたはずなのになぜ?と慌てて顔を向けると、そこには異様な存在がいた。
三体の老人が四つん這いになってそこにいた。
警戒しているラビチームに気付かれずに現れ、更にベビー服姿におしゃぶりをくわえ血走った目で一同を見つめていた。今までラビ達が遭遇してきた霊達と同じ独特の雰囲気を発して宙に浮いている。
ド緊張状態のリュースケはラビの指示を待つ。
相手は霊と判断したラビが指示を出した。
「戦闘態勢!」
直ぐさま身構えるラビチーム、ラビは各自に干渉魔法を付与して駆け出す。リョウコは後ろのメローヌ達を守る様に立ち、緊張した面持ちのメローヌはその腕をそっと掴む。管理人達はオギャっている者らを守ろうと必死に身構える。
そして霊達が高速ハイハイでリュースケ達に迫ってきた。
背後からの不意打ち大声にビックリして漏らしたリュースケ、とはいえなぜか今までの戦いで感じたような恐怖が湧いてこないことに違和感を感じる。ともかくと駆け出した。
ラビは地竜の村で貰った特製手袋とメリケンサックを手に装着して鋭いストレートパンチを放つ。しかし霊達は反撃せずにただ避けただけで、直ぐにこの場から逃げ出そうとしてきた。
「なんだこいつら?! ……何に怯えてるンだ?!」
普段遭遇する霊達は殺意をみなぎらせて攻撃してくるが、今回はその殺意も攻撃も見られない、あるのは何かに対する恐怖の感情だった。間近で霊達の表情を見たラビがその違和感を感じつつ追いかける。
ラビの攻撃から逃げてきた霊達を前に、分かれて攻撃を始めるリュースケ達。
「はっやいのぉっ! クソ!」
「クッ! 素早いけどぉお! ハァッ! 一体目ェッ!」
ボブがハンマーを振り下ろすも素早く避けて脇を抜ける霊、フォローに入ったユミルも攻撃を避けられるが得物の剣を投擲して一体目を討伐する。
「リュースケェッ!」
「はいぃぃっ! ッ二体目ェッ!」
ライガーは盾で正面からぶつかり動きを抑え、それから巴投げの要領で投げ飛ばす。そして投げ飛ばされた霊をリュースケはジャンプニーキックで蹴り飛ばし二体目を討伐した。
「”アイス”! ”アイス”! ”アイス”!」「ふっ! フっ! ふッ!」
「三体目!」
後方からリョウコが援護射撃をしつつチャールズが逃げ先を牽制し続ける。そして霊の動きに追いつけたグレイが三体目の背後からダガーで急所を突き刺して討伐する。
周囲を警戒しつつラビが感じた違和感をリュースケ達も感じ、困惑する。違和感はともかくと直ぐに安全確認を始める。戦闘による負傷は無く、メローヌ達にも怪我は無く全員が無事だった。しかし騎士団長達は相変わらずオギャっていたままだった。
ラビがつぶやく。
「オギャった幽霊……やはりこの現象は霊の仕業なのかしら……」
困惑するラビチームの面々、一先ずオギャっている者らをどうにかせねばと思った所でそれは起こった。
窓ガラスが割れる音と扉を強引に開ける音が響き渡る。
そして黒い影が飛び込んできたかと思えばリュースケ達の前に覆面を装着した武装集団が現れた。
「こっちにはメローヌ様がいるんだぞオッ?!」
ラビが怒鳴るも答えない。
王族であるメローヌがいるにも関わらず、覆面達は武器を構えて襲い掛かってきた。
映画「きさら〇駅」を見ました。
ホラーとしてはそれほど怖くはありませんでしたが、脱出RTA映画として見ると中々に良きな印象でした。
続編の”RE”の方も楽しみです。
次回は三日後同時刻の予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後の執筆の励みになりますので是非とも評価をよろしくお願いします。




