夏だ!腹ポリだ!!ヘンデレだ!!☆-2
***
ど、どどどどどうしよう。大変だ。
この世界に来てココ一番のピンチかもしれない。
―――朝6時。
なんだか首が痒くて目が覚めてしまったあたし。蚊を恨みながらムヒを探しつつ、早朝だしラジオ体操なんかしてみよっかなーとか考えたところで「アレ?なんか今日予定無かったっけ?」なんて、簡単に昨日の出来事を危うく忘れるところだった。
……これって心が老けているせい?
いやいやいや夏のせいだ。全ては夏休みのせいだ。妖怪腹ポリのせいだ。おっと、腹ポリはあたしだ。
で、なんだっけ。苗字を聞き忘れたが、或っていう婚約者を空港まで迎えに行くという、正直面倒極まりないイベントがあったことを思い出したは良いが、ふと、ムヒを塗る手が止まる。
「……今日?」
顔からサァーーッと血の気が引いてくのがわかる。
なぜなら……
「アル…或……婚約者…ドイツ留学……。」
やべぇ。
或という人物に関しての情報がミリもミクロンも思い出せない。
だからゲームの知識外イベントは困る。
会うのは今日だというのに、走馬灯が流れ込んでこない。ウソでしょっ。久々に白目になる。
いや、待てよ?
もしかしたら、会ってからギリギリになってドゥルンッ!て流れてくるのかも……?
うん、それも有り得る。落ち着こう。
思えば、ゲームの知識外イベントは一昨日の体育倉庫に閉じ込められ事件だってそうだった。
あれは別に記憶に関する問題があったわけじゃ無いから、こんなにも記憶や知識に頼る必要も無かったが。
しかし今回はそうもいかないので、頼むよ最後の頼みの綱―――!
少しでも早く記憶が戻るように、祈りながらあたしは二度寝した。
――――
―――――
『行ってらっしゃい、エリカ。今日は遅くなっても良いのよ。……むしろ帰りが明日になっても…うふふ♪』
「なっ…!ちゃんと明るいうちに帰りますわ!?」
お母様、なんという爆弾発言を軽々と口ずさむものか。日が沈む前に帰って来てやるぅ…!
エリカにリア充という明るい未来は基本存在しないことを忘れてはならない。
それでも破滅回避したら存分に楽しんでやるんだから、今は我慢だ。ひたすら我慢。
「……コホンッ。では、行ってきますわ」
母に見送られながら黒塗りのリムジン……ではなく黒塗りの乗用車よりちょっと良い車に乗って羽田空港へ向けて出発した。
待ち合わせは10時で、家を出る前に彼の苗字が「駿河」だということも聞いてきた。
果たしてこれだけの情報で無事再会(初対面)を果たせるのか!?と不安に駆られるあたしはというと、まだ記憶が戻らない。焦らされている。
しっかし、こうして外を眺めていると今まで住んでいた世界と大きく変わった点は見当たらず、京都に行ったときも思ったが、違和感は自分の周りだけな気がする。
もっとよくこの世界を知るために夏休み中一人旅でもしてみたい。それいいっ!ナイスアイディア!
空港に到着してからも変わったことは無く、すんなりと待ち合わせのゲートラウンジまで行けた。というか、そうポンポン問題発生されては困る。
ただ、向こうから声をかけてくれることを願って三つ編みおさげは健在だ。問題はコンタクトを入れていること。
わかるかな?わかるわよね?気づいて或君ッ!
すると、搭乗ゲートから想像通りの眼鏡・黒髪・真面目そうな青年が一人。
……二人、三人。えっ!また一人。一体どれ!?
少し待ってみると候補の数人は待ち合わせている相手がいたらしく帰ってゆく。
が、候補の中でもやたらキョロキョロ辺りを見回してる青年を発見したので、もしやあの人ではないだろうか。
取り敢えず間違えたら嫌なので声はかけずに、あたしはわざと彼の視界に入る位置に移動することにした。
そして彼の正面に立った時、なんと目が合った。
―――その時だった。
『エリカ―――…!』
(……あれ?)
今、後ろから呼ばれたような気がする。気のせい?
念の為振り返ってみようか、と思った時だった。
正面にいた眼鏡の青年があたしの横を素通りしてく。
え!違うの!?じゃあ、やっぱり今呼ばれたのはあたしか!?
バッ!と勢いよく振り返った丁度同時のタイミング。
『エリカ…会いたかった』
ドサッ!と体全体に重みがのしかかってきたかと思うと、なぜかあたしは、肩越しに甘い声でそう一言呟いたその男の…………腕の中にいた。
こ、これは、もしや、抱き締められてる!?
状況がやっと把握できた今、バックンバックンと心拍数が上がってくのがわかった。
確実にこの人こそがエリカの婚約者様、駿河或だろう。
で、でもさ、随分大胆すぎやしません!?海外では普通なの!?
不意打ちはズルいだろっ!という心の叫びを察してくれるかどうかは別としてこの男、ただもんじゃない。
危うく骨抜きにされるところだった。危ない危ない。煩悩よ消えろ南無阿弥陀…
「……わ、私も…!ですわ、あ、或君…」
緊張が声に現れたあたしがそう言うと、どうしたものか、突然バッ!と体が離れてゆき、そのまま両方の肩をガッシリと掴まれた。
エッ!何!?あたしってば、初っ端しくった!?
恐る恐る見上げ、彼の顔色を確認する。
……と。
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