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第16話 一次試験と二次試験

東訓練場の中央に、四つの看板が立てられていた。


**剣技、格闘技、攻撃魔法、回復魔法。**


受験者は四種目のうち、二つを選ぶ。


それぞれの会場から、木刀がぶつかる音や試験官の指示が聞こえてくる。レオンは案内板を見上げ、剣技と攻撃魔法を選んだ。


「レオン!」


ジェイクが人の間を縫って近づいてきた。


「何を選ぶんだ?」


「剣技と攻撃魔法かな」


「そうか。俺は格闘技だな。あとは回復魔法」


レオンは思わず聞き返した。


「魔法、使えるの?」


「見た目で判断するなよ。こう見えても、家は僧侶の家系だ」


「どう見ても格闘家の家系だけどな」


ジェイクは拳を振り上げ、殴るふりをした。


「まあ正直、回復魔法は苦手だ。格闘技で点を稼いでみせるさ。じゃあな、お互い頑張ろうぜ!」


大きな背中が、格闘技の会場へ向かって遠ざかる。


レオンも紹介状と番号札を確かめ、剣技の列に並んだ。


◇


剣技の試験は、二段階に分かれていた。


最初の試験場には、藁を固く束ねた人型の標的が並んでいる。受験者には、同じ規格の試験用の剣が渡された。


「刃の状態も重さも同じだ。三太刀以内に、指定された部位を切断できれば通過とする。魔法を使うことは禁止とする」


試験官の説明を聞き、レオンは剣を持ち上げた。


ガルドにもらった短剣より長く、重い。刃先を確かめると、意図的に鋭さを抑えてあるようだった。


*なまくらだな。力だけで無理に叩くと、途中で止まりそうだ。*


素振りを数回して重心を確かめ、藁人形の前に立つ。


前の受験者が斬った藁の切れ端が、足元に散らばっていた。


レオンは息を整え、踏み込んだ。


一太刀目。


肩口から刃が深く入る。だが、固く締められた束の途中で止まった。


手に伝わる抵抗が、予想より強い。


レオンは剣を抜き、足の向きを直した。


腕だけで振らず、腰の動きを刃へ伝える。ガルドに何度も直された姿勢を思い出した。


二太刀目で、束の大部分を断つ。


最後に残った藁へ角度を変えて刃を入れると、胴の上半分が地面に落ちた。


「合格!」


レオンは肩の力を抜いた。


いきなり村へ帰ることにならなくてよかった。


◇


続く第二段階は、試験官との模擬戦だった。


木刀と防具を受け取り、白線の内側へ進む。


相手は、日に焼けた顔に太い眉を持つ男だった。前腕には古い傷があり、木刀を握る姿に力みがない。


「強化魔法の使用は認める。ただし、攻撃・回復魔法は使うな」


試験官は木刀を軽く持ち上げた。


「遠慮はいらん。思い切り打ってこい!」


レオンは踏み込んだ。


一打目は、半歩動いただけでかわされた。


二打目は、木刀であっさりいなされる。


続けて斬りつけても、届きそうで届かない。相手はその場にいるように見えて、レオンの剣が届く瞬間だけ位置を変えていた。


「次は、こちらから行くぞ」


一気に間合いが詰まった。


【次の動作:左肩への打撃】

【確度:中】


レオンは木刀を上げた。


だが、試験官の剣は途中で止まり、下段へ向きを変える。


【打撃:膝付近】


レオンは身体をひねり、ぎりぎりでかわした。


木刀の先が、防具の裾をかすめる。


「ほう。よく避けたな。では、次はどうだ?」


右から打ち込まれた剣を受ける。


その瞬間、相手の手首が返った。


【囮の攻撃】

【次の狙い:木刀を握る手】


レオンは木刀を立て直し、柄を引いた。


試験官の一撃が空を切る。


男はレオンの手元を見てから、顔を上げた。


「よかろう。もう一度、仕掛けてこい」


レオンは呼吸を整えた。


今のままでは、攻撃を当てられない。


相手の動きが分かっても、自分の踏み込みが遅い。その間に、剣の届かない位置へ移られてしまう。


*短い時間だけなら。*


「行きます」


身体能力強化を発動した。


地面を蹴る。


さっきまで遠かった間合いが、一瞬で縮まった。


「なっ――」


レオンは右上から木刀を振り下ろした。


試験官が正面から受ける。


激しい音が響き、腕へ振動が伝わった。


木刀越しの力が拮抗する。


レオンはすぐに剣を引き、角度を変えて打ち込んだ。右、左、もう一度右。


試験官はすべて防いだが、今度は足を動かし、距離を取ろうとしていた。


レオンは追う。


カンッ!


二本の木刀が弾け、試験官が一歩後ろへ下がった。


「そこまで! 合格だ!」


レオンは剣を止め、身体能力強化を解いた。


全身から汗が噴き出す。急に木刀が重くなった。


「ありがとうございました」


礼をすると、試験官は小さく頷いた。


レオンは会場を出て、水筒に口をつけた。


*いきなり使っちゃったか……。次に響かなければいいけど。*


◇


レオンが去ったあと、レオンの試験官に隣の試験官が声をかけた。


「今、危なかっただろう?」


「ああ。途中から急に速くなった。身体強化を使ったようだ」


「だろうな。しかし、最初とは別人の動きだったぞ」


試験官は木刀の柄を握り直した。


「あの出力は普通じゃないな。それに、防御も妙だった」


「何が?」


「こちらの剣が動ききる前に、狙いへ反応していた。あの少年の剣技だけでは、説明がつかん」


隣の試験官が、レオンの去った方を見た。


「今年は、面白い受験者がいるな」


「ああ。実戦でどう動くか、見てみたい」


試験官は記録用の紙へ、所見を書き込んだ。


◇


攻撃魔法の試験も、二段階に分かれていた。


まずは測定石へ魔力を流し、出力を確かめる。


透明な石の内側には横一列の目盛りが刻まれ、注いだ魔力に応じて青い線が動く仕組みらしい。


前の受験者たちを見る限り、最大値の三割ほどまで動かせれば通過できるようだった。


レオンは指定された位置へ立ち、石に触れた。


「合図をしたら魔力を込めろ。測定は一回だけだ。出力を高める魔法を使ってもよい」


レオンは魔力強化を発動した。


「始め!」


全力で魔力を注ぐ。


青い線が勢いよく右へ伸び、目盛りの八割ほどで止まった。


「合格」


レオンはすぐに手を離し、強化を解いた。


ほっと息を吐いたところで、隣から歓声が上がる。


振り向くと、別の受験者の測定石が端まで青く光っていた。


その人物は、息を乱した様子もない。


*すごい人がいるものだ。*


レオンは自分の手を見た。


まだ指先に、魔力を流した感覚が残っている。


他人と比べるのは、あとでいい。今は、次の試験に備えなければならなかった。


◇


第二段階では、得意な攻撃魔法を一つ披露する。


標的は、分厚い石の壁だった。試験区画ごとに仕切りがあり、係員が前の受験者の残した破片を片づけている。


「標的を破壊することは目的ではない。発動までの速さ、出力、制御の正確さを総合して見る」


試験官の説明を聞き、レオンは手を上げた。


「質問です」


「どうぞ」


「魔力強化と、別の攻撃魔法を組み合わせてもよいのでしょうか?」


「ここではできない。強化を含め、使う術は一つだ」


レオンは考え込んだ。


火や水を飛ばす《ファイヤーフレイム》や《ウォーターショット》は使えるようになっていた。だが、魔力強化なしでは、威力に自信がない。


「接触して使う魔法なら、標的へ近づいてもいいですか?」


「構わん。こちらが指定する壁を使え。隣の試験区画には入るなよ」


「分かりました」


《衝撃》なら、触れて使う方が確実だった。


レオンは案内された壁へ進み、掌を当てた。


表面はざらつき、朝の空気を含んだ石が冷たい。


「それでは、始め!」


魔力を一点に集める。


リシアから教わった練習を思い出した。焦って放たず、集めた力を保つ。


指先ではなく、掌の奥へ。


形が崩れそうになるのを押さえ、十分に集まったところで放った。


「《衝撃》!」


乾いた破裂音が響いた。


掌を当てた場所がへこみ、そこから放射状にひびが走る。ひび割れは広がり、レオンの背丈の二倍ほどの幅にまで達した。


小さな石片が足元へ落ちる。


「……なるほど」


試験官は壁に近づき、傷の深さを確かめた。


「合格だ」


レオンは礼をして下がった。


観覧線を越えてから、胸の前で小さく拳を握る。


*よし。選んだ二種目、どちらも通過できた。*


レオンが出て行ったあと、試験官は破壊された壁を見た。


この壁は実は壊れないように対魔力防御の魔法がかけられていた。


*この破壊力、信じられん。並みの魔法使いではできない芸当だ。彼が近くにいて感じた魔力では到底不可能だ。強化魔法も使っていない。あの少年はいったい・・*


◇


翌朝、一次試験の結果が掲示された。


千人以上いた候補者は、三百人に絞られていた。


レオンは自分の番号を見つけ、もう一度確かめた。


千四十二番。


間違いない。


「レオン!」


ジェイクが駆け寄ってきた。


「合格、おめでとう!」


「ジェイクは?」


「俺が落ちるわけないだろ」


胸を張るジェイクの口元が、嬉しそうに緩んでいる。


二人は掲示板の前を離れ、試験の様子を話し合った。


「格闘技で、試験官を結構追い詰めたんだぜ。最後には投げられたけどな」


「最後に?」


「ああ。気づいたら、空を見てた。試合で負けたのは久しぶりだよ」


「相手はドーン・ホークの試験官だからね」


「そりゃそうだ」


ジェイクは笑った。


「しかし、受験者にも一人、とんでもないやつがいたぞ。試験官と互角に戦ってたんだ。速すぎて、目で追うのも大変だった」


「それはすごいな」


「時間切れで終わったけど、続けてたら試験官を倒していたかもしれない」


ジェイクは掲示板へ目を向けた。


「四次試験は受験者同士の対戦らしい。あいつとは絶対に当たりたくないな……」


レオンは頷いた。


二人は二次試験の会場へ向かった。


◇


二次試験は、筆記だった。


一次と二次については、試験の概要が事前に公開されている。ダレンも、ここまでは通過したという。


村を出る前、レオンは尋ねていた。


「過去問はないの?」


「なんじゃ、それは?」


「昔の試験で出た問題だよ。練習できると思って」


「問題用紙は持ち帰れんかったな」


厳しい受験戦争を勝ち抜いて証券会社へ入ったレオンにとって、過去問なしで試験に臨むのは考えられなかった。


「二次で落ちる者は、あまりおらん。考え方や、配属先への適性を見るためで、点数は参考程度とも聞いておる」


ダレンはそう言っていた。


それでも、机の上に問題用紙が置かれると、剣の試験より緊張した。


会場には机が規則正しく並び、受験者たちが黙って開始の合図を待っている。


「始めてください」


紙をめくる音が、いっせいに響いた。


最初は基本的な読み書きの問題だった。


続いて、地図の読み方、伝令の手順、負傷者を見つけたときの対応、魔物の目撃情報をどう報告するか。


思っていた以上に、実践的な内容だ。


ある問題では、住民を護送している途中、任務の経路から離れた場所で魔物を見つけた場合の対応が問われた。


レオンは筆を止めた。


魔物を倒しに行けば、護送する人たちが無防備になる。


まず位置と数を報告する。住民を危険から遠ざけ、与えられた任務を続ける。


そう書いた。


別の問題では、伝令先の順序が分からず、何度も書き直した。


分かるものから埋めていく。迷った問題には印をつけ、あとで戻る。


その手順だけは、前世の受験と同じだった。


最後のページを開いたところで、レオンの手が止まった。


古代文字の解読。


短い文章と紋様が並んでいる。


遺跡で見た文字に似ていた。だが、意味はさっぱり分からない。


*こんなのが出るとは聞いてないよ~・・。*


しばらく眺めたが、解答欄に書ける言葉は浮かばなかった。


でたらめを書くよりは、空欄にしておこう。


レオンは諦めて前のページへ戻り、答えを見直した。


◇


試験を終えて廊下へ出ると、ジェイクが壁にもたれて待っていた。


「最後の問題、分かったか?」


レオンは首を横に振った。


「一文字も」


「よかった」


「よくはないだろ」


「俺だけじゃなくて、よかったって意味だよ」


レオンは少し笑った。


それでも結果が出るまでは落ち着かず、その夜は宿で何度も自分の解答を思い返した。


翌朝、掲示板の前へ向かう。


受験者たちの肩越しに、番号を探した。


千四十二番。


あった。


レオンは深く、安堵の息を吐いた。


横ではジェイクも自分の番号を見つけ、静かに拳を握っている。


「通ったな」


「うん」


レオンは掲示された次の案内へ目を移した。


試験は、まだ続く。


ようやく落ち着いたはずの胸が、また少し速く打ち始めた。

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