初めて見る光景 (444書)
「なんて広いの。しかもこれが全部塩水だなんて!」
私は初めて見る海というものにとても感動していた。波止場で前のめりになっていると、同行していた青年に取り押さえられた。
「おい、落ち着け。それに海に落ちたら困る」
「あ……、ごめん。今まで本でしか見たことがなかったものだから」
内陸部に住んでいた私にとって、馬車で十日以上かかる港町は、なかなか行けるところではなかった。
今回は仕事で来ているが、目的地が港町と聞いて心が躍ったのは嘘ではない。
「腹も減っただろうし、ご飯食べに行くぞ」
そして青年は地図を片手に歩き始めた。
彼は美味しいもの好きだという事実を思い出しながら、私はあとに続いた。
食堂で食べた新鮮な魚で作ったアクアパッツァやカルパッチョは、予想を遥かに超える美味しさだった。
生魚を目にして一瞬戸惑ったが、彼が満足げに食べていたので、安心して食べられた。
「はあ、美味しい。幸せ……」
「これが終わったら仕事だからな。本来の目的を忘れるなよ」
「はーい」
適当な挨拶をしながら、私は余韻に浸っていた。
2021年に開催された、尼崎文学だらけ(通称あまぶん)内の企画、「444文字程度で創作を投稿しよう!」参加作品。(通称444書)
2021年7月2日からのお題「海」で投稿したものです。
本編終了後、テレーズがマチアスの仕事で、海の方に出張しているときのお話。




