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可憐な華でも、姫でもナイッ(仮)  作者: 桜雪りか
Ⅲ.英エリカ、中学3年生の葛藤編
17/33

Ⅲ-5



『いい、度胸だな』


「帝様にお褒めに預かり光栄だわ!」


『…なに?それは皮肉か?』


「そっくりそのまま返す!あ、少し窓から離れてくれない~~?」


『はぁ…!?おのれ、この俺に二度も指図するとは―――』


「何?聞こえな―――」



 ごめん、ジジくさい訂正します。

 確かに聞こえにくいわね。

 それよりも、向こうの窓が開いている今のうちに早くしなきゃ!


 あたしは倉庫で見つけた棒高跳びの棒を手に取った。



『帝を敵に回すという事だな。死にたいのか―――』


「? 聞こえないって……どーいーてー頂戴~~!」



 あたしは棒を窓の外に降ろし、深呼吸をした。



『おい馬鹿、何をする気だ!?』



 とにかく無い知恵絞った結果、思いつく方法はこれだけなんだよ。



(―――いざ!)



 あたしは窓の縁に身を置き、棒は上部がなるべく遠くに行くようにした。

 そして―――カッ!と足もとを思い切り蹴り上げて高く、高く向こうへ。



 強い風が吹き、唖然とあたしを見上げる帝が視界に映った。


 ……って!




「~~~!!!」



 向こうの窓の縁に掴まるつもりが、実際は指先が一瞬だけ掠って―――

 狙いを外してしまったあたしは、ビュンビュンと風に煽られ下降していく。



(えっ、下降……?)





「―――うぎゃぁぁぁぁぁあァァァ!!!!!」



 しまった!忘れていたが、メガネが無くて焦点がズレていたのだ―――!

 こんな終わりってどうなの!?


 帝は危害を加えてくるどころか、傍観していただけ。

 しかもまだヒロインとさえ出会ってない!物語(ハナコイ)は始まってもいないのに……!



 最後に目に入ったのは帝の呆け顔だった。

 認めたら負けのような気がして認めたくないが、イケメンは呆けてもイケメンだった。



 あたしは空に手を伸ばしながら、この世界に来て二度目の気を失った…―――。




―――――

――――




『リ…―――エリ、エリ……!』



 ぼぅっ…とする頭に、永遠と真っ白な空間。

 そんな中で聞こえたのはあたしを呼ぶ声だった。

 あたしを『エリ』と呼ぶのは、たった一人だけ。



「―――お…母……さん」



 答えたかったのに、久々に発したあたし自身の声はとても弱々しく、届いたかもわからない程消え入りそうな声だった。

 でも、あたしの手を強く握ってくれたから聞こえたんだなってわかった。



 全てを包み込んでくれるような、この暖かい手が小さい頃から大好きだった。


 お母さん。親不孝でごめんね。

 悲しいはずなのに、優しくて、暖かい。なぜか穏やかな気持ちだった。


 きっと、宮間瑛梨沙(あたし)にとって何よりも愛おしい時間だったからだ。




 「あたしはこっちで生きてるから、心配しないで」―――本当はそう伝えたかった。

 伝えたかったのに、思うように唇が動かせなかった。



 白い世界で、あたしは静かに目を閉じる。



 そして。




――――

―――――



『―――ぃ…おい、しっかりしろ。』


「……ん…?」



 ゆっくりと目を覚ますと視界のピントは合っていなくて、間近にはぼんやりと靄がかったように誰かの姿が見えた。



「誰……聡史?」



 さとし、と無意識で口から飛び出たのは、瑛梨沙(あたし)の恋人の名前だった。



『―――何を寝惚けてるんだ?山ザル女。』



 誰が山ザル女だ。


 ボヤけて見えないので、ハッキリと視界に映したくてあたしはその人に顔を近づけ、両手でバッ!とその人の両頬を挟んだ。



『っ!?』



 ……あ。すごーい、肌スベスベ。

 琥珀色の瞳も綺麗だし、睫毛長い。

 この人超イケメンじゃないの。イケメ、……。



 その瞬間、今まで朦朧としていた意識がしっかり戻り、視界もハッキリとする。

 そして―――今自分が何をしているのかを自覚した時、サァッ…と血の気が引いたのがわかり、青ざめながらあたしは全ての動きを止めた。



「……ぁ」


『……。』



 て、てか。

 てかてかてかてかてかてか何この状況。


 まずあたしは先程、簡単に言うと地面に向かって「落ちた」のだ。死を覚悟したのだから。

 なのに今あたしは……多分死んでいない。



.

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