決行(2)
「よう、俺が最後だぜ。」
最後尾を告げるウェイクの到着を聞き、城の扉の前で待っていたシリカが皆を見回す。アンデルはソユを呼び出し、雨を降らせて炎の壁を消す。
「ポール、ヘパイス、ブルックリン、ジャスパー、ゴン・・・ありがとう。」
シリカは俯きそう呟くと、城を見据えた。
「『調停者』の数は思ったより少なかった。城内に相当数配備されてるはずだ。ここからは死闘になる!覚悟しろ!」
シリカの檄に皆が呼応したところで、扉をあけ放ち雪崩れ込む。
「我々が道を開きます!」
元兵士達が先頭へ躍り出る。勝手知ったる元職場だけに、最短距離をずんずんと進む。しかし、階段に差し掛かったところで足を止めた。
「どうした?」
「王子、この階段を上った先の廊下は兵を潜めておける小部屋が両脇に続きます。」
元兵士はシリカの目を真っ直ぐ見つめながらそう進言する。
「仕掛けて来るならここか・・・」
シリカは顎に手を当てて悩む。
「我々が囮になってひきつけます。その間に迂回して玉座へとお進みください。」
「だめだ。」
シリカは間髪入れずにその進言を退ける。
「なぜ!?」
「そんなこともわかんねえのか?」
動揺する元兵士にウェイクが口を挟む。
「腹心のあんたらが死んじまったら、クーデターが成功しても王子は孤立しちまう。」
「しかし、それでは・・・」
「お優しい王子の気持ちはよくわかるだろ?だから俺達も一緒に囮になる。」
「え?」
「ウェイク!?」
ウェイクの言に、慌てるのはシリカとアンデルであった。
「騒ぎは大きい方がいいに決まってるの。」
「イムカ!?」
イムカもウェイクの隣に並ぶ。
「旦那や姐さんがやるってんなら俺達もひと暴れするか!」
「ウェイクの馬鹿さには呆れるぜ。」
劇団の元冒険者達も次々と階段の下に集まる。そこにはエバの姿もある。
「セレンさん。王子をよろしく!」
「勿論です。」
「ノンノン!論オブ勿っていうんだよ!」
「ロンオブモチ。」
シリカとアンデル、セレンを除いた皆が囮になる気なのを見て、アンデルは笑った。
「待ってください!犠牲を少なくするためにも囮は却下だと私は・・・」
「優しすぎるんだよ王子様。」
慌てふためくシリカに、ウェイクはぴしゃりと言い放つ。
「あんたの優しさは美徳だ。だかな、今やってるのはクーデターだ。たとえ最後の一人になっても成功しなきゃなんねえ。」
シリカは俯く。
「腹くくんなさいよ。」
イムカがそう言い放つと、アンデルはシリカの肩を叩く。
「信じて行きましょう。」
「アンデルさん・・・」
シリカは顔を上げると、唇を噛んだ。
「皆、死ぬなよ。」
そう言うとシリカは走り出した。アンデルとセレンも後を追う。一度だけアンデルが皆を振り返ると、ウェイクもイムカもオットーも、エバまでもが親指を立てて笑っていた。
ーー人の気配を感じない廊下を、シリカを先頭にセレンとアンデルが走る。宮仕えの者達は騒ぎを察して隠れているのだろうか。
「あなた達はすごいですね。」
「え?」
シリカがアンデルに話しかける。
「お互いの事を信じあっている。」
「まあ仲間ですから。」
時には喧嘩もするし、意見が合わないこともあるが、助けて欲しい時は助け合える。そんな仲間達がアンデルの自慢である。
「仲間・・・私は部下しかいませんね。成功したら仲間を作るとしましょう。」
そう言ってシリカは笑った。
ーーウェイクを先頭に、階段を上る。
「おっさん、ほんとに敵さんはここで仕掛けてくるのか?」
ウェイクはシリカに進言した壮年の元兵士に尋ねる。
「誰がおっさんか!これでも元兵士長なんだぞ!そもそも王子への口の利き方もなんだあれは!」
「ちょっと敵前で大きな声出さないでよ。」
イムカにちくりと言われ、元兵士長は言葉を飲み込む。
「ぐむっ、ぬぅ。絶対に来る。最短距離で玉座の間へ向かう経路で、ここ以外に兵を配置する場所はない。」
「よっしゃ!なら精々暴れて全員引きつけてやろうぜ!」
ウェイクが躍り出ると、皆が続く。階段を上りきると、左右に扉が林立する廊下が伸びている。その廊下を一団が駆け抜ける。半ばに差し掛かろうかというところで、扉が一斉に開き、『調停者』が飛び出して来る。およそ五十近いオートマトンが、一団に襲いかかった。
「一人一殺だ!エバは近くの部屋に安置を作ってくれ!」
ウェイクは大剣の振れない狭い廊下を嫌って、扉から出てきた『調停者』を蹴り飛ばし部屋に押し戻した。
「アイを狙えばいいんだよね。」
オットーは次々と矢を番え、『調停者』の目を的確に狙っていく。風を切って殺到する矢を『調停者』は軽々と躱すが、狭い廊下であることが災いして、躱しきれずに矢を受ける者も何体かいた。それを見落とすことなく元冒険者がロングソードを片手に突っ込む。
「いただくぜ!」
目に矢が刺さった『調停者』に、ロングソードを突き出す。『調停者』は腕を交差してそれを防ぐ。鉄と鉄のぶつかる金属音がして『調停者』は壁を破り、小部屋へと抜けていく。その後を追うように元冒険者も穴へ飛び込んで行った。
「ぐっ!」
元兵士長が『調停者』に斬られ、片膝をついた。そこに横からイムカが飛び込む。イムカの双剣の一撃は、『調停者』の剣で軽々と受け止められる。
「そっちの小部屋へ!」
イムカが指を差す。
「かたじけない!」
元兵士長はエバのいる小部屋へと飛び込んだ。別の『調停者』がその小部屋へと飛び込もうとするが、エバの作り出した電撃の壁によって阻まれる。
「エバの電撃のカーテンは人間とオートマトンを区別できるわ!怪我人はそっちへ!」
イムカは皆に聞こえるように指示を出す。その隙をぬって『調停者』がイムカに飛びかかった。
「甘いのよね!」
イムカは双剣で『調停者』の剣をいなし、斬りかかる。その一撃は『調停者』に弾かれるが、返す刀で更に追撃する。『調停者』が弾き、受け止めても、イムカの双剣はさらに速度を増して斬りかかる。
「そんな速くないじゃない。」
ついには『調停者』の指を斬り飛ばす。剣を持てなくなった『調停者』は後ろに跳んで距離を置こうとするが、そこをオットーの矢が襲った。両目に矢が刺さり視界を失ったところで、後ろに回り込んだイムカが首に双剣を放つ。鋏のように左右から挟み込んだその一撃は、金属音とともに跳ね返された。
「硬すぎ!私には無理だわ。」
そう言うとイムカは『調停者』を置き去りに次の獲物へと向かった。
ーー斬られた傷は浅く、軽く止血したところで、元兵士長は戦慄していた。
「なんだ此奴らの強さは・・・」
元兵士達が『調停者』にキリキリ舞いにされ、次々と傷ついているにも関わらず、マクスウェル劇団の元冒険者達は次々とオートマトンを仕留めていく。
「特筆すべきは・・・」
オットーの正確無比な狙撃は、的確さもさることながら、その速射性に目を見張る。大量の矢の雨がたった一人によって生み出されている。
「それにあの黒髪の女・・・」
イムカの舞うように繰り出される連撃は、元兵士長の目では追えなかった。気付いた時には『調停者』の指が斬り飛ばされていた。
「それからこの少女。」
小部屋に入って来る者が味方か敵か自動で判別する電撃のカーテンなど、恐ろしく精度の高い魔術に違いないと、魔術に疎い元兵士長でもわかる。突入時の炎の壁も並大抵の魔力ではない。
「そしてなにより・・・」
ウェイクは暴れていた。体は自分の流した血で染まりながらも、『調停者』を一対一で次々と屠っていく。
「陽動どころか全滅させちまってもいいんじゃねえか!」
ウェイクが吼えたところで、奥からさらに五十体ほどの『調停者』が来た。
「いいぞ!城中の『調停者』は全部こっちに来い!」
傷だらけのウェイクは笑った。




