小さな手と成長した手
近所のお姉さんのところに、赤ちゃんが無事に産まれたとの連絡が入ってきた。
いつ産まれるのか気になっていたので、その話を聞いて、私はとても喜んだ。
産まれてから数週間後、私はお祝いを持って、お姉さんの家に訪問した。
お姉さんの腕の中で、赤ちゃんが目をうっすら開けている。
寝て起きて、授乳も終えたところだったので、ご機嫌はいいらしい。私が訪問しても、泣かずに腕の中で抱かれていた。
顔を覗き込むと、小さな手を握りしめているのに気づいた。指をおそるおそる近づければ、その手が私の指をきゅっと握ってくる。
「小さい手……」
まだ産まれて何週間も経っていない。大切に扱わなければ、壊れてしまいそうな小さな体。
それでも生きていると精一杯主張しているようだ。
「こんなに小さいのは今だけ。あっという間に大きくなるのよ」
「そうなんですね……」
「テレーズちゃんのお兄さん、ギルベールさんも初めはこわごわと接していた。でも大きくなったら、一緒に遊べるって、嬉しそうにしていた。よく手も繋いで歩いていたわね」
お姉さんは懐かしそうに、十年以上前のことを語る。お兄ちゃんとは遊んだ記憶しかないので、こわごわという表現は新鮮だった。
私は成長した自分の手を眺める。赤ちゃんとは全然大きさが違っていた。
「元気にしているかしら。都市に行ってから、もう二年以上経つのよね?」
「はい。できる後輩が下について、上機嫌らしいです。仕事を押し付けられると思っているんじゃないですか? まったくいい歳なんですから、自分の仕事はこなして欲しいです」
「妹なのに、手厳しいのね」
「妹だからですよ。実は結構できる人なのに、できないように装うのはやめて欲しいです」
溜息を吐いていると、それを見ていたお姉さんはふふっと笑っていた。
「へっくしょん!」
「ギルベールさん、くしゃみをするなら、手で押さえてください。汚いです」
黒髪の少年マチアスがギルベールのことを呆れた表情で見る。ギルベールはにかっと笑っていた。
「どこかで俺がいい男だって噂しているのかもな!」
「勝手に思っていてください。さあ、次の現場に行きますよ。油を売ってたら、日が暮れます」
「マチアスは真面目だな。出世するぞ!」
少年は肩をすくめながら、先輩を横目で見る。
今回こそは乗せられて、仕事を押し付けられないぞと、しかと胸に刻み込んだ。
2023年5月開催された第36回文学フリマ東京で配布した、フリーペーパーに載せた掌編です。
本編よりも前、テレーズ視点のお話。ギルベール&マチアスも出ています。




