第十話 ある祓われた城の前から
激闘の末、王を討伐したリュースケ達。各自の手当てを済ませ、謁見の間を後にする。
朝日が窓から差し込む。各自が戦いの疲労を感じながらも朝日の爽やかさを噛み締める。
城からの脱出を目指す一行は万が一討ち漏らしの霊が急襲してこないように警戒しつつ足を進めていた。
王妃との戦いがあった部屋を抜け、松ぼっくりの部屋を抜け、胸像の残骸が転がる部屋を抜け、赤い礼拝堂を抜け、いくつかの部屋を進み武器庫の前の部屋にたどり着いた。
そこからはラビ達が通ってきたという道順に進み、とうとう城門前に到着する。
城門を過ぎてラビが一同に言う。
「皆様、これから城全体に消滅結界を構築しますわ。その間の守りをお願いしますわ」
リュースケが言う。
「大丈夫なんですか? 魔力的なこととかラビさんの消耗のこととか……」
ラビが答える。
「恐らく王は城の全ての霊を喰らったとは思いますわ。ですが騎士団長が消滅した姿を誰も見ていません。多分王の攻撃で消滅したのでしょうけど……もしかしたら他の霊と一緒にまだ潜んでいるということもあり得ますわ。念のためです、残っているとしても少数でしょうから魔力的にはいけますわね……それでは皆様頼みますわ」
そう言い終えるとラビは準備を始めた。ライガーが指示を出す。
「各自、油断しないように。リュースケ少年、チャールズ、リョウコはラビ様の傍に居るんだ、俺が正面、ユミルが背中、ボブが右、グレイが左だ」
各自が配置に動き出す。準備を終えたラビが言う。
「それではこれから始めますわ。二十分ほどですわね、その間頼みます!」
ラビが構築作業に入り始める。各自が警戒を強めつつ周囲を見回す。
リュースケも周囲を見回した。
自分の傍に居るリョウコとチャールズは具合が悪そうだった。特にチャールズの顔色がかなり悪い。リョウコは握り潰されそうになったし、チャールズは足で吹き飛ばされたのだから当然かと思うリュースケ。そこからある程度動ける位に回復できる魔法はすごいなと思いつつ、少しでも二人のフォローを出来るように気張るリュースケであった。
十分経過……
未だ異常なし、ラビの汗がすごいが今の所は問題無いようだった。ラビの腹の音が大きく鳴り響き、騎士達は笑いをこらえて警戒に当たっていた。ラビは顔を真っ赤にしながら作業を続ける。
近くの森からは鳥のさえずりが聞こえてくる。そういえば異世界に来て初めて外の景色を見たなと思うリュースケ。本当に異世界に来てしまったことを実感する。
これから自分はどうなるのだろうか、元の世界に帰れるのだろうか、そんな不安がリュースケの中に渦巻き始める。
二十分経過……
「皆様! 構築が完了しましたわ! お疲れ様ですわ! これでこの城の件は解決ですわ!」
城からは悲鳴も暴れる音も聞こえ無かった。城の中の幽霊は王に食い尽くされたのだろうと判断する一行。
帰り支度を始める一行、リュースケはラビに恐る恐る尋ねる。
「ラビさん……俺ってこれからどうなるんでしょうか……」
不安になりながら尋ねるリュースケ。ラビが手を止めて言った。
「取りあえずワタクシ達と一緒に首都バナーヌにある組織の本部に来てもらいますわ。そこから先はどうなるかは分かりませんが悪いようには絶対なりませんわ。ボスがそんな事許すはずありませんわね」
リュースケが尋ねる。
「本当ですか? 珍しいスキルだとかで人体実験だとか解剖とかされませんか?」
ラビが答える。
「本当ですわ! ボスはそういうのが一番嫌いですの!」
ライガーが言う。
「本当だぞ少年。長い説明になるんだが……今から三十年程前に世界規模で激しい戦争があってな、ボスは戦争に反対の立場だった。そして仲間達と戦争を行う全てに対して武力介入して混乱を生じさせることで戦争が激化しないようにしていたらしい。
ある時、戦争の原因が一人の魔女の仕業である事を突き止めたんだ。それからは仲間達とソイツを倒し世界は平和になった……長い話になったがボスはそれ位に平和を愛する人だ。そういう非人道的な扱いは受けないから安心してくれ」
「そ、そうですか……それでその魔女は一体なぜ?」
ユミルが言う。
「分からないのよ……ボスは当時、戦争で生まれる悲しみをたくさん見てきてブチ切れだったらしくてね、その魔女を見つけてすぐに殺したらしいわ。だから何も聞けず仕舞いだったそうよ……」
自分の今後は大丈夫そうなことに安堵しつつも、今度はボスに恐れを感じ始めるリュースケ。
ラビが胸を張り言った。
「もし何かあっても心配ありませんわ! ワタクシ達が駆けつけますわ!」
先の事なんて分からないが死線を共に潜り抜けたラビの言葉を信じる事にしたリュースケ。
「それでは……これからよろしくお願いします!」
ラビ達は満面の笑みで頷き、進み始めた。
ライガーを先頭にボブ、グレイ、ラビ、リュースケ、リョウコ、チャールズ、ユミルの順で進んでいる。
そして一行が城から大分離れ、これから森に入ろうとした時だった。
「ッッ!」
何か強烈な悪寒とも殺意とも感じる何かを感じたリュースケ。
直ぐさま後ろを振り返るが城に変化は無い。
ラビ達も何も感じていなかったらしく、ユミルとリョウコは立ち止まったリュースケを不思議そうに見る。チャールズは鋭く睨み付けてくる。
急かされてると思ったリュースケは慌てて前を向くが、足下を角が二本生えたウサギが横切る。驚くリュースケは思わず横に倒れそうになるがなんとか耐える。
心臓がバクバクしつつも慌ててラビの後を追った。
森の中を進みながらラビが言う。
「リュースケさん、大丈夫だとは思いますが警戒しておいて下さいまし。どこでモンスターが来るか分かりませんの」
「は、はい……」
「さっき、リュースケの前をツインホーンラビットが横切ったからね。気をつけた方がいいよ……」
リョウコが驚かすようにニヤニヤしながら言った。
「こら! リョウコさん! 驚かさないの!」
「えっ? 大丈夫なんですよね?!」
ボブが答えた。
「心配するな坊主、迷信じゃわい。ツインホーンラビットは数が少ないくせに警戒心が薄くての、大概は近寄ってくるんじゃよ。でも見かける事は珍しいんじゃ。そういう所から奴らが近寄ってくれば幸運が、逃げられれば不幸がやってくるなんて言われておる」
震えながらリュースケは言う。
「迷信ですよね?! 大丈夫ですよね?!!」
そんなやりとりをしながら進み続ける。
森の中を進んでいた一行、そこを出てすぐの村に到着した。
ラビ達が帰って来た事に気付いた村人が集まる。
そしてラビが言った。
「村の皆様! 城の霊達の駆除が完了しましたわ! これで霊達に怯える必要はありませんわ!」
ラビの報告に歓声を上げる村人達、涙を流す者もいた。そんな様子を見て、怖かったけど頑張って良かったと思うリュースケ。
村人達はお礼に宴をとラビに言うが早く本部に報告したいと彼女は断った。多分自分の事だろうなと思い、申し訳無く思うリュースケ。
ラビはその様子に答えた。
「気になさらないで下さいまし。リュースケさんの件もありますが、片付いたらさっさと帰って来るように言われてましたのよ」
その言葉に少しほっとするリュースケ、ユミルはうわごとのように「酒、酒、お酒」と言っていたがグレイとラビに頭をしばかれる。
村長に帰ることを伝えた一行はなぜか村の外れに進み始める。
進んだ先には何か大きな物体があった。シートをかぶせられていて詳細は分からないがなぜかボブがウキウキし出していた。
ライガーに尋ねる。
「あの、ライガーさん。あれは一体……」
「ああ、あれはな『坊主! 見とけ!』……ボブが説明するぞ……」
あきれた様子のライガー。ボブがシートを掴み、引っ張る。
大きめの輸送トラックが姿を現した。
黒い車体に、前に伸びたボンネット、彫りの深い大きなタイヤ、後ろにやや大きく長く伸びた荷台を持っていた。
異世界で思わぬ物の登場に目が点になるリュースケ。
ボブが胸を張りながら言う。
「どうじゃ! これは魔導車という物でな、配備された物を更にワシ直々に改造したものじゃ! 流石に坊主の世界にはこんなのは無かろう!」
リュースケは言ってしまう。
「はえ~、こんなタイプの車種を見たのはいつぶりかな~『い、いつぶり……』もうほとんど見ないからな~『ほ、ほとんど』航空自衛隊ではまだ現役で使ってたよな?『まだ現役……』ボブさん? なんで元気無いんです?」
ライガーが言った。
「マウントを取ろうとしたら逆に取られたんだ、しょうが無いさ」
ライガーの言葉に慌てて言う。
「俺の周りではあまり見ませんけど! 国の防衛を担う組織の車両に使われていますし! 観光地でも使ってる所がありますし! 現役バリバリで使っていたり、新しい型のが作られているアメリカっていう国もありますから!」
「そ、そうか?」
リュースケのフォローで取りあえず元気を出したボブは車体のチェックに入り始めた。
その間にリュースケはまじまじと魔導車を見る。
やっぱりぱっと見はボンネットトラックだった。しかしボブの言うとおり車体のあちこちに配管が張り巡らされ、よく分からない大きなパーツもあちこちに取り付けられている。なんとも漢心をくすぐる見た目をしていた。
段々と目が輝き始めるリュースケ、そんな様子に機嫌を良くしたボブが手際よく確認を済ませて一同に言った。
「お前ら! 準備は完了じゃ! はよぉ乗るんじゃ!」
「分かりましたわ! では村長、お元気で! 皆様! 行きますわよ!」
ラビに続き荷台に乗り込む一行、ボブは運転席に、ライガー助手席に座る。
「それじゃあ……行くぞい!」
エンジンを掛けるボブ。
大きな始動音の後に重く地を這うようなエンジン音がし始める。
ボブがアクセルを踏み、進み始める車両。
荷台の窓部分を開けたラビが村人達に手を振り、村人達もずっと手を振り続ける。
段々と車は速さを増しながら進み、とうとう村人達が見えなくなるくらいの距離まで来た。
車内ではラビ達女性陣が会話に花を咲かせ、チャールズはまだ具合が悪いのか顔を青くしながら眠っている。運転席ではボブが何かを熱く語り、ライガーは疲れたような顔をしながら聞いている。
そんな一同の様子を眺めながらリュースケは元の世界に帰る事を決意して眠りについた。
第一章完! 第一章完! 第一章完!!
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