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反乱前夜

「ウェイク、ここにいたか。」



 一見ただの岩山、しかしその実堅固な要塞であるシリカ派の隠れ家。その見張り台からウェイクは月を眺めていた。



「作戦はできたのか?」



 見張り台にあがって来たアンデルに返す。



「いや、ヒカゲに王城の様子を伺わせている。それ次第だな。」



 アンデルはそう言いながらウェイクの横に座った。



「それにしちゃ随分白熱してたな。」



 シリカは、アンデルが先のグラシエルとソファラの会戦において作戦立案に噛んでいたことを知っていた。その手腕を是非借りたいとの申し出を受け、先ほどまでアンデルはシリカと共に盤上で作戦を練っていたのだ。



「古代遺跡でゴーレムと戦った話をしたらシリカ王子が食いついて来てさ。ついついオートマトン談義に花が咲いてしまった。」



 シリカとアンデル。二人の趣味嗜好が重なってしまえば、自然と話が盛り上がってしまうことは必然であった。



「そりゃ頼もしいわ。」



 ウェイクの皮肉を受け、アンデルは苦笑いを返す。しばらくして、アンデルは真面目な顔で呟く。



「また人が死ぬな。」



「ああ。人間同士で争ってる場合じゃないっていうのにな。」



 ウェイクもアンデルに同調する。



「この間の戦、俺は双方に被害がでない提案をした。それでも、人は死んだんだよな。」



「ああ。それが戦争だ。」



 アンデルは自分の手の甲を見つめる。



「俺は戦場から離れていたから実感がないんだ。顔も知らない人間が俺の作戦のせいで死んでしまった。」



 ウェイクはアンデルの声に震えが混じっているのを確かに聞いた。



「怖いのか?」



「怖い・・・?ああ、怖いんだろうな。」



「それでもお前の作戦がなけりゃ被害はもっと大きかった。むしろ戦争を経験したことのないお前があんな作戦を思いつけることに驚きだがな。」



 アンデルは深呼吸する。



「なあ、ウェイクが経験した戦争を教えてくれないか?」



「ん?そうだなぁ・・・」



 ウェイクはしばし考え込む。やがて徐ろに口を開く。



「俺が初めて戦争に参加したのは十六歳の時だ。戦争と言っても小さな小さな反乱だったけどな。」



 アンデルは思わず隣で寝そべるウェイクの顔を見る。ウェイクは表情一つ変えずに続ける。



「俺はここからもっと西。ソファラの辺境の小さな村で生まれたんだ。王都の目の届かない辺鄙なところでな、領主が好き勝手やってやがったんだ。」



 ウェイクとは浅からぬ付き合いだが、東の大陸出身だと言うことをアンデルは初めて聞いた。ウェイクは自分の過去を語りたがらないのだ。アンデルの相槌もなくウェイクは続ける。



「圧政に耐えかねた村人は鍬や鋤を武器に持ち替えて立ち上がったんだ。でも、領主の私兵に蹴散らされてよ。戦争なんて呼べる代物じゃなかったなありゃ。一方的な虐殺だった。」



 淡々と語るウェイクにアンデルは声をかけられない。



「蜂起を返り討ちにした私兵どもの矛先は村に向かった。村に残っていた女子供まで虐殺の対象になっちまったんだわ。俺の母親と弟もそこで死んじまった。」



「弟・・・」



「ああ。五つ下の弟がいた。生きていればお前と同い年か?逃げろっていったのに、怪我をした俺をかばってよ。俺の目の前で串刺しにされちまった。」



 アンデルはウェイクと出会って間もない頃を思い出す。ヴァンパイアとの死闘の折、朦朧としていたウェイクが間違えたのは・・・



「次は俺か、ってときにたまたま通りかかった冒険者に助けられたんだ。事情もなにも知らず、子供が襲われてるのを見て飛び出して来たお人好しにな。自分が斬ったのが領主の私兵だって知って泡食ってたけどな。」



 ウェイクは愉しそうに笑う。



「その冒険者ってのがギリアムの旦那だ。」



「騎士団長が!?」



「ああ。何の因果か今は騎士団長なんてお偉いさんになっちまってるけどな。全てを失った俺はギリアムの旦那に頼み込んで冒険者としての基礎を教えてもらったんだ。最初はしぶしぶだったみてえだけど、旦那の教え方は厳しくてな。今考えれば旦那の下にいた半年間が人生で一番地獄だったかもな。」



「そうだったのか。」



 ウェイクの知らない過去を知れて嬉しい反面、物悲しい過去を知ってしまったアンデルは同じく月を見上げた。



「なあアンデル。」



「ん?」



 ウェイクはアンデルを呼んだ後、しばし黙り込む。ややあって発された言葉に、アンデルは何と答えていいのかわからなかった。




「力の使い方を誤るなよ。」






 ーーヒカゲの帰還の報を聞き、アンデルはシリカの下へ戻ってくる。



「状況を教えてくれ。」



「城門は固く閉ざされている。『調停者』が城の外にも姿を見せるようになった。」



 ヒカゲの口からは、王城が厳戒態勢に入っているという事実が告げられた。



「アンデルさんへの夜襲が失敗したことで、警戒しているようですね。私と合流したことも気付かれたと思っていいでしょう。これは計画を前倒ししなくてはいけないかもしれませんね。」



 シリカが悩ましげにこぼす。



「この厳重な警戒の中で奇襲を決めるのは無理です。警戒が緩むのを待ったほうがいいのでは?」



 アンデルが進言するも、シリカは首を横に振る。



「時間をかければ、ゼファーは姿を隠すでしょう。玉座で踏ん反り返っているうちになんとか城に潜り込まないと。」



「しかし、うーん・・・」




 結局アンデルとシリカの議論は空が白み始めても終わらないのであった。


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