二十四話 競馬堕天録ユミル 破界篇
リュースケ達が本部に帰還してから一週間が経過した。
その間、リュースケ達は鍛錬に励みつつ事件の疲労を癒やして過ごす。
そして短期入院していたラビとチャールズの退院の日となった。
医療棟の前でラビとチャールズを出迎えるリュースケ達。チャールズとラビが入り口から出てくる。女性陣一人一人に再会のハグをするラビ。ライガーはスケベ、ボブは妻帯者、チャールズは殺気立たせてくるのでハグをせずその分リュースケにがっつりハグをしてきた。母猿にしがみ付く小猿のように背中に張り付いてくるラビ、誰も突っ込まないままユミルが二人に声を掛ける。
「ラビ、チャールズ、退院おめでとう。具合はどう?」
「問題なしですわ! 退屈しましたわ……体を動かしたいです!」
「俺も問題無イ……さっさと自己鍛錬をするかラ別行動させてもらウ……」
「ちょっとチャールズ! 無理すんじゃ無いわよ?! まったく……ラビもよ! 今日は慣らし運動だけにしときなさいよ」
「分かりましたわ! ではリュースケさん? このまま鍛錬場まで行きますわよ!『この体勢だと歩きづらいですよ……』いいから行きますわよ! 鍛錬がワタクシを呼んでますわ~~!」
諦めてそのまま移動することにしたリュースケとラビチーム、いつものように鍛錬に励み、その後は本部の農園の作業も手伝いつつその日を過ごした。
その翌日、いつものように鍛錬に励むラビチーム。
午前の鍛錬に一段落がついたところでユミルが話し掛けてくる。
「リュースケ? 今日の午後って空いてるかしら? 一緒に来てもらいたい所があるんだけど……」
「午後ですか? 鍛錬以外は特に無いですが……午後の鍛錬は?」
「大丈夫、他の連中に話は通してるわ。『ならいいんですけど……どこに?』ん? お姉さんが大人の社交場に連れてってア・ゲ・ル♡」
セクシーポーズでリュースケに言ってくるユミル。
「大人の社交場」というワードと鍛錬直後の汗ばんだ姿にドキッと感じてしまうリュースケ、必死にユミルが泥酔した時の姿を思い出してその思いを打ち消そうとする。ユミルはリュースケの反応を面白がるとしなだれかかってくる。
「リュースケはぁ……イヤ?」
「からかわないでくださいよぉ……イタァッ!」
肩に痛みが走るリュースケ、振り返ると青筋立てたラビがニコニコしながら彼の肩を掴んでいた。
「リュースケさん? ユミルさん?」
「ごめん、ごめん、からかいすぎたわね。『気をつけて下さいまし!』分かったわよ。まあライガーみたいに変な所には連れてかないから安心して『はあ……』じゃあ昼食後に本部前に待ち合わせで。また後でね」
そう言うとシャワーを浴びに向かうユミル、困惑するリュースケにラビが注意してくる。
「リュースケさん? くれぐれも羽目を外しすぎないようにして下さいまし! ライガーさんみたいになっちゃいますわよ!」
「いや、どんな脅し文句ですかそれ? 後ライガーさんに失礼ですよ……言わんとすることは分かりますけど……」
ラビに厳重注意されたリュースケは昼食後に待ち合わせ場所に向かいだした。なんだかんだで少し緊張しつつ目的地の前まで向かう。先に来ていたユミルは異様に殺気立たせており近くを誰も通ろうとしていなかった。普段との様子の違いに警戒しながら話し掛けるリュースケ。
「あの……ユミルさん?」
「来たのね……じゃあ行くわよ……」
目が血走り、戦いの時以上に真剣な表情のユミルはリュースケを連れて移動を始める。一体どうした?と気にしつつ後に続くことにするリュースケ、終始無言のユミルが向かったのはレトロな酒場だった。扉を進んだユミルはカウンターに腰掛け、リュースケを隣に座らせた後に酒場のマスターに声を掛ける。
「マスター……”ストロンガー・ジーク”を一杯……リュースケはどうする?『未成年ですし……』そう……じゃあこの子にはミルクを……」
慣れた手つきで準備をするマスター、直ぐにユミルとリュースケの前にそれぞれが出された。グラスをリュースケに掲げるユミル、慌てて真似をするリュースケ。
「今日の勝負に、乾杯……」「乾杯?」
コチンと鳴るグラス、一気飲みするユミル。
そして彼女は唸った。
「キクゥウウウウッ! ンギモッヂィイイイイイイ!」
「ユミルさん……?『ほら、早く飲みなさい。私のおごりよ』はい……」
余りの飲みっぷりに引くリュースケ、ユミルはお構いなしにリュースケに飲むよう促す。リュースケが飲み終えたのを確認したユミルは会計を済ませて都市の外れの方に進み出す。リュースケが尋ねた。
「ごちそうさまです……それでこれからどこに?」
「……言ったでしょ? 大人の社交場って……夢を掴む為の戦場でもあるけど……」
そう言うと足を進める。
リュースケは進むに連れて異変に気付く。若い上品そうなお嬢さんもヨボヨボの老人もイチャイチャしているバカップルでさえユミルと同じく殺気立たせて同じ方向に進んでいた。
その先には大きな建物があり、より濃密な殺気と熱気と怒号があふれ出ていた。リュースケは思わず鳥肌が立ってしまうがユミルはものともせず足早に進み、リュースケは彼女を追いかける。
建物の中に入ることでどこに連れ出されたのか把握するリュースケ。
そこは競馬場だった。
リュースケを待たせてユミルは売店に向かっていく。
待っている間に辺りを見回すと老若男女問わず馬券を握り閉めてレースを観戦していた。レース結果に人々は一喜一憂して次のレースの予想を始める。そんな中でユミルはリュースケの元に戻ってくる。
「ほら、リュースケ。競馬新聞。今日のレースに関する情報が書かれているわ、読んどきなさい」
「あの……ユミルさん? ここで一体?」
「そんなの……競馬に決まってるでしょう? アンタもそろそろ給料が払われたはず、少し位は使わないと! 金は天下の回り物っていうでしょ?!」
「絶対にそういうことじゃないと思いますよ?! それに俺、未成年ですし……」
「お酒は確かに年齢制限があるけどね……この世界の競馬には無いの! 気にしない! それで……どこに?」
「じゃあ……少しだけ……」
ウ〇娘にハマっていたこともあり挑戦することにしたリュースケ。早速ユミルの解説を受けつつ競馬新聞を読み進める。
そして次のレースの案内が始まった。ユミルと相談しつつ馬券売り場に並ぶ。
「それで……リュースケはどこにした?」
「この……メイショーハオーの一点買いで行こうかなと『じゃあワタシも同じく』え? いいんですか?」
「ビギナーズラックに賭けるわ……そのためにアンタを連れてきたんだから」
「責任は取れませんよ?」
リュースケ達の会話を聞いていた近くのオーク男性が話し掛けてくる。
「ビギナースラックに縋るようじゃだめだぜ? エルフの姉さん……それに坊主も初めてでその馬を買うか、惜しいことをしたな……今日もティエムタカノーリの勝ちで決まりだ。ヤツの玉座は今日も揺るがない……」
リュースケはオーク男性が言うことを競馬新聞で把握はしていた。それでも考えがあったリュースケは変えずに賭け、ユミルも彼を信じて同じものに賭ける。オーク男性は宣言通りの馬に賭けた。
なんだかんだで話が合ったこともあり、一緒に観覧席に向かうことにした三人。戦いの場とは異なる独特の緊張感で満たされていて思わずブルッてしまうリュースケ、そんな彼の背中に張り手をするオークの男性。
「シャキッとしろ。もうさじは投げられたんだ、後は覚悟決めてどっしり構えるんだ。それが一流への第一歩だ」
「そのとおりよ、アンタは少額だけどワタシは今回の給料の七割をつぎ込んだのよ? 覚悟が無ければこんな真似しないわ。それだけアンタに賭けてるの! アンタを信じるワタシを信じなさい!」
そしてレースが始まった。
今までタカノーリに辛酸をなめさせ続けられてきたハオー、今までの悔しさをバネに差し切り、とうとう彼に勝利する。
「やりましたよ?! ユミルさん!」
「勝利っ! 勝利っ! 大勝利よぉっ!」
「まさか……タカノーリの玉座が揺らぐなんて……」
大喜びのリュースケとユミルに対してうなだれるオークの男性。
そのまま男性は競馬場で負けを取り返すべく次レースに挑み、リュースケとユミルは先程の酒場で祝勝会を行うことにする。
そして酒場にて上機嫌で酒を飲み続けるユミル、リュースケも酒場飯を味わう。
顔を赤くしたユミルが尋ねる。
「そういえばなんでハオーに賭けたの?」
「ああ……それはですね……」
リュースケは説明を始めた。
自身の元いた世界の競馬でも似たような展開のレースがあったこと。具体的には有力候補の馬名がメイ○ョウド○ウとテイ○ムオペラ○ーをなんとなく感じさせ、トレジャー・マウンドカップという和訳すれば宝塚とも読めるレース名であり、この二頭はこのレースにおいては二回目の対戦であるといった点を踏まえた結果、リュースケの世界のとある年の宝塚記念を連想したからと説明する。
「ふ~ん……どこの世界でも似たようなことってあるもんなのね~~よしっ! 二戦目行きますか!」
「えっ? これで終わりじゃ……」
「何言ってるのよ? ここに来たのは祝勝会もあるけど競馬場から離れて頭を冷やすためもあるのよ?! 今ならツキが回ってるはず! 逃す手は無いわ!」
普段の慎重な彼ならここで一旦立ち止まっていただろう、しかし勝利と場の空気に当てられたリュースケは調子に乗り、ユミルと肩を組みながら競馬場に向かうのであった。
うまぴ○い! うまぴ○い!
次回は三日後同時刻の予定です。
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