【Side-Erica-】-1
『……覚悟はよろしいですか?』
彼―――陵は声を低くして、逃げようとした男達にそう言った。
あたしはというと、多分白目を剥いていた。
だだ、だ、だって!
まさか魔のエピソード手前にして、よりにもよって主要人物の陵左京にこんな、問題を起こしたようなところを見られるなんて想像もしていなかったもの。
たとえば、これを機に『問題児は排除する』とか言って退学!なんてことがあっては困る。
いや、それはまだマシだ。
別の意味での〝排除〟をされては即ゲームオーバーじゃないの。
ナントカセネバ。
まあ今はそれどころじゃないけどっ!
『か、覚悟だ?ナメてんのか?』
『……おい、もうよくね?』
『あ、ああ…従うしかねぇよ』
金髪だけが陵に牙を剥いた状態で、二人は逆らう気がないらしい。金髪御愁傷様だ。
あたしも御愁傷様かもしれないけど。
……チーン。
『そう、ですか。ならば仕方がありません』
『あァン?テメーさっきから調子こいてんじゃねーぞ!―――』
「ぁ……っ!」
金髪は今度は陵に拳を向けた。
しかし陵はそれを微動だにもせず、その場から一歩も動かなかった。
一歩も動かなかった、なのに。
『―――グハァッ!』
『っ、おい…どうしたんだよ!』
茶髪が慌てて駆け寄るも、金髪は―――気絶していたため、返事は返ってこなかった。
『ヒ…ヒィィィ~!!お前何やったんだよ!?』
ゴマ塩が青ざめながら、陵を見た。
『貴方も御覧の通り、何もしておりませんが?』
陵からただならぬオーラを感じたのだろう。
それからは二人は金髪そっちのけで。
『……おい、マジやべぇよ、行くぞ!』
『ああ…!』
「え!?ちょっと!」
とうとう金髪を置いて逃げて行ってしまった。
が、陵は止めもせず相変わらずの無表情だった。
あたしはハッ!として絵鞠ちゃんの方を見ると、青ざめてはいなかったものの、あたしの服の袖を掴んだまま悲しげな表情で陵を見つめていた。
……今の異様な出来事、あたしは知っている。
陵は金髪に触れることさえしていないのに、力を加えることができた理由はただ一つ、〝魔力〟の存在だ。
「……ねえ」
『……』
ちょいちょいっ!返事無しかいっ!
「……ゲホッ。今の奴ら、逃がしてよかったの?」
『……』
「確かに、そこの金髪だけで大丈夫か」
って、おいおい。
聞いといて自分で結論出しちゃったじゃないの。
ということであたしは陵との会話を諦め、絵鞠ちゃんに「行きましょう」と呼びかけた。
絵鞠ちゃんからも返事は無かったものの、小さく頷いてくれたから、あたし達は凜子ちゃんのいる所まで戻ることにした。
そして、陵とすれ違いざまにあたしは。
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