邁進と決着
――塔の内部に組み込まれたわしの一部を引き抜いてくれんかな?
「………は?」
吏史は惚けた声を上げた。
リオやカミュールも状況を上手く飲み込めず、揃って戸惑いを覚えて怪訝そうな表情を浮かべてしまう。
「それは……いったい、どういうことですか。つまり『塔』の内部にあなたの一部があるとでも?というか先から情報量が多くて混乱が乗じてるのですのが……」
「これも、そのままの意味でしかない。わしは嘘はつかぬよ。嘘は虚構でしか優位に立てぬ卑怯者が用いる手段と嫌悪しておるからな」
根先を揺らしつつ、カミュールには何処かしら棘を含めた物言いで返すビルダの話は続く。
「わしはな、数代前のエファムに己の一部を貸し出した。地下に街を展開できるほどの異能的支柱を欲された為だ。『ネルカルが育つまで』を誓約にして渡したのさ。……だが、リオから現状の六主の話を聞いて……今は条件が満たされたと判断しておる」
「えっと、つまり。支柱が必要無いほどルナリナが成長してるから……貸したものを返してってことなのか?」
「うむ。概ねその認識で違いない」
吏史の解釈を肯定するように根先が上下に揺れていく中、カミュールは眉間の皺を深めていく。
「それって、本当に取ってよろしいものなんですか?流石に『はい分かりました』と軽く快諾するのは危険ではないと予感してるのですが……」
「確か、一時的に地盤安定させる為に埋め込まれたはずよ。設計自体はヴァイスハイトが主軸となっていたからなぁ、彼の末裔に聞けば――」
「居ませんよ」
鋭い否定をカミュールから受けたビルダは根先を丸める。
「おや、まあ、そうかい。今は世がごちゃごちゃと荒れてるようだから……そんなものか」
驚愕することもなくアッサリと受諾して飲み込んだ。
「しかし血縁である君がそう答えるなら、判断自体も難しい話かえ?」
「ええ。そもそも僕の家族は先代カミュールの母しかおりませんがね」
「…………?あれ?」
会話に違和感を抱いたリオが頭上に疑問符を浮かべる。徐に空を見上げ、首を大きく横へ傾けた。
「もしかしてお前、サージュ=ヴァイスハイトの娘?」
「まあ、はい。とても不本意かつ不名誉なことに………一応血縁関係ではあります」
「!!?」
特大級の衝撃を受けたように吏史が口を開けて驚愕し、身を戦慄かせる。
後に長らく深く熟考するよう、顎に手を当てて眉間に皺を寄せた。
「………えっと。つまり、カミュールはオレの『お姉ちゃん』ってことか?」
捨てられた云々という複雑な話より、ひとまず家族関係があるのかと真剣な面持ちで告げられた。
割と真面目に考えるべきではない内容ではある。
だが、カミュールの表情はスッと抜け落ち、能面めいた真顔になる。
「………………………………………。お姉様がいいです」
「いや呼称訂正要望言うのかよ」
間を開けての返答が否定か罵倒ではないことに、白けた面を浮かべたリオが素早く突っ込むのだ。
「なんだ。『ゴエディア』、お主はヴァイスハイトに育てられたか…」
「ん?ああ。そうだ。だけどオレはサージュがアストリネであったことも知らなかった。建築図面の書き方とかは……特に学んでないから、悪いけどよくわからない」
「ならば仕方ないが……それでも引き抜いてほしい。そろそろ腰を伸ばさないとどうにもなぁ……」
「……?いや、なら、何かしらの褒美とか出したら?」
未だ引かないビルダに見かねて、リオが提案する。
「……ふむ。そうだな。その案に乗るとしよう」
ビルダは無碍にすることなくその案に乗り、吏史へ依頼を持ちかけ直す。
「では引き抜いたら、わしがお主の願いをできる範囲で叶えてやろうぞ」
「………………それって。実質、何でもってことか?」
「ああ。無論、願いの内容は遠慮しなくていい。始祖は願いを叶えるのが得意だ」
何でも叶えられるというとは破格の条件ではある。吏史としてもビルダの異質さは感じ取れていた。
望むものを伝えれば、彼の言うとおりに可能範囲で叶えてくれるのだろう――と。
「願い…………か………」
そうした予感を覚えつつも、吏史は悩まし気な表情を浮かべるだけで、承諾しきれてない。
〈大事な存在を失いたくない〉
――これは自分で叶えるべきだと決めたもの。
〈悪意の権化である月鹿を倒す〉
――これも自身で成し遂げるべきもの。
「ジルを………」
「うん?」
「えっと、………ごめん。これは……何でもない」
無意識に溢れた言葉を口を噤み、かぶりを振って即座に訂正と否定する。
(……何を言いかけて……最後に見たあの幻影は、笑顔で手を振っていただろ)
蘇生を望もうが、きっと一方的な想い。他ならぬ彼女自身が望んでない気がしてならないのだから、慎んで然るべき願いだ。
だから、結局――吏史に多くの願いはあってもどれもが他者に任せて甘えられるようなものではない。
「何かあるのだろう?ほれ、いうてみろ」
「――……いや、別に。オレからあんたに叶えてほしいのも特に無い」
息を吐き空を仰ぎながら、吏史はビルダに答える。
「なんと。………番が欲しいという欲もないのかえ?」
「え?いや、別に。家族同然ならもう居るし。今だって……そうだ。オレはオルドのことが心配なんだよ。願いは特にないから此処から早く出してくれ」
当然と答える吏史に対し、何かを噛み砕き頷くように、ビルダの根先が何度も揺れていく。
「――『早期退出』、これが願いで本当に良いのか?このままでは、オルドヌングはじきに消滅するぞ」
異色の双眸が瞳孔ごと大きく瞠る。
「なんで!!オルドに何をした!!」
憤慨に満ちた怒声を上げた吏史にビルダがククッと喉を鳴らし、せせら笑う。
「何もしてない。彼奴が決死の覚悟でわしに全て捧げたまで。祝福を与えたのもわしだったからこそ、エファムではなくこのビルダの管轄内になっていたのも要因だな」
知ってる事実を鷹揚に語り、吏史の関心を引いていく。
「彼奴は、全てを擲ってでも脅威に立ち向かうことに決めた。――それは誰のためだと、お主は思う?」
ビルダは返事を得る前、意地悪くも理由を突きつけた。
「お主のためだ。『ゴエディア』。奴はシェルアレンとの夢に生きる奇跡を選ばず、お主に未来を残そうと抗っておる」
極彩色の根先が引いていく。腰掛けるようにも根はとぐろを地面に巻き、ビルダが再び吏史へ意を問いかける。
「さて、どうする?」
動揺や困惑と感情が錯綜し、入り混じって双眸が瞠る少年に向けて、そっと撫でるような声で囁く。
「もう一度問うぞ。どうするのだ?『ゴエディア』よ。――わしの一部を引き抜いてくれたならば、お主の願いをできる範囲で叶えてやろう」
「わかった」
今度は、迷う素振りもない。これ以上大切な存在を失うことに耐えかねるが故に、吏史は躊躇を捨てる。
「あんたの一部を引き抜く。その暁にはできる手段を、オルドを助けてくれ」
己は破壊でしか何かを成し得ない。諦念し切ってるからこそ、ビルダが始祖を名乗る異形であろうとも、あらゆる忌避を捨ててでも利用できるものは使うべきだと意を決した。
その選択を――始祖に並び立つ蒼穹は真顔で見届け、隣に佇む碧空が目を細めていく。
「あい、わかった。引き受けよう」
極彩に煌めいた根は、喉を鳴らすような調子で快諾した。
同時にガサッと草むらを掻き分けて黒鼻は覗く。
これまで姿をくらませてた白雪がカミュールの隣へ駆けて寄り添う。
カミュールは白雪を一瞥し、無言で頭を撫でた。後は流れるようにも吏史の腕を掴むが、当人は反応もなければ口開くことすらない。
「…………」
疑心と動揺と悲観で荒れ果てて、切迫する心情を見かねるように、ゆっくりと瞼を閉じた。
◆
――眩しき陽光を前にしたアルデの桜瞳が細められた。
見上げても強い光に当てられるだけだ。
己に暗き影が浮き彫りになり、どうにも惨めな心地に立たされてしまう。
「…私が間違っていたというのですか」
友を信じてやれず、裏切り者と断定して救わぬべきだと切り捨てた。
真意を汲み取ろうと様々な憶測を立てることもせず冷酷に状況変化を起こす力を優先した。
――だけど、目の前の現実はどうだ?
この絶望的状況を覆さんと現れたのは、ヴァイオラが不要と見捨てたオルドヌングではないか。
必死に救おうとしたディーケも今は黒き『遺児』に纏わりつかれてない。
無論、ヴァイオラが成し遂げたことではない。
オルドヌングが一掃するように『遺児』を回収し、性質変化を表す黄金へと変えながら――呆気なく窮地を救ったことだ。
じきに、ディーケも目覚めるだろう。全身啄まれたとはいえ彼の回復は驚異。
起きてしまえば月鹿の暴虐も強制的に止められる。――否、ヴァイオラが関与せずとも解決するだろう。
無意味で、無力。精神だけで覚悟をしようとも、それだけでは正しさは掴めないのだと痛感した。
「叔父様。………シェルアレン様。私は、いったいどうすれば良かったのですか………」
小さな吐露を零したヴァイオラは黄金に照らされた夜空を見上げて、膝から崩れ落ちてしまう。
咄嗟にイアンが肩を掴み支えたが、その感覚もどこか遠いものに感じていた。
地の嘆きは置いて、宙に翼が羽ばたき、燃ゆる金糸は風にたなびく。
金色の軌跡を描き空を舞う太陽を堕とさんと細剣の牙突という嵐が迫る。
漂う粒子が片翼へ収束し、鎧を形成してはオルドヌングの身を覆った。
刹那。白雷が幾度となく烈しく弾ける。
だが、雷光は『遺児』で構築された鎧を剥ぎ取れない。ミクロン単位で結合した集合体は衝撃を受けて削がれようとも即座に分裂する形で修復を果たす。
幾度の閃光を走らせる猛撃の波が静まり返った瞬間、翼の隙間から据えた翡翠瞳の眼光が覗き、黄金の剣が差し迫った。
「ッ!」
眼前にまで迫りくる大剣を、サージュはすんでのところで背を仰け反らせては避ける。
頬の表面が栗色髪の一部ごと斬られてしまい、血と髪が宙に飛散した。
回避されたオルドヌングは、瞬時に大剣の柄を持ち替えて、今度は胴体を叩き切らんと大振りに振るう。
「チッ!」
翠玉瞳を煌めかせたサージュが鋭い舌打ちを鳴らし、無理に横転する。
透徹の氷を己の身に纏わせて重量を増加。加速を得て地上へ急速落下を果たすものの――
「今更逃げるのか?」
滑空したオルドヌングがサージュに追いついてきた。
「んなわけ」
ハッと鼻で笑い、細剣の柄を強く握る。
金と白の剣戟が目まぐるしく展開された。数十以上にも渡る強烈な撃が場に渡る。
余波で浮かぶ氷塊は粉砕し、鋭利な破片を浴びさせるが、オルドヌングの身に着弾する前に粒子が護り弾く一方で、サージュは赤線の切り傷が重なっていた。
(悪法ではない正攻法。“開花”を果たしても、使える異能は変わらないはずだ。粒子の正体は……変質化した『遺児』……こいつ、『遺児』の意識統合したのか?)
撃ち合いを続けながらサージュは分析する。
手が痺れを覚え始めた頃合いで、つま先で地面を踏み、三つの氷柱を隆起させてオルドヌングへ向かわせた。
両翼が羽ばたく。主を護らんと羽交する。
すぐに羽先が白刃めいた形状に変化を果たし、触れる前に振り払われる。
翼が起こした暴風は迫る氷柱を破砕するだけではなく、対峙者を吹き飛ばすだけの威力をも要していた。
「……………!」
少女の肉体では到底踏みとどまれない。
風に身が浮いた瞬間、距離を縮められた。
(早―――)
視線を腕へ。剣を警戒する。――しかし、オルドヌングの本命はガラ空きの懐だ。
「ッ、が……!」
腹部に深々と脚甲に包まれた膝が食い込み、生理的に咳き込む。
容赦無く壁へ叩きつけ、全身の殴打を浴びせていた。
薄き氷の壁を層のように重ねて衝撃緩和を図ったものの、所見は小細工。悉く紙のように破られた挙句、衝撃は強く全身が麻痺してしまう。
「…考えてみれば、あなたは滅多に戦場へ出ることはなかったから、撃ち合いに弱くて当然か」
己に圧倒されて醜態を晒す展開に大して驚きもせず、冷淡に評価を改めるようにもオルドヌングが呟くのだ。
「………ックソガキが……!」
笑みを象る口元を引き攣らせて、頬に青筋を立てる。
忌々しげにも翡翠瞳を見据え、口元を乱暴に手で拭った。後に、距離を詰められまいと予備動作もなしに氷の銃を編み出しては即座にトリガーを引く。
迫る氷弾に、オルドヌングは眉間に皺を寄せる。
今度は自らの翼で庇うことはせず、その場から飛び立つ形で避けていた。
(逃げたな)
サージュが視線で追う最中、不着した地面に変化が訪れる。
それは弾ではなく荊を模した氷の拘束だ。
まともに撃ち合うのを無駄と判断したサージュの試作にして――思案。
根のように這い出る形で、ソレは現す。
冷気を振り撒き根付く先を求めては地面に蠢いていた。
(――なら、今度は通常通り)
氷を無遠慮に踏み潰してザクッと霜柱を破砕され音を立たせて、心内で呟く。
(投網っぽいのに絡まれて無様に墜落してたら笑えたのに、ほんと空気読めないよなぁ。昔っからノリが悪いしエンタメの理解が薄いというか)
(しっかし『 』は林檎すらまともに剥けない破壊神だったねぇあれには笑えた!ダメなのはネーミングセンスだけじゃなかったよ!)
(ところでシエルの焼いたナッツパンケーキは美味しかったねぇ、あのレシピの考案者は僕なんだけど)
(ついでとはいえ娘の件はありがとう。お前ならなんだかんだで助けると思ってたよ)
(これは耳寄りの話なんだが、セレドはお前をね……)
但し、戦いとは無関係な話題を五方向同時で投げかける。
無意味ではない。これまでのオルドヌングならば情報の奔流に惑い、思考力が鈍る策だ。
経験から培った仕込みをした上で、引き金を弾く。蒼の弾丸の驟雨をオルドヌングへ浴びせにかかる。
しかし今度は、避けられることもない。
変質しないただの弾では撃ち落とせないと示されるように。黄金の翼が羽ばたき、横一閃に剣が振るわれ、氷弾が一掃された。
(………へぇ)
だが、サージュはその動作で十分な情報を得れた。確信に唇の端が上がる。
(今の反応でわかったよ。お前さぁ、僕の思考を厳選して覗けてんな?――そうなんだろ?クソガキ)
心内で語りかけつつ空に舞い続ける隼を見上げれば、金糸の隙間に覗く燦然と輝く翡翠瞳が細まった。
(つまり、開花したお前には“情報フィルター”が設置されたわけか。僕みたいな膨大な情報を持つ奴でもただ受けて脳神経が焼き切れるデメリットはなくなり、必要とする情報だけ抜き取れる、と)
まさに心理掌握異能の完成形。故に厄介と言える。
(なら――近づかれたらアウトか。今のお前なら僕の弱点も読んでると踏んだほうがいい)
判断し終えたサージュはひたすらに氷弾を放ち続け、距離を取らせる。オルドヌングは宙を旋回して避けつつも虎視眈々と接近の機会を伺う。
だが、隙がないと気付いた翡翠瞳が瓦礫の一部へ目線を傾け、粒子へ指示を送る。
意に従い収集した『遺児』は、煤汚れた瓦礫を黄金の大岩へと変化させ、サージュに迫る杭となった。
それを前にしたサージュは軽やかな横転で対処し、大岩の直撃を免れる。
大岩が起こす衝撃を背で受ける中で小さく息を吐き、再びオルドヌングへ銃口を突きつけては氷弾の嵐を展開し続けていた。
(膠着状態。正確には状況は不利。さて、時間経過による対象の外観変化は………)
策を練り上げようと思考を回す。僅かな変化はないか、視線を巡らせて分析にかかる。
やがて翠瞳がオルドヌングの紅の羽毛を、花を模るそれが枯れていく様を視認した。
(………。時間制限アリと仮定する。こちらの勝利条件は『現状維持、或いは逃げ切り』といったところかな?)
心内で問いかけては薄目で笑う。
だが、サージュは驕らず弁えていた。あくまで推測でしかない。
実際問題これは虚勢だ。相手は初出にして未知数。そもそも枯れれば終わるかも不明なのだからあくまで仮定として置くべきだろう。
そもそも、この場において自身以外は敵。ジリ貧状態にあるのは間違いなく、サージュだ。
「――まあ、この状況で普通にやりあっても時間の無駄かなぁ」
故に、意思決定や決断も早かった。
そもそもサージュはこの場で果たすべきことも既に終えている。
徐に、着用していたピアスに触れていく。接触により緻密に組み込まれた異能が発揮した。
サージュの背後には円状の青光が生まれ、包み込まんとする。
「――は!?『門』!?なんで、こんな急に現れて………」
「開発された小型式の『門』は完成しております。………但し量産ができておらず、試作品含めてグラフィス様が保管していたはずですが………」
「はいぃ!!?それがマジなら『門』が取られたってことで…――このままじゃ……あの子に逃げられちまうだろ!」
慌てふためいたイアンが真顔のアルデと会話を交える。
絶叫じみた声が響くと同時に、サージュは勝ち誇るように笑い、オルドヌングは眉間に皺を寄せた。
「それじゃ、この辺で。バイバー―――」
この場を後にせんとサージュが転移の青光へ身を投じる前。
――刹那。
黄金の粒子はオルドヌングの前で瞬時に集い、弓と矢へ象る。
やがて脚甲に矢が掛かり、その剛脚に弦が引かれた。狙いを定める間もない。
『遺児』の塊である一矢はある種の鉄槌のようにもサージュへ放たれて――空中で冠の花火のようにも派手に、弾けた。
「―――っ………は………何……!?」
閃光に目が眩んだ後、サージュに動揺が上がる。
なんと転移の『門』は維持できず、敢えなく霧散していたのだ。
(………ぁ、あいつ、ミクロン単位の『遺児』を『門』へ直接干渉させることで、電気結合の阻害をしたのか……!!)
横目で『門』の崩壊を視認しながら、状況分析理解まで果たしたサージュの笑みが完全に消えてしまう。
漸く抱いた動揺と隙を突くように、オルドヌングは地上に降り立つ。
一秒経たずにその懐へと潜り込んでいた。
(お決まりの台詞くらい言ってからやれよ!)
「言うかよ」
心内の叫びも煩わしいと一蹴し、黄金の剣が胸部めがけて振り上がる。
(お前……ってやつは、んとうに…!)
サージュは内心で悪態を吐き捨てて、異能で応じようと手を後方へ下げた。
――しかし、その腕は大きく傾く。地の方へ付ける勢いで重心が崩れてしまう。
「!?――――ッ!」
表面の皮膚だけでは済まされない。骨まで軋ませる負荷は容赦なかった。サージュの腕という形を轢き潰し、捻り切った赤い雑巾のように拉させるのだ。
走る激痛に片目を瞑り、悲鳴を堪える中。サージュは起きた事態を即座に理解する。
(これは、重力か……!)
無論、その原因と正体についても逐一思案するまでもない。
忌々しげにも視線だけ元たる南方へと動かせば、それが佇んでいる。
「…あまり、舐めないでもらおうか」
全身啄まれた苦痛に構わず現れた介入者が抱く珊瑚色の瞳は、眩耀に煌めいていた。
「………うっっざー…………」
打つ手を封じられたサージュの歪んだ顔ごと断ち切らんと、黄金の剣閃が走り行く。
災厄振り撒く狂気の道。その閉幕を降ろすように。




