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可憐な華でも、姫でもナイッ(仮)  作者: 桜雪りか
Ⅳ.英エリカ、中学3年生の真夏編
23/33

【Side-Reiji-】-1



『零司お坊ちゃま、僭越ながら申し上げます。そろそろ休憩なさってはいかがでしょうか…』



 気を利かせてか、俺の手許にある仕事のキリが良いところで声を掛けてきたのは、燕尾服を身に纏った三十代半ばの男。

 彼は帝家当主――つまりは俺の親父――にも見初められた、信頼のおける「執事」だ。


 その執事の椋田(クラタ)は、不安気な表情で俺にそう言った。

 聞こえてはいるが今の俺には余計なお世話だ。

 仕事の合間に休憩など、集中が切れるだろうが。




 ―――帝グループ代表取締役社長・[帝(ミカド) 誠一郎(セイイチロウ)]率いる大企業。

 今となっては我が国の未来を担う企業のトップだ、と言っても過言では無い。

 そして、それを帝家長男であるこの俺が継ぐことは俺が生まれた時から、さも当たり前のように決まっていることだ。



 幼い頃から英才教育、そして帝王学を叩き込まれては、知らぬ間に社交界に引っ張り出される日々を繰り返してきた。更には、ある程度成長した中等部初めの頃から既に、父親に一部の仕事を任され…


 そうして俺自身を構築する要素の全ては、すっかりマニュアル通りに育てられた結果だ…とでも言おうか。性格とは幼い頃の環境が影響するという、全くその通りだ。



(…昔のことなど、思い出すだけで怠いことを)



 集中力が既に途切れた証だな、と俺は小さく溜め息を吐いてから、仕事用の眼鏡を外した。


 仕方無く手を止めて「椋田、茶をくれ。」と一言口にすると、椋田は心底安心したような表情を浮かべ、『畏まりました』と答えた。

 皮肉にも椋田のこういうところは、親よりもずっと親らしく感じるな。



「会食までに時間はまだあるだろう。」


『はい、御座いますが…』



 椋田は俺の言葉の真意に気がつくと再度顔を曇らせたが、俺の知ったことか。

 椋田の返答を聞き、俺は満足気に笑みを浮かべる。



「フン、ならよい。これから特訓だ。」


『お坊ちゃま、休憩なさるのでは…!』



 嗚呼、そうだ。だから今から「休憩」をするのだ。

 俺はピクリと微かに眉を動かし、椋田を真顔で見据えた。



「……椋田、俺の最も嫌いな時間は、なんだ?」



 低い声で静かにそう問うと、椋田はハッと目を見開く。



『っ…〝無駄な時間〟で御座います。』


「そうだ。わかったのなら、それなりに相手になる者をよこせ」


『畏まりました…。』



 渋々、といった感じで引き下がる椋田を横目で一瞥し、俺は立ち上がり、屋敷の外の別館へと歩みを進めた。




 この世でいう―――魔法、とは何か。


 それは「選ばれた者にしか授けられない特別な力」だと遣い手を崇拝することもあれば、芸術、そして強さの現れ、もしくは個性だと見る者もいる。

 しかしその逆に「忌まわしい呪いのような力」だと思われることも皆無ではない。


 誰もが持つ力でないが故に遣い方を誤り、警察に規制される事さえあるのだ。

 だが、それが最近では警察も手に負えず、野放しになる者が増加している…という問題は後を絶たない。




 帝の家系には代々、魔力を持つ者には数少ないと言われる【黒魔法】を遣いこなせる血が流れている。


 黒魔法とは、その名とは異なり、神聖且つ己の精神状態を操ることができなければ遣えない魔力だ。

 そして、その力量は己の「自信」により変動すると言われている。




 俺は―――心頭滅却するように精神状態を安定させてから、掌を強く握り締めてつくった拳に「気」を溜めた。

 やがて、それを血液と共に体内に駆け巡らせる。



 そうして俺は今まで未完成だった黒魔法の一つである、【占髄術(せんずいじゅつ)】を完成させるが為の準備を始めた。

 【術】とは、魔法という集合体の一部分だ。


 占髄術とは、《相手の心の隙間に神経を集中させ、己の「気」を相手の神経に解放させることにより、相手の心髄を占領し、動きを止める》という術。

 難易度は決して低くもないが、今ならできるだろうという確信があった。




 特訓相手としては不足しない魔法の遣い手達が数十人と並ぶ中、模擬戦を始める準備が整い、俺は一戦目の相手と互いに決められた枠の中へ移動した。

 ……だが。

 俺はその「ルール」が気に食わず眉間に皺を寄せ、ゆっくりと首を横に振った。



「…気に食わん。なぜ、一対一なのだ?」



 その一言を聞き、その場に居た全員が焦るやら戸惑うやら、サァッと顔色を変えたが、そのような事はどうでもよい。戦場にルールなど必要無いのだ。



「それに…この枠はなんだ?狭すぎて身動きも取れまい。おい貴様、ルールを無くせ!」



 咄嗟に魔力の制御ができるよう置かれた審判に向かい、俺は感情のままに不服を申し出た。

 審判は『ですが…!』と一時は反論をしようと試みたらしいが、おどおどと周りを見回してから、『わ、わかりました』と歯切れの悪い返事を返してきた。


 無言でその様子を見ていた椋田も額に手を当てたが、諦めるように小さく溜め息を漏らす。



『お坊ちゃま…くれぐれもお怪我はなさらぬよう、お気をつけ下さい』


「戯け、誰が怪我などするものか。心配せずとも結果はすぐにわかる。…フン、そこで見ていろ」




 ―――審判の『始め!!』という声を合図に、数十人が一斉にこちらへと力を振り翳しに掛かる。

 その時を待っていた俺は、ニタリ…と俯き加減に笑みを浮かべ、タイミングを見計らった。

 前に向けた手の平から、親指・人差し指・中指の三本を立てて「気」を集中させる。




 それは―――ほんの一刹那の出来事だ。


 【赤魔法】を持つ一人が掌で(ほむら)を燃やして攻撃を仕掛けてくる手前になった時、『!ぐァッ…!!』と声にならない声を発した。

 導火線のように一人を初め、俺は次々と相手の神経に自分の「気」を投与してゆく。


 徐々に、ゆっくりと。そして確実に。



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