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可憐な華でも、姫でもナイッ(仮)  作者: 桜雪りか
Ⅳ.英エリカ、中学3年生の真夏編
29/33

【Side-Erica-】-3


 【♪〜♪♪…】



 携帯電話の着信音が鳴った。


 ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」に乗せて、画面に表示される【着信:駿河 或】の文字を見て目を疑う。思わず二度見、いや三度見、うん四度見する。

 緊張を解すために、高速で深呼吸してから着信ボタンを押した。だが心の準備は全くできていない。



「もしもしッ」



 変に力んで声が裏返った。恋愛初心者か。

 対して或君は、相変わらず落ち着いた声だった。



『エリカ、おはよう』


「ええ…お、おはようございます!」


『緊張してる?』



 クスクスと柔らかい笑い声が耳をくすぐる。

 緊張していたのがとても自然な流れでバレた。



「ごめんなさい。なんだか通話って久しぶりで…」


『あー、確かに。エリカ、やっと出てくれたから嬉しいよ…すごく』



 んんん??

 通話自体が久しぶりって意味で、つい零してしまったのだけど。或君は「或君との通話が」久々なのだと受け取ったみたい。この二人は国際電話もしなかったのだろうか。


 ついでに、或君が呟いた『すごく』の一言にズッキューン!と危うく萌え死にそうになったあたしは、エリカのドライさをちょっと見習いたくなった。



 それよりも先に注目するべきは、或君の『やっと出てくれた』の言葉だ。なんだか引っかかる。

 勿論あたしにとっては、これが記念すべき或君との初通話である。でもエリカは?着拒してたとは思えないし…



「こ…こちらこそ嬉しいですわ。ところで今日は何かありましたの?」



 さり気なさの欠片も無いタイミングで本題に促してみる。だけど或君は、『ありがとう。うん、そうだった』と変わらない落ち着いた声音だった。


 ……だが、それに続けた次の発言に、あたしは驚くことになる。



『あのさ…エリカ、よければ家に来ない?』


「う゛ぇぇえ!?」



 その瞬間、ポンッ!と頭上にお母様の顔が思い浮かんだ。きっと意味深そうにニヤけるに違いない。

 なんにせよ、寛容なお母様に助かっているのは事実だ。お陰で今後も色々行動しやすいはず。



(でも…家って!家って!!)



 わちゃわちゃと脳内で駆け巡らせていると、『ダメかな?』と哀色含む不安げな声音で、再度お声がかかった。お陰で我に返る。ごめん忘れてた。思えば考えてる間沈黙だったよ。

 だから、あたしは咄嗟に口走る。



「そっ、そそんなことないですわッ!?」



 と、反射的に返してしまったのだ。


 バカヤロー自分。肝心な目先の事をロクに考えず、先の事ばっかり想定してしまう。あたしの悪い癖だ。

 気づいた頃には或君は、ホッと安堵の溜め息を漏らしていた。あたしは、今更断りにくい返しを自らしてしまったのである。



『よかった。ドイツ土産なんだけど、期限があるのとか早く渡したかったんだ。甘いものは好き?』


「そう、ですわね…」



 今度は上手い返しをしたいので、少しだけ考える時間をください。



『―――キャラメル・ショコラーデ…なんか、特におすすめだよ?』

「では明日11時にそちらに向かいますわ!」



 その時間は僅か、1秒。

 考えるタイムを強制終了させて即答するあたし。もはや躊躇心なんか一瞬で消えてしまっている。



 なぜなら奇しくも、「キャラメル・ショコラーデ」。

 それは、瑛梨沙(あたし)の大好きなお菓子と名前が同じだったからだ。



 もしかしたら名前が同じだけかもしれないけど、あたしの住む世界の方でのキャラメル・ショコラーデは、ドイツから日本に直輸入の人気商品だった。


 とにかく是非味わってみたいのです。あっ、決して食べ物に釣られたとかそんなんじゃ……ある。大いにあります。すみません。



 そんな時、あたしの本心を知ってか知らずか或君が『待って』と言葉を続けた。



『提案なんだけど、駅で待ち合わせしない?』


「えっ」



(それって…もしや、デデデデートぉぉお!?)



 一瞬にして思考角度がぐるりと逆回転する。


 待ち合わせといえばデート。デートといえば待ち合わせ。からのお家なんて、そんな高度な技、あたしだって中学生じゃ経験したこと無いッ!嗚呼、複雑ぅ…っ!



 不意に、葛藤するあたしの背後からガタンッ!と物音がした。

 振り返ると、いつの間に部屋に入ってきたのか…ニヤニヤと美麗な目尻を細めて笑うお母様が。



『―――ふふっ、聞いちゃった~』



 あたしが「あ」の形で口を開くと、次の言葉を待つもなく、お母様は『行ってらっしゃい♪』と一言だけ発した。その速さはあたしの即答よりも早く。

 薄々感じてはいたが、お母様は随分と或君を気に入ってるご様子だ。




 改めて、お母様も公認の王子とデートが決まったその日の晩。

 あたしは人知れず姿見の前で、一人ファッションショーを開いていた。


 ……が。



 クローゼットや箪笥の中身を掘り起こしてみても、デートに相応しいような可憐な花柄は無し。お嬢様のくせに、姫系のピンク色も無し。一枚も無し。一体どうなってんだこりゃ!


 しかも唯一見つけた花柄ピンクは、あったか靴下でした。あたしも小学生の頃こんなん履いたっけ。


 普段が制服だからか、私服のお洒落のことなどすっかり忘れていたのがそもそもの原因だ。まさかこんな日が来るとも思っていなかったし。

 でも……



「むふふふふ」



 ハッ!いけない。デート自体が久々だからって、つい浮かれてた。

 おさげ髪を引っ張って己を戒める。ちなみに、これは最近見出した自分制御法だったりする。



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