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可憐な華でも、姫でもナイッ(仮)  作者: 桜雪りか
Ⅳ.英エリカ、中学3年生の真夏編
27/33

【Side-Sakyo-】-1



『……寒い。』



 帝様は座椅子に腰掛けながら、そんな第一声を発せられた。



 魔法の一件に驚かされてから時は過ぎ、まだ黄昏とは遠い空の色が夏を思わせる夕刻。現在、午後6時14分。

 定期的に帝家と陵家が揃って会食をする店である、料亭「琥珀」に到着してからのことだ。



 誠一郎様は仕事で遅れるとの連絡が既に入っていてまだ居らず、陵家の者も俺以外には到着していない。


 というのも、『約束の30分前には席に着かないと気が済まない』という帝様のご意思、そして自分も約束より前に到着していたい性格だという理由から、こうして今や共に待つことが普段の光景となっている。



『この店は夏になると、毎回空調が大袈裟に稼働するな。それを除けば申し分無いというのに…』



 ……冬には『暖房が効き過ぎて暑い』と同じようなことを申されたのは、どうやら忘却の彼方らしい。

 それを指摘したところで反応は目に見えるから、しないが。



「上の者を呼びますか?」


『いいや。呼ぶと面倒だ、後で直に言う』


「…わかりました」



 約束の時間まで、帝様は先程の出来事に一切触れることは無かった。



 代わりに『執事の椋田が〝お坊ちゃま〟呼びをやめないのだ。どう思う?』だとか、

 『あのクソ親父は、顔を合わせぬ時まで見合いを勧めてくる。鬱陶しい』。

 また、『鬱陶しい…といえば、学校の輩も前より鬱陶しくなったな。』等の話題を出された。



 前者二つに関しては俺が安易な答えを出せるものではなかったが、最後の一つは頷いて同意した。



 帝様は校内だろうと校外だろうと、彼女達に対しても容赦の無い言葉を吐き捨てるが、あいにく当の彼女達は屈しない。

 そのせいで今後帝様が爆発されることはないだろうか。甚だ心配だ。

 不安を察されないよう、俺は人知れず『ふぅ…』と小さな息を吐いた。



 ―――勢い良く麩が開いたのは、その時だった。



『お待たせ~!あらやだ!?二人とも少し会わない間にまぁ~たイケメンになっちゃって。アナタ達のことだから、今日も30分は待ったでしょう?あっ!左京、アナタ女の子泣かせてないでしょうねぇ!?』



 登場するや否や、弾丸のように喋り出したのは母上。

 現れたのは陵家の方だ。



「母上…〝会わない〟とは言えど、一週間しか経過していませんが」



 それに、何故俺が女子を泣かせるというのか。

 母上の言動は理解に苦しむ。



『れーじおにぃさまぁぁぁ~~!』


『! 馬鹿、引っ付くな。暑苦しいだろうが!』



 先程まで『寒い』と仰っていたのは何処の何方だったか。



『ふふっ、蜜月は本当に零司君に懐いてるわねぇ』


『けしからん。蜜月。その男から離れなさい、阿呆になってしまうよ』


『おのれ……陵の父親だろうと聞き捨てならんっ!誰が阿呆だと!?』



 ―――父上、[陵(ミササギ) 尚嗣(ナオツグ)]。

 表向きは厳格を装っているものの、実のところは少しばかり小心者な気質がある。

 そして娘に対しては、当人以外は誰しもが引く程、根っからの親馬鹿だ。


 比べて母上、[陵(ミササギ) 早和子(サワコ)]は自由奔放な性格。

 父上も俺もかなり振り回されている。



 妹の[陵(ミササギ) 蜜月(ミツキ)]は、何故か昔から帝様に懐いていた。

 六歳の子どもまでをも魅了するとは、帝様も罪なお方だ。



『セイちゃん最近、と~~っても忙しそうにしてるわよね。零司君は寂しくない?』



 誠一郎様を「セイちゃん」などと呼ぶのは母上くらいだ。自重してほしい。

 話を振られた帝様は、先程まで父上と啀み合っていた顔から瞬時に一変させ、穏やかな笑みを浮かべた。



『ははっ。寂しいだなんて、小さな子どもじゃないですから』


『なんだ?まだまだガキだろう。フハッ!』



 母上に対してだけは別人のような振る舞い。

 そこに、いつものことながら父上が揶揄うように茶々を入れた。



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