表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤都羅 ~古の邪遊具~  作者: ジョカジ
18/26

第17話

 間合いを瞬時に詰めた最初の一撃を、灯輝は確かに視認することができた。汐春は腹部に拳を入れようとしていた。回避か防御、選択が必要だったが、不可解な状況が灯輝の身体を硬直させ、その打撃を受ける結果となった。

 灯輝の身体は後方に大きく飛んだ。背中から木にぶつかり、木の葉が舞う。地面に膝立ちの状態で落ちると、冷や汗が吹き出てきた。どういうことなのか。なぜ闘うのか。今自分は殴り飛ばされた。身体に痛みは――?

 さほどなかった。腹を押されマットに背中から思い切り倒れた、その程度の鈍い痺れだけが感じられた。

「ほれどうした小僧。遠慮はいらんぞ、かかってこい」

 汐春は両腕で円を描くような動作を取った。香天は少し離れて、やや不安そうな顔でこちらを見ている。

「トウキ、奴も言っているのだ。相手をしてみたらどうだ」

 ガルガの声に緊迫感はなく、それが灯輝の混乱に拍車をかけた。

「そ、そんなこと言ったって」

 汐春が再び突進の体勢を取る。

「うわあっ!」

 灯輝は跳ねた。後ろを向いて。取り乱した思考は逃亡を選択したのだった。その跳躍は思いもよらぬほどで、森の木々が瞬時に灯輝の脇を通り過ぎた。自身の疾走に翻弄されながら、灯輝は本能的に大きな茂みを探し、飛び込んだ。

「ガッ ガルガ、なんで俺に任せるんだよ! 昨日みたいに身体を操れるはずだろ!」

「それだと意味がないのだ」

「なんだよ意味って」

「盤都羅の本質だ」

 まったく話が噛み合わなかった。動悸と汗が止まらない。

「トウキ、失念しているのかもしれぬが駒相手にこの距離での隠伏(いんぷく)は無意味だ。さらに奴は」

「目がいいでな」

 灯輝のいる茂みの後方、木の上から汐春が続けた。

「あ、あのっ! やめましょうよ! その弓野さんも話そうって言ったじゃないですか!」

 思わず声を張り上げた。

「情けないのう小僧。自慢ではないがワシは索敵(さくてき)以外、大した能はなくてな。盤都羅では大概まっ先にやられていたように思う。ワシ相手に臆するようでは、勝ち残りなど望めんぞい」

 汐春が着地する。

「トウキ、大丈夫だ。立ち向かえ。いざとなったら我が手を貸す」

 ガルガの声は優しく、(なだ)めるようであった。灯輝は下唇を噛んだ。

「喧嘩しろっての? …分かったよ。やるしかないなら、やるよ」

 灯輝は気を奮い立たせた。

「その意気じゃ小僧」

 灯輝は灌木(かんぼく)から歩み出た。依姿の二人が向き合い、静寂が空間を支配した。



 「トウキ、昨日の闘いを思い出せ。見ていたはずだ。感じたはずだ。我の力を」

灯輝はガルガの言葉を噛みしめた。多摩川の上で、灯輝は闘った。敵の攻撃を防ぐ、(かわ)す、反撃する。それは自分の意思ではなかったが、その感覚は、確かに身体に刻まれているように思えた。



 汐春が灯輝めがけて突進する。再びその右手が灯輝の腹に――弾いた。

 灯輝は自分の意思によりその打撃を左腕で受け流したのだった。灯輝の右半身が半円を描くように後方へ回り、勢いあまる汐春の身体をそのまま突き放した。

「おほっ」

 汐春は地面に土埃と落ち葉の軌跡を描き、身を翻しながら停止した。

「いいぞトウキ、その調子だ」

 ガルガの声援には応えず、灯輝はふっと息を吐き汐春を注視した。

「まだまだいくぞい」

 先程よりも速く、今度は蹴りが襲う。右、左の連撃。灯輝は左肘、右手で捌く。

 そして――掌底を汐春の片腹に打ち込んだ。

「ごほうっ」

 汐春は横回転で飛ばされ、今度は身体の制御がままならず片膝と手を付いて地面を擦った。眼鏡も飛びそうな勢いだったが、依姿による作用か顔から落ちる様子はなかった。

「あっ、だっ大丈夫ですか!?」

「フン、やりおる。ワシも少し手を変えてみるかの」

 汐春は、もと来た方角へと跳躍した。こちらに向けられた背にはもうひとつの大きな目があり、灯輝はそれが一瞬笑ったように見えた。

「何を…」

 言いかけて灯輝は気付いた。

 その先には後を追ってきた香天がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ