第2話 古代遺跡で聞いた声
目覚めて二日後、レオンは村を歩く許しをもらった。
「村の中だけよ」
マーヤが念を押す。
「森には行かない。沢にも行かない。日暮れまでには帰る」
子供かよ、、
村は百人ほどの規模で、麦畑と牧場を中心に暮らしている。塩や布は、ときどき来る商人から買う。
広場の向こうで、白髪のダレンが薪を運んでいた。
「もう歩き回っているのか」
「こんにちは、おじいちゃん」
ダレンは厳しい顔で近づき、レオンの肩を一度だけ握った。
「マーヤは何と言った」
「村の中ならいいって」
「なら、村の中にいろ」
レオンの父親は幼い頃に亡くなっている。マーヤは村長のダレンの一人娘で、ダレンは父親のいないレオンをずっと気にかけてきた。
ダレンは牧場には絶対行くなと言った。昨夜、羊が二頭いなくなり、柵の近くにゴブリンらしき足跡が残っていたという。
井戸では、幼なじみのセラが水魔法を使っていた。
「魔法って、どうやるの?」
「またその質問? 子どもの頃に何度も聞いたでしょ」
「頭を打って忘れたかもしれない」
セラは心配そうな顔になり、掌に水玉を浮かべた。
「身体の中を流れるものを感じて、行き先を決めるの」
レオンも手をかざす。水玉は微動だにしない。
「うん。レオンだね」
「本人確認に使わないでくれる?」
セラは笑ったあと、北の丘には近づかないようにと言った。古代遺跡で鐘のような音を聞いた村人がいるらしい。
みんな心配しすぎだろ。
丘の上には、石で作られた古代遺跡がある。
◇
昼前、レオンは丘へ向かう道に立っていた。
村の家々はまだ見える。だがマーヤに「村の中か」と聞かれたら、説明に苦労しそうな距離だ。
引き返そうとしたとき、耳の奥で澄んだ音が鳴った。
遺跡の方からだ。
石柱の中央にある平たい石へ近づく。刻まれた文字に触れた瞬間、青白い光が走った。
《接続しました》
声が頭の中に響く。
「誰?」
《私は、ここに残された世界の声です》
男とも女とも分からない、無機質な声が答えた。
《あなたには、二つの生の記憶があります》
東京の交差点を、誰にも話していない。
レオンは混乱した。
「なんだ?頭がおかしくなったのか、、?」
《二つの記憶が重なり条件を満たしたため、あなたはこの場所へ接続しました》
レオンはしばらくその場で固まっていた。
わけがわからない。
その時また声がした。
《魔物が村へ近づいています》
光の中に暗い森が映る。獣のような黒い影が、木々の間を進んでいた。
「あれは、羊を襲ったやつか?」
《そうです》
レオンは考えるのを止めた。とにかく確かめに行こう。
レオンが動き出すと、また声がした。
《魔物に対抗するため、観測の力を与えます》
右手首に光の輪が現れ、皮膚へ沈んだ。視界の端に文字が浮かぶ。
【対象:石柱】
【状態:風化】
【確度:高】
隣の石柱を見ると、表示が変わった。
【内部に亀裂】
【荷重をかけると倒壊のおそれ】
《見たものの状態、魔力の流れ、変化の兆しを示します。ただし、見えていないものは分かりません》
「なんなんだこれは?」
レオンは混乱しながらも走り出した。
森の方から鳥が一斉に飛び立った。
【北の森:魔力を帯びた反応】
【村へ移動中】
【到達まで:日没前】
【確度:中】
レオンは丘を駆け下り村に戻った。
とにかく、まずはダレンとガルドに知らせよう。




