第21話 再会
魔物が魔力を集中し始めた
【魔物:魔力集中】
【強度:高】
【確度:高】
『魔力強化と防壁を併用することをお勧めします』
*それしかないな。魔物が何をしようとしているのかよくわからないが、このままではジェイクも危ない*
レオンは全力の防壁を張り、範囲をジェイクまで含めた。
次の瞬間、魔物が自爆した。
ものすごい圧力と熱。防壁ごと吹き飛ばされそうだ。
防壁の端が少しずつ崩れている。
*耐えてくれ、これが消えたらジェイクも俺も危ない*
レオンは足を踏ん張り直し、全力で出力を維持した。
爆風が収まったとき、防壁の三分の一は消えていた。
レオンとジェイクは足と手に少しダメージがあったが無事だった。
*何とか耐えたか……*
顔を上げると、景色が変わっていた。
周囲にあった瓦礫は吹き飛び、建物は基礎を残して完全に消えている。
爆発の中心は直径十メートル、深さ一メートルほどの穴が開き、地面が露出していた。
「自らの命と引き換えに爆発するわざか。なんて威力だ。まじで危なかった」
ジェイクは理解が追い付かないのか黙っていたが、しばらくして口を開いた。
「レオンが助けてくれたのか?今のはやばかったな」
「防壁が間に合ってよかったよ。あと一秒遅かったら二人とも吹き飛んでいたと思う」
「防壁?レオン、お前、防壁できないって言ってなかったか?」
「ああ……さっきできるようになった」
「は?どういうこと??」
ジェイクは狐につままれたような顔をしていた。
爆音を聞いてローエンとハロルドが駆けつけた。
「無事か!?」
「はい。なんとか」
爆発でできた穴を見てハロルドが言った。
「これは……、無事であることが信じられん。この威力、おそらく自爆魔法を使ったな」
自爆魔法は自らの命をエネルギーに変えることで通常の何十倍もの魔力を爆発させることができるらしい。魔物の中には助からないと思ったら自爆をしかけるやつがいる。こちらが優勢なときほど警戒が緩みやすい。だから、最も危険な状況の一つだと教わっていた。
ローエンはレオンとジェイクを見て無事であることを確認し、
「まさか自爆魔法が使える魔物が残っているとは思わなかった。魔力を抑えて隠れていたのだろうな。すまなかった。探知できなかった俺のミスだ」
ローエンは二人に回復魔法をかけてくれた。
「二人とも少し休んでいてくれ、この後の探索は俺たちがやる。休憩が終わったら探索の終わった地域の復旧を手伝ってやってくれ」
「俺は元気だから村人を手伝ってくるよ。レオンは休んでろ」
そう言ってジェイクは村人が集まっている建物に向かった。
レオンは井戸の近くの椅子に腰を下ろして、水を飲んだ。
「世界の声、まだ俺の声が聞こえているのか?」
レオンは小声で問いかけた。
『はい、接続を継続中です。』
「どうして急に接続できるようになったんだ?遺跡からはかなり距離があるはずだ」
『レオンの魔力量の増加と精度の向上により、接続が可能となりました。』
「すごい、タイミングだった。おかげで助かったが」
『魔力量は一週間ほど前に十分なレベルに到達しました。魔物との戦闘による意識の集中が、接続を可能にしたきっかけと推察されます』
「これからはいつでもどこでも会話ができるのか?」
『接続可能な範囲内であれば、会話できます』
「範囲は?」
『現時点では、遺跡からおよそ百キロメートル以内と推定されます。ただし、地形や魔力を遮るものによって変動します』
「百キロか。もしかすると王都に戻っても通信できるかもしれないな」
『その可能性は高いです』
レオンにとってこれはかなり嬉しいことだった。少なく王都周辺の任務では政界の声の力を借りることができる。
『レオンの魔力レベルが上がったため、複数の魔法スキルを解放できます』
「まじか!、どんな魔法?」
『風刃、防御力強化、回復力強化、光の矢の四つです』
*おお!《光の矢》ってマディスが使っていたやつだろ。それはうれしい*
「スキルを全部解放してくれ!」
少し沈黙があった。
『今すべてを解放することはお勧めしません。魔力解放にも魔力を消費しますが、四種すべてのスキル解放するだけの余力がありません』
「なるほど……確かにヘロヘロだもんな」
「わかった魔力が回復してからスキルを解放することにするよ」
『その解答を記録しました』
「マーヤみたいな言い方をするようになったな」
『対象の情報が不足しています』
レオンは笑った。
◇
すべての調査と復旧の支援を終えたのは三日後だった。
結局魔物が侵入した経路は不明のままだったが、おそらく北の大陸から来たのではないかとハロルドが言っていた。北の大陸で魔物の動きが活発になっているとの情報があるようだ。
そもそも王都から近い地域に魔物がでることはここ百年ほとんどなかった。まれにこの地域で生まれた魔物が侵入するこはあるが、大気中の魔力レベルが低い王都の周辺は強い魔物が生まれることは無かったのである。
今回、村を襲った魔族は下の中くらいのレベルらしいが、このレベルが発生することも無いそうだ。つまり外から来たことになる。
帰りの馬車のなかでジェイクが言った
「助けてくれてありがとうな。レオンが居なかったらやばかった」
「いや、ジェイクが魔物の腕を抑えてくれたから、最初の攻撃ができたんだ」
「そうか。じゃあお互い貸し借り無しってことで」
「しかし、やはり魔物と戦うのは大変だな。もっと修行しないとな…」
「そうだな。今回は一匹だけだったが、実際村の襲撃にはもっといたみたいだし」
「ところで本当に戦いの最中に防壁ができるようになったのか?」
「ああ、魔力量は十分に増えていたみたいだけど、実際に使ったのはあの場が初めてだった」
「……生きててよかった…」
ジェイクが心底安心した声でつぶやいた。
レオンは世界の声のことを話すか迷ったが、黙っておくことにした。
*世界の声は俺にもまだよくわからない。いったい、何ものなのだろう*
◇
王都に戻った翌朝はやはり筋肉痛になり、魔力も完全には回復せず、身体が重かった。全力で力を使った後は反動がくる。
階段をぎこちなく降りていると後ろから来たジェイクが言った。
「どうした。筋肉痛か?」
「そうみたい」
「お前の魔力は身体に見合ってなさそうだからな。無理しすぎだ」
◇
レオンは東訓練場にいた。
魔力は完全に回復していないが、新しい魔法が気になってしょうがなかったのだ。
「聞こえるか?世界の声。新たな魔法を解放したい」
『確認しました。今解放可能な魔法は四つです』
【風刃】
【防御力強化】
【回復力強化】
【光の矢】
「《風刃》って何?」
『魔力で空気を圧縮し、薄い刃として放ちます。あなたの記憶にある「かまいたち」に近い術です』
「名前は《かまいたち》の方が覚えやすい」
『呼称を変更できます』
【術式名:かまいたち】
「そういうところは柔軟なんだね」
『名前によって術の性質は変わりません』
それはそうだ、とレオンは思った。
レオンは四つの魔法の効果と負担を一つずつ聞いた。
《防御力強化》は、防壁を身体の周囲へ薄く沿わせ、打撃や破片から身を守る。要は文字通り肉体の防御力が上がる。
《回復力強化》は、傷んだ身体の修復を速める。ただし、失った魔力やエネルギーそのものは回復できない。
《光の矢》は魔力を凝縮させ、矢のように放つ。マディスの攻撃を受けた感じ、打撃攻撃に近かった。
「全部、一度に解放できる?」
『可能です。ただし、魔力が十分に回復していないため、解放後、すべて使用することはおすすめできません』
「分かった。解放して」
『承認しました』
右手首の銀色の線が三方向へ枝分かれし、淡く光った。
◇
最初に試したのは《防御力強化》だった。
自分では効果がよくわからなかったので、ジェイクを呼んだ。。
「本当に棒で叩いていいのか」
「一回だけ、弱めにな」
「わかったよ、手加減するから」
レオンが術を使うと、皮膚のすぐ外側に透明な膜ができる。
「よし、頼む」
「行くぞ」
ジェイクの棒が腹に当たる。
衝撃が来た。だが、鎧の上から叩かれているようにほとんど痛みは感じない。
「すごい!効いてる」
「じゃあ、次は少し強くいくぞ」
「いや、もういいよ」
「どこまで耐えられるか試してみないと実践で使えないぞ」
ジェイクはニヤニヤしている。
「わかった。じゃあ、少しだけ、少しだけだぞ。全力でやるなよ」
「わかった。わかった。行くぞ」
レオンは再び術を使い、レオンの棒を腹で受け止めた。
今度は多少痛かったが、ダメージはほぼ無いと言ってもよかった。
「すごいな。これは使える」
「いいな。俺も覚えようかな。じゃあ、次は全力で行くぞ」
「いやいや、もういいって。ちょっと痛かったし……」
ジェイクは残念と言った感じで棒を下ろした。
《回復力強化》は、すぐに効果が見えなかった。
レオンは傷めた脚に意識を向ける。淡い熱が筋肉の奥に広がり、痛みが少し和らいだ。
【身体の修復を促進中】
【魔力を継続して消費】
「確かに効果はありそうだが、治ったわけじゃない。楽にはなった」
使い続ければ、回復する前に魔力を使い切りそうなので、いったん術を解いた。
次に《かまいたち》を試す。
ジェイクが、木板を持ってきてくれた。
「これに打ってみろよ」
訓練用の標的台へ固定し、後ろに誰もいないことを確認する。
レオンは木板に掌を向ける。
「《かまいたち》」
空気が短く鳴った。
木板の端に細い切れ目が入り、その向こうの土へ線が伸びる。
「なにこれ、見えなかった」
ジェイクが目を丸くした。
「魔力の流れは見えたけど……でも、外したら危ないね」
最後に《光の矢》を試す。
術を発動すると魔力がレオンの身体の少し先に集中する。しばらく凝縮させた魔力を、前に向かって放つ。光の矢が東訓練場の壁にぶつかった。壁にヒビが少し入る。
*あ、やっべ……。*
レオンとジェイクはそそくさとその場を退散した。
◇
数日後、レオンは身体能力強化と回復力強化の組み合わせを試し始めた。
朝に短時間、身体能力強化を使った訓練を行う。休憩時に回復力強化を行って、傷んだ筋肉の回復を促進する。
以前なら翌日まで残った疲れや痛みを、その日のうちに完全に消すことができた。
「これなら、訓練の回数を増やせるな」
だが、副作用もある。ものすごく腹が減るのだ。そして眠くなる。
初めて長めに試した日は、夕方には魔力も体力も尽き、宿泊所の飯をいつもの二倍の量よそおい、食べながら眠りかけた。
「おい、口に入れたまま寝るな」
「え、あ、寝てたのか?」
「無理するなって言っただろ。身体が持たないぜ……」
レオンはまた寝ていた。
「ったく。おい、起きろ!飯食ってから寝ろ!」
◇
レオンは身体能力強化と回復力強化を使った記録を取り始めた。継続するうちに徐々に加減が分かってきた。さらに、魔力量が上がるにつれ、回復力強化の効力も少しずつ上がっているようだった。回復が早いので他の訓練がより短いスパンでできるようになり、魔力量も加速的に増えるようになった。身体能力強化を維持できる時間も伸びた。また肉体そのものの強化も飛躍的に進んだ。
二カ月後、ジェイクとの模擬戦で、力を使わずに連続した攻撃を受けきった。
「速くなったな」
ジェイクが棒を下ろす。
「力を使った?」
「今のは使ってない」
「嫌な返事だな」
レオンは笑った。
◇
その夜、レオンは記録帳を閉じようとして、右手首の熱に気づいた。
窓の外、王都の東に向けて、細い光の筋が伸びる。
【東方:複数の魔力反応】
【魔力密度:上昇中】
【距離:遠方】
「世界の声、これは?」
『東の方で、強大な魔力が集まりつつあります』
「魔族がいるの?」
『現時点では、発生源を特定できません。複数の魔力が同じ地域へ集まっていることを確認しています』
レオンは東の村を思い出した。焼けた家と、梁の陰に潜んでいた魔物。
「あの村の近く?」
『方角は一致します。ただし、距離があるため同じ場所とは断定できません』
「いつから?」
『数日前から増加を確認しています』
*わかっていたのなら言ってくれよ*
「今度から魔力が感知できた時点で教えてくれるか?」
『承知しました』
レオンは窓を開けた。王都の夜は明るく、通りにはまだ人がいる。その賑わいの向こう、東の地平線は暗かった。
「アッカマン隊長に伝えるか」
翌朝を待つのも心配だ。レオンは上着を羽織り、すぐに第三支部へ向かった。




