↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明を告げる鐘の音  作者: 桐谷瑞香
番外編 日常の穏やかなひと時
PR
46/60

小さな手と成長した手

 近所のお姉さんのところに、赤ちゃんが無事に産まれたとの連絡が入ってきた。

 いつ産まれるのか気になっていたので、その話を聞いて、私はとても喜んだ。


 産まれてから数週間後、私はお祝いを持って、お姉さんの家に訪問した。

 お姉さんの腕の中で、赤ちゃんが目をうっすら開けている。

 寝て起きて、授乳も終えたところだったので、ご機嫌はいいらしい。私が訪問しても、泣かずに腕の中で抱かれていた。

 顔を覗き込むと、小さな手を握りしめているのに気づいた。指をおそるおそる近づければ、その手が私の指をきゅっと握ってくる。


「小さい手……」


 まだ産まれて何週間も経っていない。大切に扱わなければ、壊れてしまいそうな小さな体。

 それでも生きていると精一杯主張しているようだ。


「こんなに小さいのは今だけ。あっという間に大きくなるのよ」

「そうなんですね……」

「テレーズちゃんのお兄さん、ギルベールさんも初めはこわごわと接していた。でも大きくなったら、一緒に遊べるって、嬉しそうにしていた。よく手も繋いで歩いていたわね」


 お姉さんは懐かしそうに、十年以上前のことを語る。お兄ちゃんとは遊んだ記憶しかないので、こわごわという表現は新鮮だった。

 私は成長した自分の手を眺める。赤ちゃんとは全然大きさが違っていた。


「元気にしているかしら。都市に行ってから、もう二年以上経つのよね?」

「はい。できる後輩が下について、上機嫌らしいです。仕事を押し付けられると思っているんじゃないですか? まったくいい歳なんですから、自分の仕事はこなして欲しいです」

「妹なのに、手厳しいのね」

「妹だからですよ。実は結構できる人なのに、できないように装うのはやめて欲しいです」


 溜息を吐いていると、それを見ていたお姉さんはふふっと笑っていた。



「へっくしょん!」

「ギルベールさん、くしゃみをするなら、手で押さえてください。汚いです」


 黒髪の少年マチアスがギルベールのことを呆れた表情で見る。ギルベールはにかっと笑っていた。


「どこかで俺がいい男だって噂しているのかもな!」

「勝手に思っていてください。さあ、次の現場に行きますよ。油を売ってたら、日が暮れます」

「マチアスは真面目だな。出世するぞ!」


 少年は肩をすくめながら、先輩を横目で見る。

 今回こそは乗せられて、仕事を押し付けられないぞと、しかと胸に刻み込んだ。  

2023年5月開催された第36回文学フリマ東京で配布した、フリーペーパーに載せた掌編です。

本編よりも前、テレーズ視点のお話。ギルベール&マチアスも出ています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。