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いつもと違う雰囲気 (300字SS)
使い込まれた仕事着ではない、小綺麗なジャケットを羽織った彼。彼に誘われて来た場所は、普段入る食堂とは違う、眩い光で照らされている格式高い料理店だった。
給仕に促されて、彼と対面するように椅子に座る。出てくる飲み物や食事を待ちながら、疑問を投げかけた。
「マチアス、どうしてこのお店に?」
彼はあからさまに肩をすくめた。
「テレーズ、今日が何の日か、わかっていないな」
「え?」
「誕生日だろう、自分の」
あっと声を漏らす。
「ギルベールさんに聞いていた通り、物事に集中すると誕生日すら忘れるんだな」
かあっと顔が赤くなるが、彼はそれを微笑んで見ていた。
「俺が覚えていくから安心しろ。誕生日おめでとう」
「……ありがとう」
2024年5月、第17回 毎月300字小説企画参加作品。お題『椅子』。
本編終了後、テレーズ視点でのマチアスとのお話。




