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決行(3)

「前方より戦闘音あり。」



 セレンがそう告げる。シリカを先頭に、アンデルら三人は大きく迂回し玉座の間を目指していた。



「引きつけてくれているようですね。」



 セレンが倒した『調停者』の残骸を飛び越え、シリカが呟く。その声色に若干の心配が混じっていることをアンデルは聞き逃さなかった。



「皆なら大丈夫ですよ。」



 シリカはアンデルに視線をやると、両手で頰を叩いた。



「私が弱気になってはいけませんね。仲間を信じましょう。」



 アンデルはシリカに頷いてみせる。



「およそ五十メートル先にて交戦中。」



「その十字路を左に曲がれば玉座の間につきます。ゼファーもそこに。」



 真っ直ぐ伸びる廊下の先では、囮を買って出た仲間達の戦闘が見える。吼えるウェイクの足元に、『調停者』が何体も倒れ伏しているのが遠目にわかる。アンデルらが向こうを視認できるということは、向こうもアンデルらが玉座の間へ向かっているのを認識しているということである。『調停者』が何体かアンデルらの元へ向かってくる。



「しまった!ばれたか!」



 ウェイクが注意を引こうとするが、脇目もふらずに『調停者』達は走ってくる。このまま行くと玉座の間に着く前に捕捉されてしまうであろう。



「仕方ない、やるか・・・?」



 セレンを始め、アンデルが臨戦態勢を取ろうとしたところで、影が前方に躍り出た。



「ヒカゲ!」



 曲がり角に一足早く着いたヒカゲは、直刀を片手に立ち止まる。そして両手を広げて駆け出す。しかし、ヒカゲの一撃は『調停者』の一体に受け止められる。その脇を『調停者』が次々とすり抜けて行く。



「主よ、ここは某が承った。」



 ヒカゲがそう言うと、アンデルらに飛びかかった『調停者』達が、不自然に空中に制止した。



「頼んだぞヒカゲ!」



 アンデルはそう言い残し、角を曲がる。アンデルらが玉座の間へ向かったのを確認すると、ヒカゲは左手を握りしめる。すると宙空で制止していた『調停者』達が締め上げられる。ヒカゲは通路に糸を張り巡らせ、すれ違った『調停者』達を絡め取っていたのであった。



「推して参る。」





 ーーアンデルらは駆ける勢いそのままに、玉座の間の扉をぶち破る。



「ゼファー王!」



 シリカが大声で父親の名を呼ぶ。



「ちっ。シリカよ。何のつもりだ。」



 玉座に座ったトリス国王は、水晶球を片手に忌々しげにシリカを睨みつける。



「ゼファー王よ、あなたの考え方は間違っています。『調停者』は兵器ではないし、トリスの進む道は戦乱ではない!」



 シリカは舌戦を仕掛けるが、ゼファーは鼻で笑うだけで取り合わない。



「ならば貴様の考える小国トリスの進むべき道とはなんだ?」



「豊かな国を作り、周辺国との協調こそが正しいあり方だ!」



「ふはっはっはっは!シリカよ。貴様は甘すぎる。国政とは綺麗事ではない。」



 一笑に付したトリス国王は、玉座の脇から一本のレイピアを取り出す。シリカも腰の剣に手を伸ばした。



「トリスのような小さい国は取り込まれるのが目に見えている。」



 そう言って切っ先をシリカに向けた。



「やれ。」



 ゼファーの号令とともに、『調停者』が現れる。その数は十体。セレンがシリカを護るように立ち塞がる。



「シャイニング!」



 アンデルが目眩しを試みる。『調停者』はバラバラに散らばり、縦横無尽に襲いかかってくる。目眩しに成功したのは二体のみであった。



「アクアスクリーン!」



 アンデルは自分とシリカの周りに水の膜を展開する。水の膜は『調停者』の一撃による衝撃を吸収する盾となった。その間に目眩しによって視界を奪われていた二体は、セレンによって始末されていた。



「ここは私が。王子はゼファーを。」



 セレンに対し、シリカは頷いて走り出す。アンデルも後を追従する。



「ゼファー!覚悟しろ!」



 シリカは鞘から剣を抜き去ると、腰だめにした剣を突き出した。



「幼い頃から人形遊びばかりしていたお前に剣が扱えるか?」



 ゼファーはシリカの突撃をいとも容易くいなした。



「くっ!」



 シリカは袈裟斬りに剣を放つが、ゼファーは細身の刀身で軽々と受け止める。



「何が魔王討伐同盟だ。同じ組織に組み込まれたら小国は大国の傀儡だ!」



「それは違う!サンダーボルト!」



 アンデルが雷撃を飛ばす。ゼファーの動きが一瞬止まる。



「小賢しい!」



 離れた位置に立っているにも関わらず、ゼファーは剣を振りかぶる。突いて攻撃するレイピアにも関わらず、振りかぶったのだ。



「アンデルさん避けて!」



 シリカが叫ぶより早く、ゼファーは空を切り裂く。身構えていたアンデルは後ろに跳び退いた。しかし、絶対に剣の届かない距離にいたはずのアンデルは、袈裟斬りに斬られ血を吹き出した。



「な、に・・・?」



「アンデルさん!」



 シリカがアンデルの元へ駆け寄る。アンデルは膝をつき、ようやく自分が斬られた事実に気がついた。



「あのレイピアはトリス王国に伝わる国宝。神器ヴィン・タクトです。風の刃を生み出すあの剣には、間合いなどありません。」



 シリカの言を聞き、アンデルは理解する。



「風の刃が飛んできていたのか・・・後ろではなく横に跳ばなくてはいけなかったんですね。」



 アンデルは杖を支えに立ち上がる。



「アンデルさん!回復を!」



「いえ、回復をしている間、私は動けなくなります。それより、セレンさんの援護に回ります・・・」



 アクアヒールは水球の中で傷を癒す。従って身動きがとれなくなるため、戦闘中には使えない。アンデルは力尽きる前に決着をつける覚悟をした。



「シャイニング!」



 セレンによって残り五体までその数を減らしていた『調停者』の足が止まる。



「お見事です。」



 その隙を突き、セレンは一気呵成の猛攻で、『調停者』達を仕留める。



「セレン!行くぞ!」



 その勢いのまま、シリカとセレンはゼファーに迫る。セレンが盾になるよう先を走り、後ろをシリカが走る。



「お前も人形を盾に使っているではないか!綺麗事を言っても所詮は・・・」



 ゼファーが神器を振るう。風の刃がセレン目掛けて襲いかかる。アンデルが受けたのとは比べるまでもなく至近距離でセレンは風の刃を食らった。胴体で二つに分かれるセレンの姿を想像し、アンデルは目を瞑った。





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