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可憐な華でも、姫でもナイッ(仮)  作者: 桜雪りか
Ⅲ.英エリカ、中学3年生の葛藤編
19/33

Ⅲ-7



『貴女、あの時の―――』



 もしかして……気づいた?


 メガネもしていないし、おさげも解けたゆるソバージュ的な髪型で。

 今の姿は普段と似ても似つかないはずだ。

 数秒だが、一度面と向かった帝にも……



『なんだ陵、知り合いか?』



 ほ~ら気づかれてぬぁ~い。

 ……いや、この男は気づけ。

 そしたら「貸し1の借り」とかなんとか言って釣れたのに。我ながら浅はかだった。



『憶えていらっしゃらないのですか?会長は食堂で一度お会いされている筈ですが。それと、…いえ。』


『……何?』



 ピンポイントキターーーッ!

 流石、知性派の陵左京だ。最近陵を褒め過ぎているから自重したいのだが。



『陵、貴様……。この俺が憶えていないことがあるか?』


『いいえ、滅相も御座いません』


『では、この女は知らない。会ったことも無い。今日初めて見た。それでいいだろう?』


『えぇ勿論。左様です』


「……。」



 って、なんじゃこりゃー!


 あたしの貸し1を無下にするのかいっ。

 これじゃあたしが帝に恩を借りて猿芸で返したみたいな変な話ができあがるじゃん。なんかセコい。



「だから待ちなさいって!こないだ食堂で席譲ったじゃない、三つ編みメガネよっ!大体ね陵!あんたもあんたよ。誰のせいであんな倉庫に……」


『待て、三つ編みメガネ……?』



 帝はもう『命令はするな』とか突っ込んでこなくなったが、どうやら真剣に考え始めてしまった。

 帝坊っちゃん、意外と素直だったのか。

 しかし不意打ちで陵があたしに手を差し延べ、立たせられた。



『英嬢、ご機嫌を直して頂けると幸いです。帰りは陵家のリムジンを手配致しますので』


「〝嬢〟?あなた態度変わり過ぎじゃない……って、どうしてあたしの名前―――」



 教えた覚えはない。なのにどうして?

 すると陵は『そ、それは…』と口ごもってしまった。



『兎に角、英嬢はもう少々お待ち下さい。会長はその辺にして下さらないと帰って大変ですから、さあ早く』


『待て。陵、これは俺自身との闘いだ!止めるなっ』



 おいおい怪しいぞ陵。

 そして帝はなんだその闘いって、大袈裟な。


 陵はらしくもなく帝の言葉を聞きもせずに、いつの間にか迎えに来ていた長~~~いリムジンに帝を押し込んだ。

 長い。煌びやか。そして黒い。



 ブロロロ…と静かな音を立ててリムジンが消えると、次に来たのは白いリムジンだった。

 先程のよりは短いが、長いことに変わりはない。そして驚きの白さ。



 あたしがポカンとしていると陵は、

 『どうぞ、此方でお帰り下さい。英嬢』

 と、ドアを開けて中へ促した。



「え、あなたは?」


『後ので帰ります。ご心配には及びません』



 どんだけ保有しとるんじゃリムジンを。

 陵家からいらない物ふんだくって売り飛ばしたら絶対すごい額になりそう。

 銀座千●屋のフルーツをどれだけ食せるものか。

 宮間青春時代では親が値段見て血相変えて、店に入ることすら許されなかった上に未だに食べたことがないのだから。



 そんなことを考えながらリムジンに乗り込むあたしに、陵が『英』と呼びかけてきた。



『俺のせいだったとは……すまなかった。英が連れ去られる姿を目撃したと、某生徒から報告を受けた』


「へ……い、いいから頭上げて!」



 そう深々と頭を下げられてしまい、戸惑う。

 もしかして陵が現れた本当の理由って?



『……それと、今回の件は帝会長と無関係…故に、他言無用だと幸いだ』


「え…それって」



 帝があたしを助けたことについて言ってるのだろう。

 しかしあたしが気になったのは、どこかで聞いたことのあるその言い回しだ。


 その時、あたしの脳裏にはとある言葉が浮かんできて、それが親睦旅行で自分が言った言葉に似ているのだと気がついた。



 ―――「あ!あと、あたしは手出しなんてしてないから…その…言わないでくれると助かる」―――



 偶然かと思った。だが陵は、



『……これで対等になるとは思わないが』



 ドアを閉めてくれる際に一瞬だけ、ふっ…と、見たこともないような柔らかな微笑を見せ、そう言った。

 これって、陵なりの配慮……?




 陵と別れてからも、相変わらず長いリムジンの中であたしは初リムジンを堪能するわけでもなく、陵の言葉を脳内でリピート再生していた。


 滅多に笑顔など見せない陵。


 物語(ハナコイ)でも彼の笑った顔のスチルは、正面から笑顔のなんて一枚も無いほどに貴重だった。



(な、なんか)



 なんか今、あたしの心の中で何かが起こった気がした。左胸がムズムズとくすぐったい感じ。

 それをわかりやすい効果音で例えるならば、



「…きゅん……?」



 自分で口に出しといて、驚きのあまり目を見開く。



「や、やだやだっ!これは萌えの意味でっ!」



 そんな自身の酷い顔が車の窓ガラスに映る。変態か。

 車内で持ち物と携帯を発見して、なんと言うか陵、あいつは本当にデキる男だ。

 感嘆の変な声が出た。



(そういえば―――)



 冷静になれば思い出す。

 先程帝に助けられる前、気を失った時に見た「夢」のようなものは一体なんだったのだろうか?



 あたしのお母さんが、あたしを『エリ』と呼んだ。

 エリカではなく、紛れもない、瑛梨沙(あたし)のあだ名を呼んだのだ。

 それも含めて、おかしな事は既に沢山起こっているが、問題はまだまだ山積みみたい。



 そしてもう夏は、来るらしい。



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