二十五話 競馬堕天録ユミル 再世篇
ユミルと訪れた競馬場で人生初競馬を行うリュースケは大勝ちする。調子に乗った二人は次のレースに挑むことにした。
到着した競馬場で次のレースの予想を始める二人、そこに先程知り合ったオークの男性がやってくる。
「よお、二人共、さっきぶりだな……その様子だと早速一杯引っかけやがったな? うらやましいぜ全く」
「いいでしょ~~ビギナーズラックもバカに出来ないもんでしょ? で? その後のレースは勝てたの?」
ドヤるユミル、男性は気まずそうに言う。
「いいや……負け越してるぜ。これ以上はカミさんに叱られちまう……坊主、悪いんだがお前のビギナーズラックを当てにしてもいいか?」
困惑しつつリュースケは答える。
「構いませんけど……責任は取れませんからね?」
「そんな情けねえ真似しねえよ。最後に決めるのは自分なんだからな……どこに賭ける?」
「そうですねぇ……」
競馬新聞を開いて次のレースの分析に入るリュースケ。色々と分からない点を二人に質問しながら自身の世界の競馬知識と摺り合わせていく。そして決断した。
「次のレース……このダンツファイアに賭けようと思います」
「あら? この馬はまだ一度も一着を取ったことないけど……」
「まあ確かに好走する馬ではあるが……」
そしてリュースケは先程のレースで儲かった額全てをこの馬に全ツッパする。リュースケの決断に不安を感じつつも二人も同じく賭けた。
観覧席に移動してレースを見守る三人、そしてレースが終わる。
「いよっしゃあぁぁぁぁ!」
「よくやったわリュースケ!」
「キてるぞ坊主!」
またしても予想が的中する。大喜びの三人は競馬場に併設されている酒場で祝勝会を行う。
「やったな坊主! これでカミさんに少し怒られるくらい済みそうだぜ!」
「何言ってんの? コレを種銭に次も挑むのよ! 奥さんを見返してやりなさい!」
「よし! やったるぜぇ! それで次はどいつに賭ける?」
「いや……そろそろ止めた方がいいんじゃ……」
「何言ってんのよ! 夫婦仲の危機なのよ! 協力しなきゃだめでしょ! ついでにワタシ達も大もうけよ!」
「そっちの方が狙いだろってぇの! あはははは!」
「何の事かしら? あはははは!」
どう見ても負けフラグしか立っていない二人にそこはかとない不安を感じるリュースケ、しかし脳汁ドバドバの状態の彼は自身の危機管理センサーを無視して次の勝負に挑んでしまう。
「次はどの馬に賭ける?! ワタシはもちろん全ツッパよ!」
「ヒシミヤミラクルで! 俺もじゃあそうします!」
「ほいきたっ! 俺も全額賭けるぜ!」
そしてレースが終わった。
「いよっしゃぁぁぁっっ! また勝ったわよ!」
「すげぇぞ坊主!」
「いや~~それほどでも~~」
「次はどうするつもりだ?」
「そうですねぇ……セガクラウンで!」
「いっくわよぉ~~!」
そしてレースが終わる。
「やりましたよ!」
「やったぜ! カミさんに美味い酒を買ってやれそうだ!」
「いいわよ~~! このまま大金持ちよ! それで次は?!」
「う~~ん……」
流石のリュースケも儲かった金額とここまでの都合の良さに冷静になる。ユミルは金に目がくらみ次を急かしてくるがここで引かなければ本気で不味いと危機感が訴えてくる。古今東西の創作物ではここで欲をかいて大負けするのが約束された展開である。かなりの額が儲かったし、そもそも寮暮らしでここまでの大金は今すぐに必要という訳では無いと考えた。
ここで引く決断をするリュースケ。
「ユミルさん、ここで引きましょう? なんか嫌な予感がします……」
「何言ってんのよ!? 進み続けなければそこにあるのは停滞よ! ワタシは止まらないわよ!」
「俺は坊主の勘を信じるぜ。ここまで儲けさせて貰ったんだ、その勘が警告するなら従った方が良いと思うぞ?」
「ふん! ワタシ一人でも行くわよ! 次のレースは……ゴールドガレオンね! 前にもこのレースを二回勝ってるみたいだし三連覇確定よ! 今日のもうけを全ツッパね! ワタシが大儲けしてる様を目に焼き付けなさい!」
「あっ……」
二人の警告を無視して馬券を買いに行くユミル。あきれた様子で見守るオークの男性。ユミンが賭けた馬の情報をオークの男性から聞いて、リュースケの脳裏には嫌な予感が渦巻く。
三連覇が掛かったレース、名前にゴールド、しかも芦毛で破天荒な性格ときた。どうしても”白いアイツ”が思い出されてしまう。やはり無理にでもユミルを止めようとするも彼女は馬券を買ってしまっていた。
三人して観覧席に向かい、レースの開始を待つ。周囲の聞こえてくる会話を聞くとユミル以外にもこの馬に賭けている者が大勢いることがうかがえてますます”白いアイツ”を想起させられ不安になるリュースケ。
そして選手と馬たちがゲートに入った。固唾を飲んでスタートを待つ人々。
レースが始まる。
ゲートが開き、馬たちが駆け出そうとする。
誰もがゴールドガレオンの勝利を確信して応援を始めようとした瞬間、この馬はゲートの中で立ち上がってしまう。騎手は慌ててスタートさせようとするも指示を聞かずまたしても立ち上がる。その間にも他の馬は走り出し、どんどん離れてしまう。
「あいやぁああああぁぁぁぁぁぁぁっっ??!!」
猿の鳴き声みたいな悲鳴を上げるユミル。ようやく進み出すゴールドガレオン、しかし中々距離が縮まらない。
「イケるイケる! アンタは二連覇してるのよ?! 三連覇イケるぅってぇっ!」
諦めずに応援するユミン、そしてレースが終わった。
「ぼ……ろ……まけ……」
「まあ……何というか……そういう日もあるさ……坊主、儲けさせてくれてありがとな! そんじゃまたな!」
「はい! 今日はありがとうございました!」
オークの男性はリュースケ達に別れを告げて愛する妻の待つ家に帰った。ちなみに彼は帰宅途中に本当に少し高めの酒を妻にプレゼントしていた。今日の出来事を楽しげに語りながらプレゼントの訳を語り、あきれつつもこの人のこういう所が好きなのよねと彼の妻は思ったそうな。
一方、リュースケ達は酒場にいた。
「まけた~~……」
「ユミルさん……飲み過ぎですって……」
ユミルは反省会という名のやけ酒をしていた。
誰の目から見ても速いペースで飲み進めるユミル、店員も見慣れた光景なのか特に気に留めた様子は無い。
「ちくしょうっ! なんでッ! リュースケの言うこと聞かなかったのワタシ! リュースケも止めなさいよ!」
反省したのかと思えばいきなりリュースケに矛先を向けるユミル。酒飲みはコワいなと思いつつリュースケは答える。
「最初から止めてましたよ……それに強く止めようとしたらすでに買ってましたし……」
「うるさ~~い!……このお酒美味いわね……私このお酒と結婚する~~」
「どんな情緒してるんですか……」
「zzzzzzzz……」
「えっ? 寝た? ユミルさん?! 起きて下さい!」
「zzzzzzzzzzzzz……」
「マジか……」
ユミルの代わりに支払いを立て替えてからどうにか彼女を運んで外に出るリュースケ。彼の足下には酒瓶を抱きしめて爆睡するユミルがいた。移動のためにおんぶしようにも酒瓶が邪魔で出来ず、酒瓶を取り上げようとするもすさまじい力で抱きしめていてそうできない。
途方に暮れるリュースケ、遠くから彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
「リュースケさ~~ん! ユミルさ~~ん!」
荷車を引いたラビとその傍を歩くグレイとリョウコだった。傍にまで来た彼女らに尋ねる。
「皆さん!」
「迎えに来ましたわ」
「これさえ無ければモテモテだったと思うよ僕……リョウコもそう思うだろ?」
「うん……本人はモテたいらしいけど原因に無自覚なのがまた……」
「あぁ……」
「運びますわよ? 手伝っていただけます?」
「はい、今行きます!」
荷車にユミルを乗せて帰り路につく一行。夜の町の喧噪に包まれながら足を進める。
「それで? リュースケさんはどれくらい負けましたの?」
「いや……俺は勝ち続けましたよ? 途中で嫌な予感がしたので止めました」
「えっ……じゃあユミルさんも?『いや……俺が止めた後も挑んでボロ負けでした……』あっ……ち、ちなみにおいくら?」
「〇〇○くらいですね……」
「すごいですわね……」
「うん僕も驚きだよ……」
いやらしい笑みを浮かべたリョウコがリュースケに媚びる。
「リュースケ先生? 欲しい魔導書があるんですが……」
「こらっ! リュースケさんにたからない!」
「こないだ僕等に報酬が支払われたばかりだよ?『もうかなり使った……』自業自得だね『手厳しい……』」
諦めてうなだれるリョウコ、くどくどと説教を始めるグレイ、儲かった額に呆然としながら荷車を引くラビ、残念なものを見る目でユミルを見つめるリュースケ、四人は足を進めた。
途中でリュースケ達が通った道とは違う道に進み始めるラビ。なんでも最近グレイが散歩で発見した近道だと言う。グレイの散歩エピソードを聞きながら進む一行の先に見慣れた人物がどこかの店に入ろうとしていた。
「あら? ライガーさ~~ん!」
「げっ! ラ、ラビ様?! ど、どうもこんばんわ……」
「げっとはなんですの、失礼しますわ! もう暗くなりましたのにどちらに行かれ……」
「ラビさん? どうしたんで……あー……」
「相変わらずだね……」
「せめて遠い場所の方がこういうトラブルは無いと私は思うよ……」
ライガーが入ろうとしていた店の看板の見て納得するリュースケ。
その看板にはボインでセクシーな格好をしたお姉さんが鉄板焼きを作っている様子が描かれていた。
「俺がどこで何を喰おうと問題無いでしょ?! そのっ、たまたま鉄板焼き食べたいな~~なんて思った時に……き、近所に自分好みの鉄板焼き屋があっただけですから!」
オープンスケベなライガーといえど気まずく感じたのか挙動不審に反論する。ますますジト目になる女性陣、リュースケはいたたまれない空気を変えようと話す。
「ま、まあとにく……余り遅くならないようにした方がいいですよ! じゃあ俺たちは先に寮に変えりますね! 皆さん行きましょう!」
「お、おう! そうだな! 気をつけるよ! お前らも気をつけて帰れよ!」
そそくさと店の中に入るライガー、リュースケは女性陣を引き連れて進み出す。
これきっかけで男性のスケベな面についてアレコレと女性陣に尋ねられ続けるリュースケ、いつかライガーに飯を奢らせることを決意しつつ濁した応対を続ける。
そんな中、荷車にのんきに寝転がるユミルが叫ぶ。
「こんの~~! ドスケベがぁっ! あはははははっは! zzzzzzzzz……」
なんとも微妙な空気になる中、寮に帰る一行であった。
”白いアイツ”とは何なのか分からなかった方は「120億円事件」と検索すれば分かりますよ……
次回は三日後同時刻の予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後の執筆の励みになりますので是非とも評価をよろしくお願いします。




