第十一話 リュースケ・イン・バナーヌシティ
組織の本部に魔導車を走らせる一行、リュースケは荷台で眠りについた。
それから数刻ほど経過する。
「リュースケさん。起きて下さいまし」
ラビに肩を揺すられるリュースケ、眠りから目が覚まされる。
「ラビさん? どうしたんですか?」
「今日はここで野営ですわ、これから夕食ですわよ」
夕食が楽しみなのかルンルンで話すラビ、荷台を降りたラビの後に続く。
降りてすぐの所では火が焚かれており、他のメンバーも火を囲むように座って居る。
昼食も食べずに寝ていた事を思い出して空腹感に襲われるリュースケ、かなり大きめの腹の音が鳴り響く。
「昼飯に声を掛けましたが起きませんでしたわ。さあ! 早くメシを食いましょう!」
リュースケの手を引いて進むラビ。なぜか他のメンバーはヒヤヒヤとした様子でラビを見ていた。
そしてたき火の前に座らされるリュースケ、目の前では何かの肉の串焼きが焼かれていた。
ラビから野菜の瓶詰めと乾パンを手渡される。
「さあ! リュースケさん! メシですわよ! しこたま食らってくださいませ!」
「こら! ラビ! 貴族様にその言い方は失礼でしょ!」
ユミルに注意されるラビ。貴族とは?と疑問に思い尋ねた。
「あの……貴族って何のことですか?」
ライガーが言った。
「異世界からとはいえ名字があると言うことは貴族様かと思われます。今までは作戦中だった故に気が回らず無礼な行動や発言が合ったかもしれません。どうかご容赦を……」
自分の寝ている間にとんでもない誤解がされていることに驚くリュースケ、直ぐさま訂正する。
「いや、自分は貴族ではないですから! 俺の世界では大体の人が名字を持ってるんですよ!」
「なんと! そうだったのか……」
驚く一同、ラビは口をハムスターみたいに膨らませながら食事を続けていた。
「な~んだ! ヒヤヒヤして損したわ!」
「異世界も変わってるね」
「僕もずっとヒヤヒヤしてたよ……」
「全くじゃ」
「さ、少年も食べるんだ」
誤解が解けて安心したのか一同が食べ始め、飲み込み終わったラビが言う。
「ワタクシが言ったじゃありませんか! 貴族様独特の緊張感が無いから違うって!」
「あんたはカンで動きすぎよ……」
あきれるユミル、リュースケが言う。
「あの……チャールズさんは?」
「リュースケが来る前に軽く食べて寝てるよ。まだ顔色が悪いし本調子は戻ってないのかな?」
リョウコが答えた。ボブが急かす。
「ほれ! 坊主も早く食べんか! 冷めるぞ!」
早速、串焼きを食べ始めるリュースケ。
今までに食べたことが無いタイプの肉感だった。強いて言うなら鶏肉に近い感じだがそれよりもあっさりしている、塩と香草がよく揉み込まれていて幾らでも食べられてしまう。無我夢中で食らい始めるリュースケ。
次は瓶詰めの野菜に手を伸ばす。
よく分からないが赤い物を口に運ぶとキュウリのような食感で味付けはピクルスのようなきつめの酸味が口に広がる。しかしその酸味が串焼きの油をリセットしつつ体にじんわりと染み渡るようなうま味とすっぱさがしてくる。
リュースケは尋ねた。
「瓶詰めも串焼きもおいしいです! 何の肉なんですか?」
「ゴックンッ! アレですわよ!」
ラビが指さした先には大きな骨が転がっていた。
慌てて尋ねる。
「なんですか?! あれ!」
「何って……ロックフロッグの肉ですわよ。ラッキーですわ! こんな所で食べられるなんて!」
「蛙肉ってことですか?」
「そうじゃ! それにワシのマイハニーがこさえた香草と岩塩をよく揉み込んでな! 上手いだろう! その瓶詰めもハニーお手製じゃ!」
ボブが惚気ながら説明する。蛙肉を食べていたことに衝撃を受けつつ、美味しいからいいかと開き直るリュースケ。
食事を囲みつつ会話が進む一同。
食事が終わり、見張りの順番を決めた所でライガーが言う。
「各自、準備は終わったな。このままいけば明日の昼頃には到着できるだろう、休むときはしっかり休むように。見張りをしている時に異常があればすぐに知らせるんだ、いいな!」
各自が荷台に向かい、寝袋に入り始める。
リュースケは隣のライガーに尋ねる。
「あの……本当に俺は見張り当番を免除してもらっていいんですか?」
「いいんだ。そもそも君は民間人だからな、やらせるわけにはいかんよ。それに見張りも結構大変なんだ。ある程度見張りの訓練を積んだ者でなければ返って休んでいる者達を危険にさらすからな……」
申し訳なさを感じつつ疲れが襲い掛かり、すぐに眠りにつくリュースケ。他のメンバーも眠りにつく。
朝日が昇り始めた。荷台の隙間からも光が差し込んでくる。
最後の見張り当番だったラビが荷台の出入り口を勢いよく開け放ち叫んだ。
「み! な! さ! ま! おはよう! ごさいますわ!!!」
アホみたいな大声のモーニングコールに飛び上がるリュースケ、荷台の天井に頭をぶつけつつ漏らしてしまう。
他のメンバーは驚きつつもまたかという顔をしながら朝食の準備を始めた。
慣れた手つきで”ドライ”と”クリーン”を掛けつつラビが言った。
「おはようございますわ! よく眠れまして?!」
「声が大きすぎですよ! 心臓に悪いですって!」
リュースケの言葉に頷く一同、ラビは首をかしげながら言う。
「あら? ワタクシの故郷ではこれが普通ですわよ?」
「どんな故郷だよ……」
思わず敬語が抜けるリュースケ。
「やっと敬語が抜けましたわね! ずっと壁を感じてましたわ! ライガーさんやチャールズさんは取ってくれませんのよ、ワタクシが上司だからって」
ユミルが訂正するように言う。
「あんたがいいって言うからタメ口だけどさぁ……基本はどこのチームも敬語なのよ?」
今後もラビには敬語で行こうと決めたリュースケ。
ぶーたれるラビを押さえつつ、一行は朝食を済ませ本部目指して出発した。
進み続ける魔導車、運転席のボブから伝声管を通して連絡が来た。
「バナーヌが見えてきたぞい! もうすぐじゃあ! 待ってろマイハニー!」
妻に会える事がうれしいのかテンションが高めなボブ。ボブだけで無く他のメンバ-もうれしそうだった。荷台の窓から顔を出すリュースケ、高い外壁に覆われた大きな都市が遠くに見えた。
席に座り直しラビ達に尋ねた。
「あの、ラビさん……ボスさんってどんな人なんですか?」
「ボスですの? う~ん……いい人ですわよ! よくお菓子くれますの!」
子供みたいな感想のラビ、ユミルが言う。
「それじゃ分からないわよ……そうねぇ……ワタシの親戚なの、だから付き合いはそれなりにあんのよ。その上で言わせて貰えば……ラビの言う通りいい人とし言いようが無いわね……」
グレイが言う。
「いい人なのは分かるけど最初は度肝が抜かれたな……あんな人ほんとに居るんだって……」
リョウコも続く。
「やった偉業との落差がエグいよね……」
「「「ああ~~」」」
納得したように頷くラビとユミルとグレイ、どんな人なんだと警戒し始めるリュ-スケ。
魔導車は進み、とうとう外壁を通過した。
「ほら! リュースケさん! バナーヌをご覧下さいまし!」
ラビに促され、窓からのぞくリュースケ。
その光景に驚かされた。
一言で言えば産業革命直後のイギリスの町並みに近かった。路面電車らしき物や馬車が町中を走り、街灯も等間隔で配置されている。都市全体に配管が通っており所々で蒸気が吹いている。
魔導車に気付いた通行人が物珍しそうに見つめる。通行人をよく見てみると人間だけでなく様々な種族の人々が歩いていた。いかにも冒険者のパーティーらしき集団もいれば、英国紳士淑女のような服装に身を包んでいる者までいて異世界情緒溢れる光景だった。
更に車は進み、大きな敷地に入る。
敷地内のビルの出入り口で車が止まりボブが言った。
「着いたぞい。ワシはこのまま整備工場でこいつを整備して家に帰らせて貰うからの! 報告書は明日出す」
「わかりましたわ! ボブさん! お疲れ様でしたわ!」
各自が荷台から降り始めた。リュースケもそれに続く。
全員が下車したことを確認したボブは整備工場に向かった。
ライガーが言う。
「俺とラビ様とリュースケ少年はボスの所に向かう。残りの者は医療棟でけがの手当てをしっかり受けてから寮に帰るように。では解散!」
「ラビ……お疲れ……」
「お疲れ様~。ほら、リョウコ、チャールズ、グレイ。あんたらはモロに攻撃を食らったんだから治療してもらいに行くわよ!」
「お疲れ様、それと装備品のメンテナンスもしないと……」
ユミル達は手当てに向かい出した。
ユミル達に別れを告げたラビ達は建物の中に進み出した。
その後を追うリュースケ。
中では人々が慌ただしく行き交いながら仕事をしていた。たくさんのファイルや本を持った研究員らしき人々も多くいる。進んでいると幾つもの会議室が並んでいて神妙な顔で作戦会議をしているチームも見える。
「さ、リュースケさん。こちらですわよ」
ラビに呼ばれ進むリュースケ。
これまたクラシックな見た目のエレベーターに乗り込み上に進んだ。進むエレベーター、とうとうボスに会うのかと緊張するリュースケ。かなり上まで昇るとエレベーターが止まり扉が開く。
ラビ達はそこで進み始めてリュースケも続く。
ラビ達はいくつかの部屋の前を通り過ぎると立派な扉の前に止まった。
「ラビさん、ここにボスが?」
「ええ! では……」
扉を叩くラビ、中から返事が聞こえた。扉を開けて入るラビとライガー。
後に続いたリュースケの前にボスが現れた。
バナナをバターで焼くと美味しいですよね……
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