煮込まれたスープ (444書)
部屋に入ると、トマトが煮込まれるいい匂いが漂ってきた。
鍋の前に立つ彼は味見をし、塩、コショウを加えている。
「マチアス、パン買ってきたよ」
「ありがとう。煮込んでいる最中だから、少し待っていてくれ」
パンを机の上に置いて、鍋を覗き込むと具沢山の野菜が入っていた。
「これはミネストローネね?」
「ああ。余った野菜を有効活用できるから、時々作るのさ」
共有で使う台所があるとはいえ、食堂が併設されている寮で自炊する男というのも珍しい。
必要に迫られないと料理をしない私には、彼は尊敬に値する存在だった。
お兄ちゃんがマチアスの料理はすごく美味しいと言っていた。
たしかに匂いだけでも食欲をそそられる。
やがて煮込み終えたのか、マチアスはスープ皿によそっていく。
私は椅子に座り、焼き立てのパンを差し出した。
まず、スープを一口飲む。口の中に野菜の旨味と甘みが広がった。
「いい味……、美味しい」
「テレーズの舌にあってくれて良かった」
じっくり煮込まれるように、事件を通して惹かれあった私たち。
見合うと、二人で微笑んだ。
2021年に開催された、尼崎文学だらけ(通称あまぶん)内の企画、「444文字程度で創作を投稿しよう!」参加作品。(通称444書)
2021年4月23日からのお題「スープ」で投稿したものです。
本編終了後、テレーズ視点でのマチアスとのお話。




