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可憐な華でも、姫でもナイッ(仮)  作者: 桜雪りか
Ⅲ.英エリカ、中学3年生の葛藤編
18/33

Ⅲ-6



 ただ、理解できないのが。



『貴様……。』


「帝……?」



 なぜか目の前には帝がいて。


 なぜか、あたしはそいつの頬をホールドしていて。


 なぜか落ちたはずの地面の上で、帝に姫抱きをされている、という現状で―――



 気づけば青ざめていたはずなのに、羞恥心からか、顔に熱が集まる。



『どうやら貴様如きに時間を割いた俺が愚かだった、ということか』


「え……?」



 あたしとは裏腹に、帝の表情により一層暗い影が帯びた。

 お陰様で顔の熱は引いてく。

 今度ばかりは流石にあたしでも怯む。完全にあたしに非があったんだもの……



「ち、違う!これは違う!本当に感謝してるのよ!」



 窓を開けて気づいてくれて、どうやったのかは知らないがこうして助けてくれて。

 まさか帝に殺されるどころか、命の危機を救ってもらうなんて想定外だったが、ありがたかったのは本当だ。



『もうよい。』


「へ?―――痛ッ…!」



 姫抱き状態から両手を外され、あたしはそのまま地面に落とされた。

 帝はしれっと背中を向けて去って行く。



「いッたたた……ちょ、待ちなさいってば!」


『だから、俺様に指図をするなと言っただろう!』



 えーーっ!振り返るの速っ!

 しかも指図されて待っちゃってるし。

 待てとは言ったが、それでいいのか?いいのか帝零司!?



「って、いいから手ぇ貸してってば…」


『……この俺が、か?』



 『なぜだ』なんて顔をしているこの男のプライドの高さは、富士より高く天下一品だと忘れるところだった。



 確かに帝零司という人間は、「世界の」が付いてしまう程の権力がある大・大・大規模な帝グループの一人息子であり、後継者の超絶的ボンボン坊っちゃんで。

 どんな場所でも王様扱いを受けているはずで、当然のようにこういう……ちょっと、結構、かなり人並み外れた性格になったのだろうけれども。



『この高尚なる帝零司様が助けてやっただけでも、光栄に思うところを…』


「こ、腰が抜けたの!いいから早く!」


『ほう?それが人にモノを頼む態度か?それも俺様に願いを乞うとは世間知らずにも程がある。だが……そうだな、』



 帝がニヤリと企み笑いをした。嫌な予感しかしない。



『手を貸してやる代わりに〝お願いします帝様〟とでも言ってみろ』


「はぁっ!?」


『あぁ、それと山ザルの物真似も付けてな。暇潰しに丁度良い芸を見せろ。タダで見せられることの光栄さを噛み締めながらな』


「見せる方が光栄に思うっておかしいでしょ!?そんな簡単に…」


『そうか。ククッ…残念だ。だが貴様ができないと言おうものなら、許すまじ非礼な言動の数々を〝報告〟するしかないのだな』



(こ、こいつ、脅しか……!)



 これなら自力で立った方がマシだと思ったが、「できない」と言えばエリカの一度通った道をまた通ることになり兼ねない。



「……言えばいいんでしょ、言えば」



 帝は腕を組み、返事の代わりに満足げな笑みを浮かべてあたしを見下ろした。

 く、悔しい。いつか仕返ししてやる……



「げほっ。……オネガイシマス」


『はぁ?聞こえないな』


「お、願いします!ミ・カ・ド・サ・マ……!」



 こんな羞恥プレイ、あたし史では記憶から抹消しよう。墓場まで持って行こう。

 ……あれ?消すのに持って行くの?



『……フン、まあまあだな。次だ』



 今度はあたしの目線にしゃがみ『早くしろ』と急かした。一体どうしてこうなった。

 くぅぅ……!ヤケよ、ヤケっぱちよ!!


 山ザルというものがどんな猿を指すのか知らないので、あたしは取り敢えず鼻の下を伸ばして鼻腔を広げ、お猿のポーズで「キーッ!キーッ!」と甲高い声を出してみた。

 締めに腕時計付属のライトを顎の下に持ってきて……って、これなんか違う。貞子要素追加してどうするんだ!



 すると帝は肩を震わせ、『くッ』と声を漏らしたかと思うと、次には『ハハハハッ!!』と腹を抱えて爆笑した。こいつ一発殴りたい。

 ふつふつと込み上げる羞恥と怒りに耐えているあたしと、未だに腹を抱えて笑う帝。




 ―――そんな時だった。


 ジャリ…と足音が聞こえ、あたし達の前にその姿を現したのは。




『―――会長。何をされているのですか、このような場所で』




(こ、この声は!)



 ……ゲッ、やっぱり陵左京!



 まさかのツートップが揃ってしまった。

 しかも降臨と呼ぶには相応しくないこんな場所で、こんな時に!強いて言うなら「降」臨したのはあたしの方だ。



『ハハッ…あぁ陵…くくッ、どうした?』


『……? いえ。もう21時を回っているのに、生徒会室の明かりがまだ点いているみたいでしたので』


『いや、仕事は終えた。もう帰るところだ。……くハッ』



 終始目尻を拭いながら言葉を交わした帝は、立ち上がって陵のもとへ歩き出した。



「え?ちょっと帝!待ちなさいって!」



 羞恥の後は放置ってか。

 上手いこと言ってられる状況じゃないんだってば。



『……それは会長への侮辱行為と捉えても、よろしいですか?』



 反応したのは陵だった。

 まるで親睦旅行の時、3バカへ向けた態度と同じような態度で、静かな口調で、まだ尻餅状態のあたしのもとへ近寄った。



「ご、誤解だっ…」



 誤解だってば。

 そう言おうとしたあたしの目の前に立ち止まった陵は、予期していなかった反応を見せた。



『…っ、その声』


「へ?」



.

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